見出し画像

軽やかで品の良いセーター

コートの厚みが日に日に増すこの季節は、外出の際コートの下に何を着るかがもっぱらの課題となる。候補となるセーターとスカートを数着ずつクローゼットからベッドの上へと移し、一つ一つ組み合わせながら、まるでパズルの答えを探すかの如く、うんうん唸って時間を消費するのを、女なら誰だって経験しているのではないだろうか。

私の場合、厳しい審査の末に外出の権利が与えられる頻度が高いのは、薄手のメリノウール。次いで薄手のカシミア。時にはもこもこしたボリュームニットを着ることもあるけれど、それはよほど寒い日か、遊び心が欲しい日のどちらかに限られる。

二十代も中頃になろうかという頃、私はジョンスメドレーのセーターを毎年一枚ずつ買い足していけるような女性になりたいと思った。

その頃には自分の服の好みはすっかり確立していて、軽やかで品の良いスメドレーのようなアイテムが一等好きだということに気付いた。だからきっと冬場は制服のようにスメドレーを着続けることが私にとっての心の平安なのだろうと考えたのだ。そんな私の思惑はぴったり的中し、以来、冬場にはほぼ毎日オーソドックスなセーター、それにカルヴェンの少女的なシルエットのスカートを合わせては、飽きもせず、機嫌良く過ごしている。「服は沢山あるのに着たい服がない!」という絶望的にナンセンスな悩みにぶち当たることが無くなったのは、私にとってすごく快適なことだ。

四年前はくすんだ色味のマルチボーダー、一昨年は真っ黒なVネック、そして去年は冬の夜空のようなネイビーのタートルを選び、今年は柔らかい霜降りベージュのタートルにした。

ブルネロクチネリのまろやかな発色は憧れだし、クルチアーニの洗練されたハイゲージニットもそれはもう素晴らしいもの。だけど、今のところ日々の装いとして身に纏うのはジョンスメドレーが一番しっくり馴染むし、気に入っている。

自分にとって定番となるセーターを一枚ずつ買い増すことを始めてから、冬の寒さに対する疎ましさが軽減され、少しばかりの愛おしさすら感じている。また、来年はどんなものを買い足そうかしらと思案するのは愉しいし、一年の張合いにもなる。そう思うと、一年の締めくくりに買う一寸良いセーターは、自分への労いのようなものなのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?