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生涯学習note2020.04/24

「誓い空しく」2020年度版エディションについて

  まだ現物を手にしていないので確認が取れていないのですが、オリジナル版にトラック6として収録されていたオーガニゼーションが収録されていないようです。再発では度々このような事が起きますね。オリジナル版の曲の並びはかなり考え抜いたものですので、気になる方はオリジナル盤の方も探して聞いてみてください。10枚組の「21世紀の京浜兄弟者」の方には、オリジナルの曲順で収録されています。本稿では、そのライナーを元に加筆していますので、元の曲順のままの記述にしておきます。
 今回はディスク1の「誓い空しく」について、各曲の解説をします。続いて次回は、ディスク2の「スナック・オー・トラックス」について解説します。なお各バンドのバイオグラフィー、ディスコグラフィーについては、現段階では各自調べてください。いつかまとまった論評を書きたいとは思っています。

DISC1『誓い空しく』全曲解説

●イントロダクション
 このアルバムを制作する事になった背景について説明していきたいと思います。京浜兄弟社という、実験音楽とポップスという両極端に魅せられた人たちが偶然にも集まっていた集団というのは、当時、世間的な評価を得る事が非常に難しかったように思います。今でこそその両極端は共存し、そういった嗜好を持ったアーティストも数多くいますが、80年代から90年代にかけては、とても冷遇されていた記憶があります。「ロックがやりたいんか?テクノがやりたいんか、どっちなんや?」とライブハウスのオーナーに怒られたこともあります。これではとてもやっていけない、まずは批評活動を通して自分たちの音楽が評価される地盤を作ろう、と執筆の兼業にシフトし、ザッパ、ピーター・アイヴァース、エグベルト・ジスモンチ、ホワイトノイズ、コーマス、ジュディ・シル、スパークス、シルバーアップルズなどの、今では普通にCDで聞けますが、当時はあまり音源も出回っておらず、批評の俎上に登らなかったアーティストたちを雑誌媒体などで紹介し(立東社刊「キーボード・スペシャル」という月刊誌に「寿博士のテクノ恩返し」として連載、この件についてはまた改めて)、またそれらの音源を売るレコード・ショップを開店したりと、啓蒙活動に努めてきました。この点においては、現在の音楽シーンを鑑みるに、一定の功績はあったのでは、と自負しています。これらアーティストについては21世紀になり、普通に語られるようになり、音源も再発され、来日したりするようになりました。
 時間が掛かりましたが、やっと我々が手掛けてきた音楽を語る為の語彙が出そろい、ようやくスタート地点に立てたような気がしています(当時の話です)。
 さて、この頃(80年代)はバンドをやろうというと、アマチュアで4ピースのロックバンドでレコーディングするか、もしくは大きいレコード会社と契約して大きなバジェットでブラスやストリングスのセクションを雇って作るしかなかったんです。しかしそれらが融合した状態のものを作れないか、と試行錯誤してました。
 でも、融合するためには一人じゃ出来ないんで、仲間を見つけて結束と歩み寄る事が必要だったんですよ。MIDIが発達する以前は、優秀な演奏プレイヤーや卓抜した歌詞を書ける人間といかにして自分を擦り合わせていくか、というところが大事でしたね。つまり、何らかの生きる知恵がそこに働いてるわけです。持てる才能の話しではなく、人間性というか、気難し度合いでいえば、ブライアン・ウイルソンやヴァン・ダイク・パークスに比するほどの音へのこだわりを我々は持っていたので、やはり前史の轍を踏まないように、人間関係には気を使うわけですよね。その感覚は非常に大事にしていて、一緒にメシ食ったり海水浴に行ったりするという事の根底にはそういう部分があるんです。そういう資質が京浜兄弟社なんじゃないかなと思います。音楽の歴史の悲惨さ、悲劇を知ってしまっている謙虚さ、というか。
 当時、エブリシングプレイにライブサポートで山口さんが参加していた関係で、鈴木惣一朗を通じて細野(晴臣)さんに『誓い空しく』を聴いてもらったんですが、「すごく実力があることは分かるけど、僕はよく分からない」と言ってた、と伝え聞いたんですよ。まあ、細野さんが当時傾倒していたアンビエント等とはちょっと異質なものだったから、「よく分からない」という言葉に繋がったと思いますが、山口さんの持っている、細野さんと近しいバランス感覚というものはキチンと聞き分けられてたんじゃないでしょうか。
 このアルバムを制作するにあたって、生演奏を除いて、主に使用していた機材は、Roland MC-500というシーケンサーと、AKAI S900とS1000というサンプラーでしたね。今堀くんやナルちゃん(菊地成孔)やみんとりさん(岡村みどり)は総譜を見て音が頭に浮かぶ人だからいいんですが、自分なんかは、一回全ての楽器の音を出して、プレイバックされて初めて判断が出来るんです。だから、シーケンサーとサンプラーがある事によって、何度でもプレイバックが出来て、修正していけるっていうのはものすごく強みでした。しかし、MC-500がなかったらこのアルバムが出来なかったとはいえ、液晶に出る文字情報ってモノクロのたった40文字でしょう? それだけの情報量でよくやったと思いますね。とにかく皆んな命がけで、命を削って音楽を作っていた、という記憶があります。

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1.もすけさん / 豆腐

 もすけさんのヴォーカル、林茂助さんはECDなどと共にリーマンズというバンドのメンバーでもありました。この曲はアルバムの一曲目に相応しい、華やかな曲です。映画監督の鎮西尚一さんがこの曲を気に入って、映画「パンツの穴 キラキラ星みつけた!」(1990年12月公開)でカップルが歩いてるシーンのバックで使用していました。こういうアンサンブルって実は意外と無いんですよ。つまり、周波数帯域で重心を作ってくとか、エンジニアリング的な発想で楽器の編成を考えてから、アレンジを発想してると思うんですが、それをするには普通は楽器編成でどういうアンサンブルを組むかっていうスタンダード形を知ってないと、なかなかうまくいかないんですね。あらきん(荒木尚美)のベースは、やっぱりスゴくいいですね、特別なものです。歌詞も、このアルバムの世界観をよく体現しているものだと思います。

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2.ハイポジ / じのじの

 しんりんちゃん(もりばやしみほ)もなにがしかの意見はしてると思うのだけど、全体的なコントロールは山口さんがしてるんだと思います。1・2曲目を続けて聴くと、同じバンドみたいな感じがします(笑)。まあ、良いバンドでアルバムも何枚も出ているので、気に入った方は東芝EMIから出た作品(『写真にチュ~』『COM’ON SUMMER』)も聴いてみてください。

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3.TIPOGRAPHICA / Drive

 ティポは勿論、単なるジャズではないんですが、ジャズ文脈の人ではあるわけですよね。ジャズは当然聴いてきたものの一つではありますが、京浜兄弟社ではフィーチャーしてきたことは無いんですよ。それは、テーマがあって各人がソロを回して…というような定型や楽器のソロがあまり好きではなかったですし、お客さんのための音楽ではなくて、プレイしてる人が楽しんでるような気がするんですよね。でも、ティポは全く違っていて、アンサンブルの世界なんです。そこにスゴく魅力を感じましたね。そして、演奏家としてスゴいと思うと共に、今堀君もナルちゃんも外山君も人として面白かったですね。育ちが良い感じ、品の良さが演奏にも出てると思います。
当初、『誓い空しく』には「dada trot」(DISC9にデモトラックが収録)が入る予定で、レコーディングもしたんですよね。その時は、ミックスはALTOKI STUDIOで出来るので、生音で録る部分だけ同じレコーダーがあった、普段はヘヴィメタルとかパンクを録音してるスタジオを使ったんですが、エンジニアが「YOU、どんな音で録りたいの?」って感じで言ってきて、それを一言で説明出来ず「えーと…プログレです」って言った気がします(笑)。そのエンジニアが最初は非常に横暴だったんですが、音を出したら見る見る青ざめて、急にお茶出してきたり、言葉も丁寧語に変わったのがスゴく印象に残ってますね。でも、そのテイクの収録はやめて、この曲が収録される事になりました。
これはALTOKIでほぼ全編通しワンテイクで録りましたが、一箇所だけ「カウントに聴こえちゃって嫌だ」っていう部分があって(※2:48付近)、それを別の部分から一音をサンプリングして持ってくるという、当時としては高度な編集技を使いましたね。

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4.コンスタンスタワーズ / それはカナヅチで直せ

 この時期のコンスはインスト曲をやっていた時期を経て、歌ものになった頃で、色々と新しいことをやろうと自分なりにしていたんでしょうね。自分の中の「ロック衝動」みたいなものがうまくコントロールできていない気がします。乱暴さがサマになっていない、というか、音楽上の組織化が整理されていない。いや、整理されたものが乱暴に見えるというのは、重要なポイントです。
 で、今堀君も外山君も、こちらの演奏上のリクエストに対して、次のテイクからすぐにそれを実現しちゃうんですよね。その、あまりの呆気なさに拍子抜けしちゃう事すらあったんですよ。外山くんのドラムと、あらきんのベースのコンビネーションもスゴく良かったですね。
でも、皆さん法外なギャラを要求するわけではないんだけど、こちらが考える妥当な線すら、自分の経済的な理由で毎回キチンとお金を払っていくことが困難になってしまい、ライブやレコーディングに誘いにくくなってしまい、このバンド形態での存続は難しかったですね。

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5.ドミニクス / 津久井湖

 「♪吸い込めば響く~」の辺りとか、どこか東洋的な和声使いが出てきますが、発売当時は東洋的なものを如何に払拭するか、洋楽に近づけるか、という部分が日本の音楽シーン全体にまだあったんですよね。つまり、洋楽テイストを指向するものの中に東洋的なものを入れる、というアプローチはYMOはありましたが、その後に後続してなかったんです。それに、そのアプローチは難しくて、下手するとおちゃらけにしかならないんですよ。だけど、すごく真面目なアプローチで、三木鶏郎・山下毅雄・冨田勲らに内在する東洋的・オリエンタルなものを、キチンと洋楽のレベルで表現する、という事が京浜兄弟社には指向としてあったと思いますね。それはドミニクスだけでなく、みんとりさんや山口さん、それこそラッカスビーンズにも出てくるし、大きなトピックであり、課題だったんですよ。蓮実くんは、東洋的なものと西洋的なものの融合が自然体で出来ていて、羨ましかったですね。

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6.ORGANIZATION / BULLMARK

 永田くんは出会った当時は今からは想像出来ないと思いますけど、理系っぽくてヒョロっとした勉強の出来そうな子でしたが、内面はバンカラで根性があって年功序列を重んじる感じがスゴくしましたね。それに、色々無理難題を押し付けてもそれを形にしてくるのが面白かったんですよ。
三宅君のコンポーズも狂ってるし、永田君のプログラミングも含め、この曲はセンスがありますね。様々なプログレッシブロックの影響もありつつ、今まで無かった電子音楽を作ろう!っていう意気込みが伝わってくる曲です。
『誓い空しく』に収録した他のアーティストだと、提案された曲ではなく別の曲にしようというプロデューサー側の要望が多かったんですけど、彼らには即座にOKを出した気がします。

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7.ラッカスビーンズ / そっとしておいて

 デモバト(デモテープ・バトルロイヤルという、当日、CSV渋谷で行われていた月例イベント。これも機会を改めて書きます)に幸喜(俊)君が来た時に「すごく才能のある若い人が現れたな」と感じましたね。もし、我々に売り出す能力があったら、PSY・Sとかああいう感じで(笑)いけたんじゃないかと思いますが、自分のことで精一杯だったということもあって、本当に勿体ない事をしましたね。
 デモバトが無くなってから幸喜君とは関係が希薄になってしまいましたが、その後、ポストペットのプログラマーとして非常に良い仕事を沢山してて、八谷(和彦)くんを通じて再会したんですが、彼も「あの時は自然に離れていっちゃって申し訳ありませんでした」ということを言ってて、どちらもそういう気持ちがあったんだなあという感じですね。

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8.ZYPRESSEN / すべての縦縞は交差したがる

 彼らとは確か、今井くんがCSV渋谷でのデモバトに来て、交流が出来たんだと思います。
MIDIが発達する以前はテクニカルな音楽の潮流がありまして、そのような音楽を指向する人はフュージョンかハードロックかプログレに行く感じだったんです。で、当時、ジャパニーズ・プログレの中でも、あまり無い部類だったレコメン系と呼ばれるような潮流がありまして、その中に居たZYPRESSENはそういうテクニカルな音楽の流れの中でも特異な存在でした。
 話は変わりますが、はっぴいえんどを「ヘタだった」と評した70年代の記事をよく見かけますが、今の耳で聴くと当然そうではないことは明らかなわけです。当時は音楽をやる事は特殊技能であり、演奏技術を誇示するためのものが殆どでしたが、その視点からするとテクニックを誇示してるわけじゃないのでヘタに見えたというだけの話なんですよ。なので、それを見るにつけ、「この人達は何を聴いてるんだ」と当時から思ってたんです。
 そんな背景があり、これも京浜兄弟社全般に言える事ですが、自分の持ってる演奏技術やテクニカルな部分の使い道が特殊だった気がするんですよ。ZYPRESSENは演奏技術と音楽的趣向がバランスよく成立していて、かつ音楽的な趣味もかなり我々と近いところがあったので、すごく話に乗ってきてレコードや情報を交換したり、ドラムスの今井くんには何度かコンスタンスタワーズでも叩いてもらったりとかしましたね。でも、メンバーが忙しくてなかなかタイミングも合わなかった事もあって、全員と交流が深かったというわけではなかったです。それに、彼らはプログレ雑誌だった頃の「MARQUEE」とか収まりの良い所があったから、こちらもあまりお節介をせずにいようと思っていたんですね。
 あからさまに何系だという音楽は本作にはあまり無いですが、ZYPRESSENは独自性を守っててレコメン系だというのがハッキリ分かりますね。もし、この曲を自分や山口さんがプロデュースの部分まで関わっていたら、もう少しアンサンブルやミックスなど違うものになったと思いますが、そこまで深入りは出来ない位の距離感でした。

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9.SYZYGYS / EYES OF GREEN

 SYZYGYSは1オクターブを43分割する微分音階を用いてるので、いわゆる実験音楽的な側面ばかりで語られる事が多かったんですが、本人達は実はロック少女だったので、ポップな部分で話が合いましたね。この曲も、The ZombiesのRod Argentが書くような感じの曲にしよう、という事でした。
勿論、この曲の中でもかなり微妙なグラデーションのような十二音階でない部分が入り込んでるのがとても魅力的で、このアルバムの中で、普通のポップなものに聞こえて実はそうでない、というのを一番巧く体現してる曲かもしれないですね。
 SYZYGYSの音源としては、90年に発売された『43DPO』が有名ですが、巻上公一さんに「何か演劇に使う面白い音楽はないか?」と聞かれ、SYZYGYSのそのレコードを渡したところ、それがジョン・ゾーンの手に渡り、彼のレーベル、ツァディクからアルバムがリリースされました。   SYZYGYSは最近、また活動を再開していて、クリス・カトラーなどのヘンリーカウ一派とイギリスで演奏している映像などがyoutubeに上がっています。「2001年宇宙の旅」や「シャイニング」などの映画に音楽を使用された現代音楽家のジェルジ・リゲティがSYZYGYSのファンで、自作の43分割オルガンを譲ってほしい、と手紙を書いてきた事がありましたね。


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10.EXPO / 猿の惑星6

 非常に先進的で、技術が進化して幾らでもコンピュータ上で切り貼りできるようになった今でも、実現できないような要素を含んでますね。確信的にこういった音像が頭の中にあってやっているというところがスゴいですよ。
メロディーラインは、その音に合致する『誓い空しく』のマルチテープとかから音を抜いて切り貼りしていて、シンセは音をローファイ化するために、オープンテープに録ったものを一度クシャクシャに丸めたりして再生したものですね。
 アクセントが脱臼している感じはEgberto Gismontiからの影響で、中心点のないアレンジメントは、Van Dyke Parks『Song Cycle』『Discover America』の、中心を喪失することによって周縁から中心となるメロディを想像させるようなアプローチからの影響が非常に強いですね。
 当時、カウンターラインをどれ位強調すればメロディーラインが想像できるか、というトピックを盛んに話していて、かなり実験をしてました。そういう事って、ジャズの編曲をしてるような人達はよく話す事ですが、こういったエクスペリメンタルな音楽において、ポップなアプローチでそういう事をやろうとしていたバンドは他に無いんじゃないでしょうか。原宿のライブハウス、クロコダイルで行われたライブでは、メロディーラインを松前さんがヴォコーダーで演奏しています。そのヴァージョンも非常に面白かったです。

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11.モンシロチョーズ / 笛吹きケトル

 モンシロチョーズは前身のFibの頃にCSVによく遊びに来ていて、楽器や録音のテクニカルな相談を受けたりしてました。小嶋さんが右手でピアノ、左手でメロトロンを同時に弾くっていうスゴい事をやってて面白かったですね。
この曲のベースはRolandのアナログシンセで、それを微妙にフィルターを開いたり閉じたりして、ニュアンスにものスゴくこだわりましたね。この音はすごく好きです。
 それにしても、高橋さんが書く詞も曲も、本当に品がいいですよね。高橋さんは確か、池袋で生まれ育った生粋の東京っ子ですが、はっぴいえんどから連なる東京的なものを感じます。例えば、くるりとかに「東京」というタイトルの曲がありますが、それらは別に東京的ではないんですよ。それは他の地方の人から見た東京ですし、「外部から見ているから、より客観的だろう」と思うかもしれませんが、決してそうではないんですよね。やっぱり、生活レベルで見聞きしてきたものが作品には出るんです。東京には情報や物が溢れている分、東京っ子は小学校2、3年生の頃から情報の遮断が身についてるんですよね。“何をするか”ではなく、”何をしないか”と言いますか、”ここは自分は切り捨てる”という事をしてきた人が作るものですね、このような作品は。ですから、東京的なものを貪欲に取り入れたところで、東京的な音楽は絶対に作れないわけです。
 高橋さんは最近はすっかり純邦楽の人になってしまって、琴を使ったアンサンブルのクラシック曲などに良い曲が多いですね。ご興味を持たれた方はぜひ聞いてみてください。

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12.ART CORE FUNK / TANZ

 CSVのスタッフとして自分達が深く関わって、倉地くんやSYZYGYSも出場した音楽コンテスト”サンチェーン・ミュージック・バトルロイヤル”に彼らが応募してきた事で彼らとの交流が始まりましたね。まあ、一緒に遊びに行ったり家に行ったりする事が多くて、遊び仲間だったんですよね。年が近かったのもありますけど、人柄が同級生っぽかったですし、何が面白いかっていうセンスが合ってたんですよね。みんな活き活きしてましたねえ。特に神戸ちゃんとトキちゃん(常盤響)は「KING」というミニコミも作ってましたし、仲良かったですね。
 これはPONさん(藤本敦夫)の曲ですが、それを神戸(誠)ちゃんがこの曲にしたいって言ったんですよ。メーザー(※音楽専門学校)に通っていた頃にお世話になったんでしょう。義理堅い人ですよね。
 この曲でピアノを弾いている菊地潔さんは、菊田さんと呼ばれてましたが、実はナルちゃんの面白さ、ギャグの感覚ってほとんど菊田さんから来てるんですよ、落語やプロレスとか。外し方のセンスっていうものが菊田さんはスゴかったんですが…大変な人でしたね。クロコダイルでやったライブのビデオで菊田さんをずっと撮ってる所がありまして、トイレから出てきた女性が脇を通るのを目で追いながら、ものスゴいプレイをしてるんですよ(笑)。

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13.クララ・サーカス / リトル・ジャイアント

 クララはトキちゃんらがライブを見て気に入って、「岸野さん聴いて下さい!」って感じでテープを持ってきたんですが、すごい才能の人がいるんだなと思いましたね。彼女達は当時住んでたのが千葉でしたから、渋谷でライブが終わったあとに帰れないので、押上がちょうど帰り道で便利というので、ウチに泊まってダラダラとレコードを聴いたりしていた事が多かったです。
 最初はZELDAみたいな感じでしたが、色々と音楽の情報交換をしているうちに、どんどん進化を遂げていきましたね。特に西岡さんの詩の世界は孤高な感じがして、よく詩の話や文学の話をしていました。磯部さんのコンポーズ能力も物凄く高くて、解析しきれない感じでしたね。
 彼女達は根はロックンロールが大好きで、そういうところで話が合いましたね。かと言って、こういう複雑に見える音楽を仮の姿でやってたわけではなくて、これはこれで、そうせざるを得なかった衝動があるんです。しかも、好みの上でも、非常に微細な部分の表現をするためにこの構造と技術は必要だったわけで、ロックンロールが大好きだからロックンロールをやろう、って事ではなかったんですよね。
 でも、僕や山口さんや周りにいた人たちがオーバープロデュースな性格で、特に女の子3人組なんて格好の餌食なので、色々と知恵を吹き込むわけですよ。ピュアな人達だし、いかに自分を守りつつ折り合いをつけて表現をしていくか、というところがあるので、そういうのを取り払うのは大変だったんじゃないかと思います。それが奇跡的なバランスで成立しているという事ですね。

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14.倉地久美夫とアジャクレヨンズ / ザバザバ

 倉地くんの世界はみんな一目置いてましたね。まあ、倉地くんだけじゃなくて、京浜兄弟社の皆の間にはそのような何らかの尊敬する要素があったんです。ですから、ある一定の称賛があることはみんな分かってるので、マイナス点に対しては「この歌詞おかしいよ」「ここ変えた方がいい」「今度の曲、最低だね!」とか、かなり辛辣な事を言い合いましたね。まあ、リスペクトが欲しくてしょうがない人が世の中にはいますが、打たれ弱い人はすぐにいなくなっちゃいましたね。
 倉地くんに関しては逸話も色々ありますし、新しいアルバムも素晴らしいですが、自分が語ることによって他の人が語りづらくなるような例がたまに起こるので、もうあまり話さない方がいいと思いますね。倉地くんが『太陽のお正月』(1995年)を出した時にマニュエラのPOPに「どうせ君達は10年後に倉地を評価しだすんだろう。だったら今聴けよ」と書きましたけど、今ではもう、ある一定の評価を築きましたし。
 ただ、謙虚過ぎるのは、もう止めた方がいいと思いますね。それが自然であればいいんですけど、ちょっと無理してるんですよ。本当に謙虚な人なんだから、自然に振る舞ってればいいのに、敢えてやることはないですよ。あと、たまに表現が神の視座にいきますが、そうでない方がいいと思いますね。色々なアプローチをしていく中で、俗っぽくあろうとする事も、超越的であろうとする事も止めて、自然な感じになっていくといい、という希望があります。…ホントにお節介ですけどね(苦笑)。

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15.どくろ団 / 雨天決行~野球王国

 「雨天決行」はEXPOのアルバム用に録ったテイクを元にしてるんですが、僕と賢崇くんが作った8mm映画「野球刑事ジャイガー3」で使わせてもらったという経緯もあって、劇中のミュージカルシーンで流れる「野球王国」とメドレー形式にしました。
 しかし、これは生の時代だったらお金が無いと出来ない相当なレコーディング・プロダクションですよ。昔のハリウッドの映画音楽がやってたような事を、1980年代末の最新技術を使って何とか再現できないかと思って作ったわけですが、お金がかからない分、途方も無い時間と労力を必要としましたね。
 MC-500のMIDIチャンネルの上限が16chですが、ここでは2台シンクさせて32chでやってます。それを16chのオープンにレコーディングしていきましたが、MIDIの状態で32chあるから、複数の楽器を混在しないといけなくて、金管パートをまとめて録ったり、完成形を見越して音のバランスを取らないといけなかったのが大変でしたね。でも、現代のようなトラック数が無限にある状態で作り始めると、凄く無駄な要素でも後で考えればいいと思って、弛緩したものになるんですよ。ですから、これは生でないとはいえ緊張感のある構築の仕方なんです。
 で、いざストリングスのパートをマルチに録音しようという時に松前さんが急に「ちょっと待って、どうしても第一と第二バイオリンに分けて左右に振りたい。今から2時間でエディットやるから、みんなメシ食ってきて」って言い出したんですよ。今だったら、MIDIデータをある音域から上下に分割するとか様々な簡単なエディット方法がありますが、MC-500ではそれは出来ないので、一音ずつMIDIチャンネルを変えないといけないという、ものすごい労力がかかる作業なんです。それを2時間で行うエディット能力もすごいですが、松前さんは打ち上げとかみんなと食事するのに命をかけてる人なのに、自分からそれを降りて、この曲の精度を上げるために作業する事を選んだんです。とにかく、音楽を良くしたいという衝動が何よりも上回ったんですよね。
この話は一例に過ぎなくて、この頃は多少人間関係が悪くなるだの、お金がかかって損をするだの、そんな事よりも音楽のクオリティを上げる事が、我々の間では最優先されてましたね。だから、今でも聴ける作品なんだと思います。レコーディングされた楽曲って、大抵どこかに、「ああすれば良かった、こうすれば良かった」という後悔の念がなにがしか残るんですが、この曲に関しては、それが無い。やりきった感がありますね。

DISC1
誓い空しく

Compact Disc
Released: 1991.9.25.

Executive Produce: 小島幸夫(コジマ録音)
Produce: 岸野雄一 Sound Direct & Engineere:山口優
Recording at ALTOKI STUDIO, GOK SOUND 1989 Nov. to 1991 Jan.
Cover Illustration & Design by 常盤響
Design by 加藤賢崇 Rogo Type Design by 中村滋
All of manufactured & published & marketed by 京浜兄弟社

1/// もすけさん / 豆腐
作詞・作曲・編曲:もすけさん
Member: 山口優 (compose,engineering) / 林茂助 (vocal)
Guest: 荒木尚美 (electroc-bass) / 今堀恒雄 (acoustic-guitar) / 菊地成孔 (tenor-sax)

2/// ハイポジ / じのじの
作詞・作曲:もりばやしみほ
Member: もりばやしみほ (Vo,Cho,Key,Machine) / あらきなおみ (Bass,Cho) / 近藤研二 (Banjo,Ukulele,Cho,Rhythm tr) / 山口優 (Machine, cho,16tr)
Guest: 菊地成孔 (S.sax) / 西岡チョコレート (Tp)

3///  TIPOGRAPHICA / Drive
作曲:今堀恒雄
Member: 今堀恒雄 (comp,guit,viol) / 佐野篤 (bass,recorders,viol) / 外山明 (サカラ,symbals) / 水上聡 (keyboard) / 菊地成孔 (S.sax)

4/// コンスタンスタワーズ / それはカナヅチで直せ/It must reformed with a hammer
作詞:岸野雄一/作曲:岡村みどり
Member: 岸野雄一 (Vo,Cho,Mellotron) / 岡村みどり (Piano,Woodwind) / 松前公高 (MS-20,S-1000) / 外山明 (Drums) / 今堀恒雄 (Guitar) / 荒木尚美 (Bass)

5/// ドミニクス / 津久井湖
作詞:藤森健太郎/作曲:蓮実重臣
Member: 蓮実重臣 / 石沢ミチキ
Guest: 吉川潤 (cl.) / 西田ひろみ (vl.) / 氏家英男 (vlc.)

6/// ORFANIZATION / BULLMARK
作曲:三宅剛正
Member: 永田一直 (Electronics) / 三宅剛正 (Key,Electronics)

7/// ラッカスビーンズ / そっとしておいて
作詞・作曲:幸喜睦子
幸喜俊 (vocal,guiter,keybord) / 幸喜睦子 (vocal)

8/// ZYPRESSEN / すべての縦縞は交差したがる/All the vertical stripes are eager to cross together
作曲:今井広文/編曲:ZYPRESSEN
Member: 今井弘文 (drums) / 浅野淳 (guitar) / 高藤順 (bass,cello) / 三宅信義 (violin) / 山上晃司 (piano)
Special Thanks to 阿部隆雄 (flute)

9/// SYZYGYS / Eyes On Green
作詞・作曲:冷水ひとみ・西田ひろみ
Member: 冷水ひとみ (43tone organ,vocal) / 西田ひろみ (K.B.,Vo)
Special Thanks to 岡田裕二

10///  EXPO / 猿の惑星6/PLANET OF THE APES 6
作曲:EXPO
Member: 山口優 / 松前公高

11/// モンシロチョーズ / 笛吹きケトル
作詞:高橋久美子/作曲:小嶋智子・高橋久美子
Member: 高橋久美子 (Vocal,Xylophone,Key.) / 小嶋智子 (Keyboard)

12/// ART CORE FUNK / TANZ
作曲:藤本 ‘POM’ 敦夫
Member: 神戸誠(g) / 菊地成孔(sax) / 椎名達人(b) / 林克洋(ds)
guest: 菊地潔(P)


13/// クララ・サーカス / リトル・ジャイアント
作詞:ユミル/作曲:トモコ
Member: ユミル (Vo.) / ミンコ (Vl.) / トモコ (Piano,Snare)
Guest: 今堀恒雄 (Ac.G)

14/// 倉地久美夫とアジャ・クレヨンズ / ザバザバ
作詞・作曲:倉地久美夫
Member: 倉地久美夫 (Vo,G) / 林克洋 (Drum) / 菊地成孔 (Sax) / 冨永周平 (Bass)

15/// どくろ団 / 雨天決行~野球王国
作詞:岸野雄一/作曲:山口優(雨天決行) 岡村みどり・岸野雄一(野球王国)
Member: 岸野雄一 (Conduct) / 山口優 (Instruments) / 松前公高 (Instruments) / 岡村みどり (Instruments,Vo)
Guest: 加藤賢崇 (Vo) / 林茂信 (Vo) / 近藤研二 (Banjo) / 西田ひろみ (Violin) / ユミル&トモコ&ミンコ (Cho) / 石沢ミチキ (Cho) / あすなろ (Cho&Audience) / ひげ (still Photograph)



  

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