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ゆるやかな下り坂

「クロイツフェルト・ヤコブ病」を宣告されてからも、
しばらくは落ち着いて過ごせたと思う。
これはこの病気では本当に幸運な事だった。

ただ、少しずつ違っていっている気配のようなものを感じてはいた。

漢字が書けなくなってきている。
言葉につまる事が多くなって来た。
定位置だったパソコンの前に座るより、テレビの前で寝っ転がる時が多くなった。

決定的だったのは、11月に有馬に旅行に行った時、旅館の部屋着に着替える事が出来なかった事。
いつもの自分の服、いつものパジャマ、それなら大丈夫だったけど。

あと、旅行中子供のように私の後ろに付いて歩いた。

うちの家族は結構みんなそれぞれ好きな事してて、主人も私もあまりかまわれるのが得意ではなかった。
それでもたまに気が向くと一緒に出かけたり、食事に行ったりして、その距離感が心地良かった。

主人の中に、病気による不安感が少しずつ大きくなってきている。
それを感じた最後の旅行だった。

この間も、何週間かおきに神経内科の外来に通ったけれど、
「そんなに進行してませんね」と言われてた。
じわじわと、なだらかな下り坂を降りて行くような肌感があったのだけど、
医者から見ればそう見えるんだなあと思った。
今から思えばまだまだ平和に過ごせていたけど、その時は
「これからどうなって行くんだろう」という不安の方が強かった。

両親に「仕事は辞められへんのか」と言われたけど、収入が無くなる怖さの方が勝って、その選択は出来なかった。
主人の病気がいつどうなるか分からない上、自分達の生活もある。
同じ病気でも、半年で亡くなった人もいれば、5年以上頑張れた人もいる。
それを実母に話すと、
「5年も生きたらどうすんの」と言われた。

私を心配しての事だとは分かってはいるけれど、この事を私はずっと根にもっている。
口には決して出さないけど。

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