67 家族を利用した男が泣く理由
親権と養育費の話もこの場でしなければならない。
今日まで、わたしが自分のことを中心にではなく長男のことを第一に考えて進んだこと、自分の気持ちを押し出すことが果たして正解か分からず逡巡したこと、そんなことを話し始めた。
子どもたちの話が出た途端、出張中の電話と同じで嗚咽とともに泣き始めた夫。今度は、冷静に伝えた。
「あなたに泣く権利はない」
子どもと過ごす時間をすべて女に費やした人間が、それでも泣く心理とはなんなのか。
ほんの少しだけ過ごす子どもとの様子をSNSへあげていい父親を演出してきた夫。お飾りとして利用され続けた子どもたち。
良き父親としての顔を失う悲しみ?家族持ちという社会的ステータスを失う怖さ?
どんな心理にせよわたしの心は凍っていた。わたしや子どもたちの気持ちを踏みにじる行為をした人間の気持ちを組む義理はない。
自己満足な嗚咽がやむのを待ち、養育費と慰謝料について提示した。
金額に異論もなく、そのまま文書に起こすこととなった。公正証書の作成のために公証役場に行く日、離婚届にも判を押してもらうことを伝え、わたしはその場を後にしようと席を立った。
自ら口を開くことのなかった夫が、わたしの背中に呼びかけた。