誤読する人が多いと思うから一応書いておくと、僕が問題だと思っているのは明後日の方向にみんなが大騒ぎすること(例えば、ワクチンや新薬に関する根拠のない憶測とか)。「薬が安全」といいたいわけではない。


製薬が陰謀的なビジネスであるのはそうだと思うけど、怖がる方向が間違ってると意味ない(というか怖がる必要はない)。例えば、僕が興味があるのは、低リスクの薬っていうビジネスはどういう社会関係(生産過程、流通過程、資本蓄積過程)で成り立っているかということ。


例えば生産過程を考えてみると、以下のような関係がある。


1.まず死や病気を怖がる人々の健康と安全への欲望(需要)がある。恐怖と安全への欲望の処理は、伝統的には宗教や伝統医療が担ってきたもの。あの世に行ける、あるいは先祖の霊となって末裔を見守れると信じられればそれでよい。が、近現代医療は、実証的な方法で治癒することでそれを処理する。


2.そこにビジネスチャンスを発見して投資する人や製薬会社がいて、資本が形成される。需要に対しての投資だから、薬の開発は一般的な病気や流行ってる伝染病なんかが優先されることが多い。ビジネスは、作られた薬の効果を保証するものではない。ビジネスとしては、「効きそう」と消費者が思えばいい。


3.「安全」を保証する国家の制度がある。それは例えば「薬剤師」という資格だったり、認可された治験制度のようなものだったりする。国家による安全の保証は、あやしい薬や治療法が出回って信頼が崩壊するのを防ぐ役割がある。つまり、消費者の信頼を得るための制度。


4.製薬というビジネスを成立させる薬の材料、技術、専門的な労働力が、「リスクの低い薬」を安定的に供給するために必要。材料や技術は、自然界から取られるので、ビジネスは自然界とも関係を持つことになる。同時に、専門家によって医療の質が保たれる。(男女の機会均等とかが大事なのは、この安全性を保証する上で、優秀な人材が適所に配属されるのに役立つから。)

5.「低リスク」「安全性」を保証・証明するために、実験と実験動物が必要になる。見方を変えると、これは安全性を保証するために危険かもしれないことを動物に対してするということ。だから、このビジネスで確実に搾取される被害者として、実験動物が要る。ビジネスの安定と消費者の安全を確保するために常に殺され続けている「階級」はあるということ。


6.実験動物の次に、高額な「協力料」を求めて自らの意思で実験に参加する治験参加者も要る。これはより高度な安全を保証するために人体実験が必要だから。リスクは実験動物よりはるかに低いけれど、これは人間の安全を保証する上での例外措置。治験参加者には動物実験や以前の治験の結果が開示されている。(20匹のサルに30日間、この薬を毎日500mg投与し続けると、そのうち3匹が心臓発作で死にました。また、次の20匹のサルに30日間、この薬を毎日1000mg投与し続けると、そのうち10匹が心臓発作で死にました。今回の治験であなた達が摂取するのは、一回だけ、50mgです。目的は、適切に体外に排出されるかどうか観察するためです。等々。)高額の協力料を出して、「自らの意思で」実験に参加する動機を作る。
 ここまでの段階で大きな事故があったり、深刻な副作用が出たりすると開発が中止される。


7.こうして薬ができる。実用化された薬は市場に行く。


8.今度は、薬への欲望(需要)を再生産することが、ビジネスとしての成功に必要になる。例えば、ある種の病気への恐怖を煽る。新薬のいいところをCMでアピールする。販促番組では、使用者としてプロの役者にギャラを払う。こういうことも行われる。


9.製薬会社が儲かったお金の一部は、新薬の開発(実験動物や治験参加者の確保なども含む)に使われる。後は、投資家、資本家、専門家の給料になる。


詳細まで全部カバーしたわけではないけれど、こういう循環になる。海外で作られた薬も、国内で販売する際には、再度治験をすることになる。だから、ある薬が「某国の陰謀」だとしても、国内の制度下で認可されないと実際には流通しない。ただ、流通する前の段階の「安全性」の実証過程で、安全性の例外に晒される動物や人は存在する。

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