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【番外編】公立病院改革〈2005年〉北陸出張 能登半島巡り

こうして拙いながらも物書きをしているうちに、古い記憶が次々とよみがえる。
その古く埋もれた記憶の中に、本年正月から北陸地震の災禍に見舞われている、能登半島巡りというのがある。

いまも連日、テレビやラジオで救援活動などが報じられているのを聞いているうちに、半島のことを書こうと思うようになった。
この文章が役立つわけではないが、僕自身が、20年近く前に体感した能登半島という地域を、ささやかに共有してみたいと思う。


僕が業務で通った公立KM病院は、能登半島の「入口」に位置していた。
半島入口の救急・急性期病院だから、半島の奥の患者さんたちを守る、重要な病院である。

駆け出しコンサルであった僕と当時の上司は、未熟さや無知さはともかくとして、それなりに好奇心や探求心も持っていた。
そこで「地域における役割を知るには、地域の病院を回るべきでないか」ということで、能登半島の病院をクルマでまわることにしたのだ。


我々はクルマで、宇出津病院、輪島病院、穴水病院という公立病院、それから民間のA病院に行った。
本当は能登半島北端にある珠洲(すず)病院にも行きたかったが、時間の都合か何かで、そこまでは行けなかった。
いま報道を聞いていると、この珠洲地域の被災・復興が最も困難に直面しているというが、やはり珠洲は遠かったのだ、と再確認する。

アポイントを入れた病院の事務局の皆さん、実に快く我々を迎えてくれて、地域の実情を教えてくれた。
やはり東京からコンサルに来て、近所で何をしているのか皆さん知りたいし、逆に地域事情を知って欲しいとも思っているのだ。
だから誰もイヤな顔をせずにお話をご一緒してくれるし、それはその後20年、あらゆる地域の医療機関巡りをした時も同じだった。


どの地域、どの病院にもそれぞれの悩みや工夫がある。
ところで、私が一番ショックを受けて印象深かったのは、輪島に行った時だった。


たしか、輪島かその近隣で一泊する予定で、夜に輪島駅に入ったのだ。
そして輪島駅のロータリーに入ると、何だか様子がおかしい。すごく違和感がある。

クルマを降りて駅舎に歩いて行って、何がおかしいか、分かった。

駅が無いのだ。
駅舎は残っているが駅として機能しておらず、駅舎の左右に「線路の絵」が描いてある。
(いまストリートビューを見るとそんな絵は無く、駅舎の再利用が進んでいるようだ)

そう、電車は廃線になっていた。
私が持参した、事務所から持ってきた全国地図には、半島入口の七尾駅から一番奥の珠洲駅まで、普通の路線図が記載されていたが、それは古かったのだ。
輪島はおろか最北端の珠洲に至るまで、半島全域の路線が廃線になっていたと、行って初めて知ることとなった。

その後、多くの地方出張を経て、地方路線の廃線は我が国の日常風景であると慣れていくが、当時は大変ショックを受けた。
目に見えてインフラが弱い半島で、全域の線路を廃して市民生活はどうなるのか?
中央の政治家や役人は、この苛烈な状況を知っているのか?
この国は、この程度のインフラを支える力も無くなっているのか?


そして今年の北陸地震では、さらに劣化した社会基盤、ボランティアも入り込めない脆弱な交通網と宿泊施設の様子などが、次々と報じられてくる。


その報道を聞く都度。
このちっぽけな国土の、均一な発展すらできないのか。
この島のどこで何が起こっているのか、理解できないのか。
我が国には、その程度の政策能力とリテラシーしか無いのか。
そんなことを再確認して、情けない気持ちになる。
1700の自治体が、この小さな島のあちこちで権益を争っている暇はない、本気で市民生活を考えていかなければならない、、、

と、話は逸れたが。
そんなわけで、地方自治や地方の状況を体感した、非常に印象深く考えさせられる能登半島巡りであった。


病院巡りの一番最後に、夜遅く、民間のA病院で院長先生に面会させていただいた。
院長は院長室にいたが、その日は寝当直なのか、なんだか、ちょっと呑んでいた。
そして呑みながら、地域の惨状と地域医療にかける想いを、熱く語ってくれた。

その頃は病院に通い始めた頃だったので、院長とは院長室で呑んでるものなのか、、、
と、自然に受け止めていた。マンガでも呑み助な医師とか出てくるし。

しかしその後、病院内で呑んでいる医師に出会ったことは、一度もない。
それは古き地方病院の思い出のようなもので、時代が変わったのだろう。


最近は首都圏の病院、クリニック案件がほとんどとなり、地方病院に行く機会が減った。
しかし基本的には、こうして未知なる地方病院を巡って生きていくことができたら、どんなに楽しいだろうか、と思う。

さて、また次回からは本筋の話に回帰しよう。

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