安倍家岸家考①(主要参考文献について)

これから書き連ねることは趣味で調べたことをまとめただけであり、大学生のレポート程度のものでしかないことをあらかじめお断りしておく。突如歴史人物となってしまった安倍晋三という政治家のパーソナリティとモチベーションにふと興味を持ち、ネット検索と図書館とAmazonを頼って情報をかき集めてみたところ、安倍家と岸家(その背後には佐藤家)という家の存在が無視できないように思えるようになり、せっかくなので自分なりに見えてきたものを書き記しておくことにした。
人物評をする際に出自というのは慎重に扱うべき側面であるが、母方の祖父への敬愛を表明してやまない人物の家系をたどるのはごく自然なことで、実際興味深い家系・家族であり、安倍晋三という人物を探るとどうしてもそこにたどり着く。
検討する順番は、安倍晋三の人物像、両親と祖父の影響、岸家と佐藤家との関係性、安倍家と岸家の未来、といことで進めていく。

安倍晋三を人物として調べた著書については主に以下の5冊を参考にした。
①『気骨 安倍晋三のDNA』野上忠興・講談社・2004年
②『ドキュメント安倍晋三』野上忠興・講談社・2006年
③『安倍晋三 沈黙の仮面』野上忠興・小学館・2015年
④『安倍三代』青木理・朝日新聞出版・2019年(初出「AERA」の連載は2015~2016年)
⑤『絶頂の一族 プリンス・安倍晋三と六人の「ファミリー」』松田賢弥・講談社・2015年
野上の著書は3冊あるが、①は安倍が自民党幹事長時代、②は最初の首相就任時、③は第3次安倍内閣時に書かれたものとなる。野上は清和会の番記者経験から父晋太郎と親交深く、その関係で安倍家とは縁があり、晋三の乳母的な存在であった久保ウメへの取材が著書の大きな特徴である。内側に入り込んだ取材によるものであるためその読み取りには慎重にならねばならない面(特に②はその傾向が強い)はあるが、③に至って野上の安倍への評価と筆致が変わるため、比較することによって情報が立体的になってくる。
青木の著書④はタイトルのとおり政治一家安倍家三代の実像を追って取材を重ねたものとなっている。青木は周辺人物への取材によって野上のそれはまた違う安倍晋三の人物像を浮かび上がらせている。
⑤はタイトルのとおり安倍家、岸家との繋がりの見立てが参考になる。情報としては晋三の叔父(晋太郎の異父弟)西村正雄への取材がある。
③④⑤はともに初出は2015年であるが、これはちょうど安保法制の頃で、国会での対応などから安倍晋三の人間性に関心が持たれる時期と重なる。青木がそうした観点から切り込むのは当然として、野上が③に至って辛口になり、取材アプローチの違う野上と青木の視点が交錯していくのは興味深い点である。

上記以外でもう一人扱いが微妙な書き手がいることにも触れておく。それは七尾和晃である。七尾和晃とは一個人ではなく1チームと捉えた方が適切といえる。『安倍晋三の乳母はなぜ消えたのか : 彼女が私に語った安倍家のすべて』(徳間書店・2015年)の著者プロフィールには「2014年に初代執筆者は引退、交代し、本書から有志の出版編集者、新聞記者、雑誌記者らによる集団執筆方式に移行」とある。同書は「週刊新潮、月刊現代(現在は休刊)と週刊朝日などに掲載された当初原稿を大幅に加筆・修正したもの」とのことで、文責に不安がある。しかしながら、タイトルからも察せられるように久保ウメの証言がメインであるため上記5冊との比較で部分的に参考になる点がある。七尾はその前に『総理の乳母 : 安倍晋三の隠された原風景』(創言社・2007年)を出しており、こちらも内容的には2015年のものと大きく変わらないが、厄介なのは両書とも無駄に大袈裟な書き癖があることである。その中で比較的情報がまとまっているのが「月刊現代」2006年5~7月号に連載された⑥「安倍晋三が封印した『乳母の記憶』(上)(中)(下)」であり、本稿ではこれを必要に応じて参照する。

家族の証言としての主要参考文献は2冊。
⑦『わたしの安倍晋太郎 岸信介の娘として』安倍洋子・ネスコ・1992年
⑧『安倍家の素顔 安倍家長男が語る家族の日常』安倍寛信・オデッセー出版・2020年
最近、母・洋子は『宿命 安倍晋三、安倍晋太郎、岸信介を語る』(文藝春秋、2022年9月)を上梓したが、こちらは近年の月刊誌「文藝春秋」で受けたインタビューを加えた⑦の再刊である。母・洋子の証言・発言のベースは⑦にあるが、今回⑦の再刊本に収録されたもの以外にも多くのインタビューを受けているため、それらについては必要に応じて都度引用する。
⑦の再刊本は事件を受けて緊急出版されたものであるが、⑧は著者にとっての弟晋三が二度目の首相退任後に書かれたものである。
昭恵夫人についてはインタビューが多くあるが、本稿では青木理のもの(④および「AERA」)を重要視する。

父安倍晋太郎の人物像(と祖父安倍寛)については、この1冊が主要参考文献となる。
⑨『いざや承け継がなん』木立眞行・行政問題研究所・1986年
評伝としては本書に負うところになるが、晋太郎・寛の周辺人物の証言については青木の④を参考にする。

岸信介と岸家については多くの著書があるが、人物と家系に係わるものとして以下のものを主要参考文献としておく。
⑩『岸信介傅』吉本重義・東洋書館・1957年
⑪『我が青春 生い立ちの記/思い出の記』岸信介・廣済堂・1983年
⑫『絢爛たる悪運 岸信介伝』工藤美代子・幻冬舎・2012年
岸の生い立ちがまとまっている自伝としては⑪、評伝として最初のものが⑩。⑫についてはいくつかの見立てを参考にした。

以上の主要参考文献を元に次回以降進めるが、①~⑫について引用する際は引用文の直後に(野上③Pxxx)といった注を添え、それ以外の文献については適宜明示することにする。
改めて念を押すと、本稿には取材等による新事実や学問的な分析・考察などは一切ない。あくまでもすでに記録されたものをたどりながら、手前勝手な見立てを書き留めるだけのものであることを再々お断りしておく。

つづく

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