76 嘘に嘘を塗り重ねて生きる男
さらに女性は続けた。
「再婚してしばらくはとくにお金の話は出なかった。ただいつくらいかしら。長男くんが少し大きくなったあたりからチラホラまたお金を借りたいって連絡がきたの。
はじめは子どもができて物入りで当座の出張費がない、とか。あとは、前のお子さんの留学費用とか。まぁLINEのやりとりを読んだのなら知ってるわよね。
そんなことばかりで、わたしは金づるなんだって気持ちで何度も嫌味のLINEを送りつけたわ。けど、その都度、謝ってきたり会社で会うと優しくしてくれて。わたしもこんな性格だから結局、頼られて嬉しい部分もあって貸してしまっていた。ごめんなさい。」
この人が謝ることでは決してない。悪いのは全て夫だ。
わたしは深々と謝罪し、事実を知ることができたことに感謝した。
別れ際、女性が聞いた。
「不倫相手って誰?」
Zとの合意書には双方がこの事実を不用意に口外しない事項が盛り込まれていた。
バラせばわたしの気は晴れるが、それはただの自己満足でしかない。
「すみませんがまだ分からないんです」
そう告げて女性とは別れた。
人の立場や心理をうまく利用して借りては返して、母とこの女性から…あるいは他からも借りている可能性もある。だか、そこから先を探る力はわたしには残っていなかったし、離婚を前に探る必要もなかった。
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