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何処とも知れぬ場所に在る"キャバレー・ヘル・パラダイス" 広いホールには大きな丸テーブルが並び、高い天井からはきらびやかな巨大なシャンデリアが下がっている。 そこに寛ぐタキシードやイブニングドレスに身を包んだ紳士と淑女。 流麗なストリングスを奏でるオーケストラをバックに妖艶な歌姫が気だるげに歌うジャズナンバーの数々。 ハスキーな声が歌うのは誰も聴いたことのないナンバーだった。
「ただいま帰りました。わたしです」 玄関でか細い声がした。壁に掛かっているカレンダーを見る。そうだ。去年と、その前の夏も全く同じ日だった。 夏が逝く頃。暑かった夏が終わろうとしている。 なぜ驚くのだろう。忘れた振りをしているだけということは自分でもわかっているはずなのに。 来客用のチャイムが鳴る音も、鍵の掛かったドアが開く音もしなかった。でも確かにきみの声だった。愛しいきみの…優しい声。 震える膝を押さえて玄関に行ったら、花柄のサマードレスを着たきみが立っ