05 あったかい家をつくるために断熱材を考える

断熱材論争。
これが、わがやに関する、初めての、そして最大の争いでした。

たかが断熱材、されど断熱材。

経済合理性と理想と現実、それらの折り合いをつけるために、たくさん話して、たくさん喧嘩して、たくさん検討しました。

家や暮らしを考える上で、一番怖いのは無自覚。だからこそ、議論自体は悪いことではないけど、理想としている所のすり合わせが一番必要でした。

何が違うかというと、大きく、断熱材には3種類があります。
1. 石油系断熱材
2. 鉱物系断熱材
3. 自然系断熱材

1.石油系は、いわゆる、発泡スチロールみたいなものです。圧倒的に高性能で、同じ断熱性能の場合、厚さが薄いものになると価格がどんどん上がっていきます。しかしながら、「リサイクル」とか「自然素材」という尺度から見ると弱さがあります。自然界にないものなので、環境負荷はなかなか大きい。
2. 鉱物系は、石とかガラスとかを使います。コスパと厚さのバランスがよく、比較的使いやすいですが、湿気に弱いという弱点も。一方で、再生素材でもあり、そこそこ地球には優しいのかな、と。とはいえ、リサイクルされる旅に精度が落ちる、いわゆるダウンサイクル、という側面も。
その辺の概念はこちらの本が詳しいです。
サステイナブルなものづくり- ゆりかごからゆりかごへ

3. 自然系は、いわゆる自然素材。ウールとかコルクが代表例ですね。湿気や匂いに強いものも多く、地球にも優しい。一方で、厚みと予算は大きくなってしまいます。

わが家では
1. ネオマフォーム
2. グラスウール
3. サーモウール
4. 炭化コルク
という検討をしました。
ざっと見ると、1.の値段は高いけど厚みが45mmで済む。つまり、家が狭くならないわけです。2.は少々安いけど厚みが70mm。少々狭くなるし、壁がゴツくなるかなぁ。でも安いし。再利用製品。3.は1.と同じ価格で厚みが100mm。でも自然系だしなぁ。4は厚みは1と一緒だけど価格が倍以上。でも、完全な自然素材。
うーむ、難しい。何を優先して、何を諦めるのか。

僕が以前設計施工した案件では、高性能の石油系素材(ネオマ)を使っていました。内部空間が大きく取れるし、断熱効果も高い。冬に寒くなる長野の住まいにはこれだろうと、比較的無自覚に選択していました。一方で、妻の方は、自然素材を採用したいという思いがありました。家の空気を支える断熱材には、優しいものがいいという視点は、確かにそうだな、と僕も思ったわけです。そこで、ウールを使ったサーモウール、という素材を、提案したわけです。
妻「確かに自然素材でいいね。」
僕「だよね。でも、色々調べたけど。100%自然素材は一般化していないんだよね。だからこれも70%くらいなんだけど、でも自然素材を多く使ってるんだ。」
妻「え、それじゃ意味ないな。石油系が入るのか。うーん。」

何が問題か。
そこには目に見えない、色々な問題が。
これは、社会に存在する「エコ」な商品にも通じる問題なわけですが。現状よりも、環境に優しい素材が、一般的に「エコ」とされるわけです。と、それはもちろん、現状より良いから問題ない気がするんですが、実は、それは、本質的にはちょっと違う。

わかりやすい例をいうと、建物を解体した際の、木材、釘がついた木材、そして合板などの接着剤で結合した部材。

木材は、なんの問題もありません。燃やしてもco2は出るけど。有害物質は出ない。木が育つまでに吸ってきたco2を考えると、ここで燃やして出るものは、そんなに問題ない。

続いて、釘付。まず、危険。これは、要は木と鉄の合成材な訳で、処理に困る。ゴミで出しづらい訳です。でも、丁寧に鉄と木に分ければそれぞれ再利用も可能。でも一緒になると再利用できない。ゴミでも困る。
不思議なものですが、属性の異なる素材が合わさると、処理に困るのが現代社会なんです。だから、僕らの家の改修では、一個一個の部材でくぎぬきで釘を抜きました。ゴミから材料にすることができる訳です。

さて、では集成材や合板は?ようは、木材を、接着剤で固めたもの。それで現代の住宅を支える構造材になる訳ですが、支えてくれている間は心強いけど、ゴミになった時は、突然、手が打てなくなる訳です。
劣化してしまうため再利用も難しく、燃やすと有害物質が。なので、これら部材は、お金を払って撤去してもらう必要がある訳です。
お金だけならいいんですが、それらが結局、地球にどこかで負荷をかけてしまう。
ハイブリッド。
と呼ぶと聞こえはい行けど、言い方を変えると「キメラ」で、地球上に存在してこなかったものを産む訳で、彼らの悪い所は、再利用ができないこと。現代技術を駆使してリサイクルしても、それは、一個前の物体が持っていた長所を高いお金を払って劣化版として再利用している、「ダウンサイクル」なんです。実は。

とまぁ、話の軸がずれてしまいましたが、結局、そういった訳で、完全自然素材じゃないのはどうなのか。

っていうのがディスカッションの本質でした。

現代社会において何が正しいのか、は、本当に難しい。

・完全自然素材で作るのが理想。
・でもそれで、家をあっためるのにたくさんのエネルギー(ようはエアコンなどの熱が漏れまくる)を使ったらそれは地球に健康なのか?
・現代社会が生み出した技術も尊重しないといけない

正解はどこにもないけれど、
僕らが選んだ選択は、

技術を結集して作られた最高効率の1.ネオマフォームを壁に使い、
床下と天井は、自然素材をベースとしたウール素材を使うことでした。

生活をする上で、呼吸の影響が大きそうな上部と、湿気が上がる下部は自然素材の助けを借りて、壁は最高効率を。それで、日々の生活におけるエネルギーロスを減らし、地球と人体にも優しくしてあげること。

この家で選択した断熱材は、土に還ることはできない。

でも、この家が土に帰るまでにロスするエネルギーはとても少ない。だから、土に帰る素材を使うよりも、負荷が少ないんじゃないか。

そんな、答えのない議論をした、「断熱材問題」でした。

完全に土に還る家の設計施工は、いつかどこかでまた考える機会が会ったときに、挑戦したいな、と、話しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?