見出し画像

見た目による「あきらめ」の終わり

私は、背が低い。健康診断で身長を測ると153cm〜155cmの間をうろうろして「はい、155.5cmですね」と言われた日には「本当ですか?」と聞き返し、何だかちょっと得したような気持ちになる。

人から見ると2cmの違いなんてまったくと言って良いほど気にならないだろうし、それに一喜一憂する自分自身のことも大袈裟だと苦笑してしまう。
それでも(優しい友人や家族がわざわざしゃがんで撮ってくれることもあって)写真ではごく標準的な身長に見えるのか「実物は小さいんですね」と、初めて会う人に言われるたび、罪悪感のようなものを感じたりしていた。

さて、いつから私は自分の背が低いことを負い目に感じるようになったのだろう。確か一番旧い記憶ではティーン誌の専属モデルになった中学生の頃。
自分一人だけなかなか身長が伸びず、着られる服にも限りがあった。数多ある職業の中でもモデルは自分と縁のないものだと子供ながらに理解して、マイペースに生きてきたつもりだった。

しかしながら大人になって身を置いたのもまた「身長は高い方が良い」という考えが根本にある業界。
「あと身長が15cm高ければ、さぞ華やかな人生だっただろうに」
「(その身長で)可哀想」
「チビのくせにどうしてここにいるの?」
そんな言葉に胸を痛め、実際に今も忘れられていない。言った本人はとっくに忘れているだろうのに。私自身も誰かの心に傷をつけてしまわぬように注意深くいたいし、更にできることならばオブセッションを軽減できたならどんなに良いだろうか。

そんな中、半年ほど前に伊勢丹新宿店の「150cm-ish“STYLE”」というイベントに関するPRを依頼いただいた。名前の通りによる小柄女性のためのイベントで、身長で考えると私にぴったりかもしれなかった。
伊勢丹の事はすごく好きだし、頻繁に買い物をする方だと思う。それでも私は〈身長が小さい人のための服〉という、制約に合わせて誂えられた売り場から自分が着るものから選ぶのは、どうしてもピンとこなかった。

様々な趣味趣向を満たす、ありとあらゆるおしゃれなものが揃ったあの大きな館の中で、3号や5号サイズに向けて作られた「小さい人の愛らしさを引き立てる、ふんわり可愛いスカート」や「バランスをよく見せるハイウエストのワンピース」を選ぶ事は、「はい、この中から選ぶと低身長もそれなりになりますよ」という慰めを受け入れるような気持ちで、私はそこまでは割り切れなかったし大人にはなれなかった。

それでも伊勢丹新宿店は再びお話をくれた。
それは「セレクト形式で3階リスタイルなどの商品の中から小柄さんでもうまく着られるものをセレクトしていただきたい」というもの。
なんと懐が深いのだろうかと唸りつつ、私はその重大な任務を前にしてセレクトにもうんうん唸った。

悩んだ末に私が出した結論と、選んだおすすめのアイテム。
それは、「背が低い人がバランス良く見える服」でもなければ、「華奢な身体にぴったりと合う服」でもない。
それは何よりも私自身が骨格やイメージによる外見の制約に縛られることをそろそろやめたかったから。

いくら背が小さくたって「小さい人のための服」しか着られないなんてことはないはずだし、モードやラグジュアリーには「これ、誰が着られるの!?」というパターンのアイテムも少なからず存在する。
着こなし次第ではトレンドのビッグシルエットだって味方につけられるだろうし、ジャケットをコート感覚で着たって可愛いと思う。それに、どうしても着たいなら、お直し屋だって視野に入れたって良い。
自分の骨格や体型に不満はないと言ってしまうと嘘になるけれど、自分の好きなものや好きなことをはなから諦めるのはあまりにも悲しい。むしろ思い込みや恐れを克服して「私って、最高!」と思えることこそ、おしゃれの醍醐味である気がする。「着られるもの」を選ぶより「着たいもの」に挑戦する方が、ファッションはきっと愉しい。そしてそれはファッションに限らず、人生の様々な事柄にも言えること。

そんな気持ちで、「150cm-ish“STYLE”」と銘打ってはいますが、私が着たい、実際に着ている、自信を持っておすすめできるものを取り揃えました。
着る事で、着こなすことで、うんと自信が生まれるようなアイテムたちを。

身長も、体型も、顔かたちも、誰かが誰かをジャッジしなくて良い日が来ますように。


ウェブでも一部ご紹介しているのでよければご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?