見出し画像

微炭酸なココア

オトナらしさってなんだ?

お酒を飲むようになってからは、味にキレがないソフトドリンクは飲まなくなった。お酒を飲まない時はお茶やコーヒー、なければ水道水を飲むようになった。どうも、甘ったるいだけの飲み物が好みに合わなくて。

「苦味」すらも楽しめるのがオトナ。

自分が散々馬鹿にしてきた風潮の中に自分も例外ではなく含まれていることに驚いてはいるけれど、だからこそ、「甘いっぱなし」のものが好きな成人の方やお酒が飲めない方は息苦しいんだろうなと思う。

俺にも似たようなことがあるから、思わずにはいられない。

青春らしさなんて滅べばいいのに

寮にある自販機がふと目に入った。
高校時代、部活終わりに水筒がカラカラの状態で部室近くの自販機の群がっていた日々を思い出した。
原因はひとつ。
500㎖で100円の「ビタミン炭酸MATCH」

俺は100円が無駄になると分かりながらも、何年ぶりかも分からないその飲み物を買った。自室に戻って、缶のプルタブを開けた。
記憶が風化したからか、昔の方が軽かったような気がする。

缶を景気よく傾けて飲んだ。

あれ、意外とおい….…しくないな、甘すぎるわ。
全く飲めない。
そもそも500㎖の缶ってなんだ。
しかも微炭酸飲料で。
微炭酸は僕の手の体温でどんどん抜けていく。
微微微炭酸。

書きかけのエッセイのWORDを閉じて、大塚食品のサイトを開いた。

こういうの嫌いなんだよな。
「乾け!」みたいな路線。

「いや別にこっちの内面の話にあんたら関係ないやんか。土足で入って来んといて。」

こういうの他にもあった気がする。

「やってんなぁ。ただキラキラさせればいいと思ってやがる。マーケティング部隊はこんな安直な仕事でお金貰ってんのかぁ。」

一人で吐く毒は、誰かを傷つけることなく自分だけを惨めな気持ちにさせるもので、MATCHを台所のシンクに捨てながら俺は自家中毒を起こしていく。

これら三商品のマーケティングが俺に与えるメッセージは「そもそもお前みたいなキラキラしていないやつは対象じゃないから。これ、一軍専用だから」でしかない。

ポカリスエットの大量の高校生が水がまき散らされる中を踊るCMを見ると、無理やり参加させられた応援団をおもいだす。制服で踊るのは良いけど、ドロドロの制服を洗うのは誰だ?俺は親にキレられて自分で手洗いさせられた。

受験期のカロリーメイトのCMを見ると、そんな小麦粉の塊で和らぐような不安しかないやつは受験生なんかじゃねぇよなめてるの?、とおもってしまう。もし本当に不安を解決できるなら、悪いことは言わないから消費者庁に申請したほうがいい。皆が欲しがるはず。

MATCHの「乾く理由が、ありすぎる。」というブランディングには、だからなんやねんその渇きはあんたらの商品じゃ潤わねえよ、とおもってしまう。

まぁこれは完全に当たり屋の繊細ヤクザになっている俺が悪いけれど、多様性が叫ばれるこの時代に、こういう一方的な「青春像」の押し売りってのは一体どうなんだろうとおもってしまう。

「キラキラ汗をかくのが青春だ!」

そんな青春を送っているのは一部だ。
半分もいない。
だって過半数がキラキラしたらインフレが起きて、キラキラの価値が下がって付加価値ではなくなり、わざわざCMにも使われていないはずだから。

微炭酸なココア

だからこそ、冒頭の

「苦味」すらも楽しめるのがオトナ。

みたいな風潮も誰かを心苦しくさせているんじゃないかと思ってしまう。
実際に俺が友人を2人でのご飯に誘った時に、「行きたいけどうたたネはお酒好きだから、お酒飲めない俺とご飯食べても楽しくないでしょ?」と寂しそうな顔で言われたことがあった。そんなことを言ったのは一体どこの誰なんだ。

オトナならお酒は飲めた方が良い。
飲めないやつがいると白ける。


「あのなぁ、俺のトーク量が飲み物一つで変わると思うか?心外やわ。微炭酸のココアでもなんでも飲んだろうやないか。」

そして、彼の行きつけのご飯の美味しい喫茶店でのランチの後、本当に特注で微炭酸なココアを注文されることになったけれど、それはそれで新しい味わいで良かったし、全く会話に影響はなかった。お酒で楽しさが変動するような関係は最初から知れた程度のものでしかないよ。

頂いたお金は美味しいカクテルに使います。美味しいカクテルを飲んで、また言葉を書きます。