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あなたのルブタンは美しいですか

言わずもがな、クリスチャン・ルブタンの靴はとても美しい。

正面から見ると黄金比率の美女の顔のように寸分狂わず整っているし、横から見た時のヒールのラインは近代的な高層ビルや空気が澄み切った森の針葉樹を思わせる。後ろ姿だって裏切らない。決して手に入らないファム・ファタールを追うような気持ちを掻き立てられるのに、いやらしい媚は微塵も無い。

足を入れても抜群に良い。全体重を委ねた瞬間、足首の周りの細い筋肉たちが一気に引き締まるのを感じ、甲はなだらかな丘の様に盛り上がる。これ以上素晴らしい靴があるだろうか?と言いたいところだけれど、喜ばしいことに、素晴らしい靴はたくさん存在する。マノロ・ブラニクにジュゼッペ・ザノッティ、セルジオ・ロッシやジミー・チュウ…世界には芸術品のような靴が溢れている。

時々「何処其処の靴が欲しいのだけれど、どういうのを買えば良いかな?」と相談されることがある。素晴らしい悩みだと思う。憧れのブランドの靴を手に入れることは本当に素敵で、王子様が差し出すガラスの靴を履いたシンデレラの気持ちを味わうことができるかもしれない。

だけど、どんな形、どんな色のタイプのハイヒールを買うのか悩むよりも先に私が真っ先におすすめしたいことがある。それは、美しい靴を美しく履く準備。

私はいわゆる高級とされる靴を二十代のはじめから何気なく履いてしまった。今となってはそれを少し後悔している。あの頃の私は、高価な靴を履けば綺麗になれると思っていた。だけど、そうでは無かった。

ヒールの高い靴を履くなら、身体の重心や姿勢、歩き方など自分の身体をコントロール出来て初めてその靴のポテンシャルを理解出来ていると言える気がする。反対にヒールの高さに負け、猫背になったり、膝を曲げたり、腰を突き出して歩いていると、靴の美しさは一気に霞む。それどころか、その積み重ねによって身体までもが滑稽な曲線へと化してしまうリスクすらある。

それに気付いてから、私はパンプスを履く際、いつも細心の注意を払っている。

「私のルブタンは美しいだろうか」と。

視線を斜め上に向けながらも、歩き方や姿勢、道の溝に意識を飛ばし続けているから、一日の終わりにはへろへろだけれど、それはそれで幸福な達成感だと思う。極端なことを言ってしまえば、これもハイヒールの醍醐味の一つなのかもしれない。

もしもこれから良い靴を買おうと考えている人、或いは何となくパンプスを履いて生活している人は、良ければ一度振り返ってみてください。自分の歩き方に変な癖が無いか否かを。その為にも、フラットシューズやスニーカーで沢山歩いてみたり、手持ちのハイヒールの踵の減り方を注意深く観察してみたり、ウィンドウショッピングの最中に歩き姿をチェックしてみても良いと思います。

それから、個人的には、人はそれぞれ足の幅や形が全然違うのだから、自分の足の性質によく合うものを選ぶ方が、大切な靴と長く仲良く付き合ってゆけるし、ブランドに固執せず、妥協せず色々な靴を履き比べる方が、元々思い描いた以上の理想の相手に巡り合える気がする、というのが本音です。大切な靴を履いた日はインソールを含めて綺麗に磨いてあげることも忘れずに。

あなたのルブタン(或いはマノロやジュゼッペ、もしくはもっと他のお気に入りの靴)は美しいですか?

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