35 背水の陣からの起死回生
契約書は決して見られないところに置くように言われていた。だいぶ奥底に隠したつもりだった。
だがわたしの態度の変化、さらにたまたまInstagramを読んだこと、在宅勤務も手伝って証拠探しにやっきになった夫は家捜しをしたのだ。
契約書の保管場所には、夫の会社カレンダーをプリントアウトした資料も隠してあった。
「俺の会社のカレンダーも会社の誰かにもらってるよな?どうせC子とかだろ?」
鋭い。
在宅中、Instagramを読んで家捜しをして、証拠を見つけて目を通した上で、夫はサラッと「最近なんか様子が変だけどなんかあったの?相談したいことがあったら言って」と私にLINEしていたのだ。
なんというあざといやり口。まずはわたしの腹を探りあわよくばわたしから口を割らせる手口。罪の意識はひとかけらもなく、ただわたしがどこまで握っているかを探りたい一心の言動。
…そうか、夫はわたしがどこまで情報を握っているか気が気ではないのだ!
夫から見たらわたしは、LINEを見てnaomiの存在を知り探偵を雇った。探偵を通じてどこまで真実に迫っているのか。naomi以外の女のことはバレていないか。
ただ自分からみすみす口を割るわけにはいかない。
わたしは敢えて感情的な声を出した。
「naomiは本当は東京に住んでるんじゃないの??もうウソはやめて!」
「違うよ地元だよ。高校の同級生でずっと地元に住んでる人だよ」
「本当に?本当にそうなのね?それなら探偵を雇ったのは意味がなかった。私のアテがはずれたってことだわ。最初の探偵では何の証拠も得られなかったの。だから別の探偵にもお願いしようとした。まだ二つ目の探偵事務所とは契約を結んだだけ。けど、naomiが東京の人ではないのなら、もう探偵に探ってもらう必要はない。高い勉強代だった。明日にでも、経緯を伝えて契約は破棄する」
夫は静かに聞くだけで、悪びれもせず、動揺もしない、謝ることもなかった。