姉ちゃん大変だ。ないよ。

世の中の美人は、数多くのブサイクに支えられている。

ブサイクがいるから美人が有難がられるのであって、美人の価値はブサイクの数によって決まるのだ。そこの所、世の中の美人はよっく分かって感謝して貰いたい。
そう、全美人は私に感謝すべき。
私、と言うか、私達に。

今じゃすっかり開き直って、ブサイクネタで笑えるし、ブサイクと言われてもスルー出来るようになったけれど、思春期はそうは行かない。
後ろで男子がブサネタで盛り上がっていると、自分の事だと思って睨みつけてしまい、虐めの標的になったり。
とにかく、隙を見てはブサイクに凄く傷ついていたものだ。
世間は美人とその他に判別するだけで、個人個人の眼鼻の大きさや位置に興味はないのだが、○○ちゃんは可愛い、の言葉の裏に、「お前と違って」なんて、ありもしない一行を読んで凹んでしまうくらいには囚われていたのだ。

自意識過剰だ。
でも凹む思春期ガールは、どうしようもない。

財力があれば、整形という手に出ただろう。
一歩踏み出す度胸があれば、化粧でもよかった。
でも臆病な私は、何もしなかった。
私のような顔で化粧しても。私のような奴が話しかけても。そんな風に縮こまっていたと思う。

外では。

「姉ちゃん大変だ。ないよ、ないよ」

その日は一体何でそうなったのか、たまたま学校帰り、一緒に帰った事もない女子五人で駅前を通った。
その時、たまたま。本当にたまたま、私の弟がそこで遊んでいたのだ。
生意気な小学生で、私と同じようにブサで、でも私と違って仲の良い子二人と駆け回っていた。

無視するのもおかしいので、よ、と手を振ると、弟が駆け寄って叫んだのだ。

「ない!」
「ないって、何が? なんか落とした?」

「姉ちゃんの鼻がない」

は。反射的に弟の頭をべしっと叩いた。
何言ってんだこいつ。よりによって今。ブサネタか。ブサネタなのか。
弟は痛いと文句を言いながら、あっという間に去っていった。

ぷっ。
背後のクラスメートが噴き出す。ブサネタで笑われたと思った私は、諦めて振り返る。はいはい、蔑むんでしょ。いいですよ。
と予想外にパン、と肩をたたかれた。
「今の弟? かわいいじゃん」
は?
「仲いい~~。面白~」
は?
「○○さんのツッコミ初めて見た」
は?
「いつもあんな感じでいればいいのに」
はぁ?

それからは、何だかんだ話すようになって、気付けば私はブサイクリーグの中で気楽に暮らせるようになっていた訳で。
思えばあの時。
弟のあの一言が無かったら、そう思うと遠い目になる。
あの何気ない言葉が。恐らくは何も考えずに言われた弟の軽口が。

私を救い上げてくれたんだと。思う。

絶対弟には言わないけれど。




#君のことばに救われた

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