「障害のない社会をつくる」ためにWEBアクセシビリティに向き合う

 株式会社LITALICOで障害福祉施設向けの運営支援サービスのデザイナーをやっています田中良樹です。この記事は『LITALICO Advent Calendar 2019』13日目の記事です。(だいぶ出遅れました。)

はじめに

弊社LITALICOでは「障害のない社会をつくる」というビジョンを元に、様々な事業を展開しています。

「障害は人ではなく、社会の側にある」という考えのもと、LITALICOジュニアで当事者に対する教育支援LITALICOワークスで成人当事者を対象としたキャリア開発支援に取り組んでいます。
対人支援分野での知見を活かし、現在は、メディア運営(発達が気になる子どもの親向けポータルサイト - LITALICO発達ナビ働くことに障害のある方の就職情報サイト - LITALICO仕事ナビ)から、当事者の家族向けライフプランニング事業 - LITALICOライフ、福祉施設に対する業務支援まで、幅広く事業を拡大しています。

 この記事では、はじめに自分なりのWebアクセシビリティの理解を書いています。その後、実際にWebアクセシビリティの向上のために@negiと行ってきた、実装までの取り組みについて書いています。最後に今までやってきた課題と今後どうしたいかについて書いています。全体的に田中として、Webアクセシビリティにどう向き合っていきたいか、決意表明も兼ねた記事となっていますので、最後まで読んでいただけると幸いです。よろしくお願いします。

私たちの自己矛盾

 前述の通り、当社は「障害のない社会をつくる」というビジョンを掲げていますが、私の所属する部署のプロダクトである発達ナビでは、例えば視覚障害者が用いる、読み上げ機能に対する対応が不十分であり、「障害のある」ページとなっています。自己矛盾と言える状態です。

 弊社では、そのことに課題感を持ちつつも、次々とプロジェクトが進み続け、なかなか対応の優先度が下がっている状況でした。(新規プロジェクトにも、当たり前にアクセシビリティ対応を含めるようになりたいものです。)

アクセシビリティとは

 アクセシビリティは多様な状況、多様な手段、多様な利用者にとって使える幅のことです。例えば建築物だと、階段の他に車椅子の人に使えるスロープといった、別の手段を用意することが、アクセシビリティを広げることになります。
 似たような言葉にユーザビリティとありますが、こちらは特定された利用者・デバイス・シチュエーションでの使いやすさの度合いです。車椅子の通りやすさやのために、スロープの傾斜角や道幅、路面の材質を調整することはユーザビリティを上げると言えます。
 よってアクセシビリティの次にユーザビリティーがあると考えることができます。

Webアクセシビリティとは

 Webの父ティム・バーナーズ=リーの言葉に次のような言葉あります。

「Webのパワーは、その普遍性にある。障害の有無に関係なく、
誰もが使えることが、その本質である。」

  WebはWebというだけで全世界から、多様な状況、多様な手段(支援技術)、多様な人々からアクセスすることができます。その時点ですでに本質的にアクセシビリティがあります。多くの人々が、外国語を翻訳したり、目で見えないものを読み上げたり、見えずらい文字を拡大したり、マウスを視線で操ったりして、Webにアクセスし、知りたい繋がりたいという思いを実現しています。

 そのためWebアクセシビリティとは、すでにWebがもつ上記のようなアクセシビリティは当然のものとして、ユーザビリティにまで範囲を広げた、使える幅と使いやすさの度合いの掛け算だと捉えた方が自然です。

障害をすぐになくせるWeb

 弊社では「障害は人ではなく、社会の側にある。」という考えを大切にしています。

 例えば足が不自由な人でも、軽快に移動できて、かっこいい車イスがあり、様々な場所にスロープやエレベーターがあれば、移動に障害を感じることはなくなるのではないでしょうか?もし、精神的に不安の強い方でも安心して働ける職場があたりまえにあったら、「働く困難」はなくせるのではないでしょうか?
 社会の側に人々の多様な生き方を実現するサービスや技術があれば、障害はなくしていける。この想いで私たちは今まで進んできました。

 Webにおいて、例えばAppleのボイスオーバーといった素晴らしい車イスがあり、Webサイトは特別な制限をあえて設けない限り、スロープのようにその移動を妨げません。ただその路面がガタガタであったり、狭かったり、急だったりすることがあるだけです。
 Webでは、かっこいい車椅子を作らなくても、スロープを作るほどの労力をかけずとも、簡単に知りたいや繋がりたいの困難をなくすことができます。Webは比較的簡単に、障害をなくすことができる力を持っているのです。これをみすみす忙しいからと利用しないことはできません。

私たちが作っている障害

 直近は、@negi発達ナビのコラム記事でのWebアクセシビリティの向上に取り組み始めています。

 発達障害ということを知らずに子育てをしていると、周りに比べて自分の子どもの発達が気になるけれども、それは自分の育て方が悪いんだろうかと、自分を責めてしまうことがあります。
 また、障害をもつ、お子様をお持ちの親御様同士は、なかなか繋がりにくく、一人で子育ての悩みを抱えなければならないことが多くあります。

 そのような発達が気になるお子様をお持ちの親御様の子育ての悩みと孤独を解決するお手伝いをすることが発達ナビの役割です。

 もし発達が気になるお子様をお持ちで、目が見えない人がいたら?スマートフォンで検索をして、発達ナビにたどり着いても、読み上げ対応がむちゃくちゃで帰ってしまって、結局情報収拾もコミュニティへの参加もできず、悩みと孤独を抱え続けてしまったら?

 それは私たちのサイトが障害を作っているといえます。

障害があるからといって課題は変わらない

 目が見えなくとも、「発達が気になるお子様の子育ての悩みと孤独」は他の全てのユーザーのペルソナと変わりません。(目が見えないゆえの子育ての難しさはもちろん別にあります。目が見えないことと、発達が気になるお子様という2つの要素が合わさった時に起こるまた別の課題に対して、記事などを書きたい。)
 よって拡張する形で「全盲で発達が気になるお子様を抱える親御様」というユーザーのペルソナを作りました。

障害特性を踏まえた要件定義

 発達ナビには発達の特性の概要をわかりやすく説明する「とは記事」というユーザーには最初に読んでもらいたい記事があります。「とは記事」を読んでもらえるようにすることを第一目標としました。全盲の人がどのようにWebを使うのかを知るために@caztchaさんのインクルーシブなペルソナ拡張という支援ツールを参考にしました。そしてスクリーンリーダーの読み上げが綺麗に行われるようにすることが目標を満たす最低限の基準だと定めました。


私たちがいなくなっても続く仕組みを作っていく

 ここまで@negiと二人で活動してきました。私たちはやる気と元気が幸いにもあるため手を動かすことができます。ただそれは他の人に求めることはできません。

 よって私たちがいなくなっても仕組みとしてWebアクセシビリティが維持されるように、開発に組み込めるチェックリストを作成しています。今後の開発で、チェックリストを元に問題を洗い出し、そこに書かれた実装まで含んだ解決策を用いてもらって、仕組みでWebアクセシビリティを保障しようとしています。

しかし今までのこれは全て妄想であることを自覚する

 ここまでやってきて、一番の問題は本当にユーザーに会えておらず、妄想で進んできてしまったことです。
 少しでもユーザーを知るために、視覚障害者のパソコンサポートのインストラクター養成講座 に参加したりもしました。
 それを踏まえて思ったことは、VoicePopper4のようなメディアサイトやショッピングサイトをわかりやすく構造化したソフトを使って、情報収集しているユーザーが多くて、実はそのようなツールに「とは記事」を掲載してもらわなければとどかないのではないか?やっていることが大きく的外れではないか?

 実際に会いに行こう、そこから始まる。

最後に

 LITALICOは現場で障害のある方に支援をしながら、その方をとりまく環境へも働きかけることで、障害をなくてしていこうとしています。
 私たちデザイナーやエンジニアは支援者ではなく、Web屋であり、現場のノンコア業務を楽にして間接的に支援の質を上げ、障害を無くしているとばかり思っていました。
 しかし私たちにはWebアクセシビリティを向上させる力がありました。

Webアクセシビリティに向き合うことは、
Web屋が、障害に向き合う姿勢です。

ゆくゆくはアクセシビリティの分野でも業界を引っ張ることができるように、日々積み重ねます。

 現在弊社LITALICOではデザイナーやエンジニアをWantedlyにて絶賛採用募集中です。(Wantedlyの弊社の募集一覧ページ)ぜひご気軽に、お話だけでも聞きに来てください。

  ※この記事は『LITALICO Advent Calendar 2019』13日目の記事です。次回14日目はアーキテクトである磯貝さんの『コーディング不要、LP制作はInstapageでって言ったよね!』です。お楽しみに!

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