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#1 「猫のニャッホ」立ち上げまでの葛藤

noteでの記念すべき?第1回は自分の人生の中でも濃密な時間となった「猫のニャッホ」の開発についてです。
※退職に伴い、協議の結果内容を一部改訂しています。ご了承ください。

手描きタッチの癒されるものが作りたい

 2016年の11月、私はココネで担当していたアバターサービス内で新しい企画を考えていました。普段の遊びとは異なる、別の世界観を体験してもらうのがコンセプトでした。小説や漫画のように、その世界の中に入って浸れるものを目指していました。
それを形にする上で重視したのが ”一目でわかる世界観の違い” でした。
 ちょっと専門的な話になりますが、一般的なアバターサービスではIllustratorという描画ソフトを用いてベクターという技術で絵を描きます。ベクターの利点は、拡大にも縮小にも対応できてデータ容量が軽いということにあります。(もちろんデータの作り方によっては重くもなります。)ただし、かっちりとした線で表現されるため手描きのような柔らかな表現がしづらいのが課題です。

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 世界観の違いを表現するために、私たちのチームはPhotoshopを用いてビットマップ描画という方法で、ベクターでは得られない表現にチャレンジしました。ちなみに、ビットマップはベクターに比べてデータが重くなるという課題もあるので、データ容量には相当苦労することになります。

 結果的に手書きのタッチを生かした試みは既存のアバターサービスの中だけで完結させるのはもったいないということで、手描きタッチのアバターアプリを新規で作ろうという話へと発展し、あれよあれよという間に私たちのチームは新規アプリの立ち上げをすることになりました。
 因みに当時は私を含めたチームメンバーの誰も新規アプリの立ち上げ経験がありませんでした。やりたいことは何となく決まっているが、何から手を付ければ良いかがわかりません。進め方の指針となるものがないので、無我夢中で企画書(っぽいもの)を書き、決まってないことばかりなのにスケジュールを作成し、机上の事業計画を立てる・・・いま思い起こすとどれも絵に描いた餅でしたが・・あっという間に3ヶ月が経過していました。
2017年4月、私たちのチームは試作品を手に社内プレゼンに臨みました。

 結果は惨敗でした。「一番面白いポイントがどこなのか曖昧」「絵は可愛いけど、ゲームサイクルに課題が多い」「ブラウザゲームっぽい遊びかた」と言った指摘された部分を改善しても勝算が低く、プロジェクトを解体することを決めました。

 正直な感想として、悔しいが当たり前の結果だなと感じました。当時のプロジェクトには以下のような問題があったからです。
・よくありがちな様々なゲームの良いとこ取りのものを作ろうとしていた。
・メンバーが不必要に多く(16人くらいいました)、意見はまとまりづらく、やりたいことがチームで明確になっていなかった。
その結果、プロジェクトにおいて本当に必要な要素を絞り込むことができず、自分たちが何を作りたいかということが明確化できなかったのです。

すべては「にゃんこ画伯」から始まった。

 その後、再チャレンジの機会をもらい、スピードを出すためにメンバーを5人に絞り再度企画を考え始めました。
コンセプトを見直し、以下のポイントに絞って考えました。
①手描きタッチの世界観で癒しを追求する。ターゲットは30代以上のアート好きな女性。
②キャラクターとストーリーを根幹に据える。
③ゲーム部分はルールのわかりやすいマッチ3パズルにする。

 5月のある日、デザイナーの諸岡綾さんが「にゃんこ画伯」という絵描きの猫のキャラクターのラフイメージを持ってきました。猫をキャラクターにすることは安直かもしれませんが、彼女の描いたキャラクターはなんと ”くたびれたオッサン猫” だったのです。
 にゃんこ画伯のラフを囲んでみんなでああだこうだと彼の不憫な設定についてのブレストが始まります。
「売れない画家」「借金が多い」「借金のかたに家財道具一式を売り払って一文無し」「スランプからついにク○リに手を出して幻覚が見え始める」「パズルはその幻覚の世界」「その結果、次々に絵のインスピレーションが湧いて借金が返済できる」などなど・・・くたびれたオッサン猫のキャラクターラフ1枚から面白い設定が次々と浮かんだのです。(もしかしたら私たちが追い詰められておかしくなっていたのかもしれません)
 この画家猫をさらに掘り下げて行くことになり・・不憫な画家といえば・・生前は絵が全く売れずに苦労の塊のような人生を送ったフィンセント・ファン・ゴッホという画家を擬猫化しようということになりました。猫のゴッホ=ニャッホの誕生です。名付け親はもちろん諸岡さんです。変な名前だから一度聞いたら忘れられませんね!大事なことです。

キャラの魅力とストーリーの関係

 そこからの展開はとても早く、友人(イラストレーターのア・メリカさん)に紹介してもらったシナリオライターの船橋勧さん(TVドラマの脚本家で代表作は「警視庁ゼロ係シリーズ」)にニャッホというキャラクターの物語を書いていただきました。
 ニャッホの物語を作る上で大切にしたのは、小説やドラマのように読み進めるうちに少しずつ登場人物たちの関係や背景、思想などがわかっていくようなストーリーの見せ方です。私たちが生み出したかったのはひと言では魅力を説明できない、様々なエピソードによって長所も短所も含めて愛されるようなキャラクターたちでした。ニャッホやゴーギャンなんかはだらしなくてどうしようもないクズな描かれ方をしていますが、総合的には憎めない良い奴なんです。ニャッホに登場するキャラはあたかも私たちの友達のような存在感を感じさせるに至ったのです。これに関しては船橋さんの脚本家としての素晴らしい手腕が発揮されたと思います。

 一方、このスタイルの欠点は魅力を伝えるために時間がかかることでした。毎日たくさんのアプリがリリースされていて、消費者の飽きるスピードが加速していると言われる中でどのように最初にニャッホの世界観にグッと引き込むかが最大の課題でした。

あの衝撃的な設定が生まれた

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 私たちが用意した答えは ”プレイヤーはニャッホのご主人様であり、ニャッホを残して死んでしまった” という設定をゲーム開始直後に見せることでした。この設定は社内でも賛否両論があったのですが、決断したのは次の理由からです。
・ゲーム開始直後にプレイヤーとニャッホとの関係性を一瞬で理解してもらう
猫のニャッホというゲームを一言で説明できる=「開始した途端に自分が死んで、残された猫をパズルで救うゲーム」
ニャッホに対してかわいそう、なんとかしたいという気持ちを抱かせる
・あわよくば、このインパクトのある設定でバズってほしい
実際、この狙いが見事に功を奏しリリースから少し経った頃にTwitterでバズるのです。 https://togetter.com/li/1193137

次回に続く


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