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55 慰謝料の話をする

謝罪のセリフも録音できた。そろそろ仕上げた。

「あなたにこんなことを言いたくなかったのですが…
謝っていただいたそのお気持ちをやはり形にして見せていただきたいです。そうでないと納得できません。そこで慰謝料の請求をさせていただきます」

「お金では解決できないことだと思っていますので、もちろん支払わせて頂きます」

意外にあっさりと同意をした。

あとは金額交渉だ。

不倫の慰謝料は弁護士を雇うと上限300万円と言われている。年収の3分の1が相場だそうだ。Zは役職についていて、その役職者の年収をわたしは握っていた。相場からすると慰謝料は300万円。

ただ探偵には「値踏みは自由」と言われていた。500万円でもこの業界では相当な勝利の金額だ。たとえ値切られても業界最高値の500を目指すためわたしはその上を提示した。

「各所の専門家にも相談しました。わたしの気持ちとしては1000万でも足りません。そこで、あなたの年収を加味して800万円を請求します」

支払う側の合意に至れば慰謝料はいくらでもいいのだ。

この場から一刻でも早く立ち去りたいのか、はたまた少しは罪の意識を感じているのか。

「はい、支払います」

金額にもあっさり同意したことに内心わたしは驚いた。

もしもわたしがZの立場なら、自分に非があっても一旦は持ち帰らせてもらうように伝える。だが、人がいいのかそこまでも考えが及ばなかったのか、Zは首を縦に振ったのだ。

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