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「彼氏ほしい」の真意

ツイッターでは今日もいろんな女の子が「彼氏ほしい」なんてつぶやいたりしていて、ブスな子のつぶやきに「いいね」をつける人は誰一人として現れないまま、一方、可愛い子のツイートには男の子からの「いいね」が止まらない。
そんな世の中に私が「いいね」したい。いいね。わかりやすくて。

「彼氏ほしい」というつぶやきを見たり聞いたりするたびに、「彼氏ほしい」というのはつまりどういうことなんだろう、どうして「彼氏ほしい」とつぶやいてもその子に彼氏ができないんだろう、と考えていたけれど、最近になってようやくその意味がわかってきた気がする。

「彼氏」について

私は、「彼氏」=「好きな人」ではないと思っている。それなら「彼氏」≠「好きな人」なのか、と言われるとそれも違うと思う。要するに「彼氏」=「好きな人」とは限らない、ということだ。これはあまり知られてはいないのだけれど、「好きな人」がいなくても「彼氏」は作れたりする。

「彼氏」というのはつまり、「付き合ってください」と言ったら「はい」と返事をしてくれた人のことで、逆もまた然り、「はい」と返事をする前に「付き合ってください」と言ってくれた人のことだ。

言ってしまえば、街を歩く見知らぬ人に「付き合ってください」と話しかけてみて、「はい」とその人が言ってくれればその時点でその人は「彼氏」で、「はい」と言ってくれなかった場合はその人はただの「街を歩く見知らぬ人」だ。「彼氏」というのはそういうものだ。
実は「彼氏」と「街を歩く見知らぬ人」とは紙一重で、そんな曖昧で脆くて儚い存在に誰かが勝手に名前をつけただけのこと。私たちはすぐに名前をつけたがる。そしてその名前に甘えたり、すがったり、憧れたりする。

私には付き合って2年になる彼氏がいる。2年前のとある日に、私が彼に「付き合ってください」と言ったら「はい」と言ってくれたからこそ彼は私の「彼氏」で、それ以上でもそれ以下でもない。あの時「はい」と言ってくれたから、たかがそれだけ、されどそれだけのことで、彼は紛れもなく私の「彼氏」だ。

そんなこんなで私には彼氏がいるのだけれど、彼氏がいても、友達の女の子の、顔見知りの女の子の、顔も名前も知らない女の子の、「彼氏ほしい」に対して「わかる」と思ってしまうことがある。不思議なものだ。

「彼氏ほしい」について

おさらいすると、「彼氏」というのは、「付き合ってください」と言ったときに(もしくは言われたときに)「はい」と答えてくれた人のこと(もしくは答えた相手のこと)。
では、今日もどこかに溢れかえる誰かの「彼氏ほしい」は、そういう「彼氏」がほしいということなのか、というとそれは違う。もしそうだとしたら、すでに彼氏がいる私が誰かの「彼氏ほしい」に「わかる」と思うわけがない。

そう。今日もどこかに溢れかえる誰かの「彼氏ほしい」の「彼氏」は、実は「彼氏」ではない。おそらく私が思うに、「彼氏ほしい」というつぶやきに対して男の子から「付き合ってください」という返信が来たとしても、その女の子は「はい」とは返さない。なぜなら、その「彼氏ほしい」とつぶやく女の子は「彼氏」がほしいわけではないからだ。

大事なことなのでもう一度言う。
「彼氏ほしい」とつぶやく女の子は「彼氏」がほしいわけではない。

「彼氏ほしい」の「彼氏」について

それなら「彼氏ほしい」の「彼氏」は一体何だというのだろう。

「それ」はたぶん、人間の男の子のような形をしている。人間の男の子のように歩くことも、話すこともできる。とてもよくできている。喋り方や立ち振る舞い、質感までまるで人間の男の子のようだ。

LINEを送れば返信をくれて、その日あった嬉しかったことや悲しかったことを「うんうん」と聞いてくれる。いつLINEを送っても嫌がらない。返信はきっと早い方だ。既読スルーなんてしない。

「会いたい」と言えば会ってくれる。好き、と言うと、好き、と返してくれる。好き、と言わなくても、好き、と言ってくれる。好きなときに好きなだけ触れていい。キスだってしてもいい。
抱きしめてくれる。頭を撫でてくれる。笑っていると一緒に笑ってくれる。泣いていると一緒に泣きながら涙を拭いてくれる。

「それ」はたくさんの愛をくれる。それはもうたっぷりと、溢れんばかりの愛を。けれど重くない愛。軽やかに、優しく撫ぜられるような愛。心地のよい愛。

きっと、「彼氏ほしい」の「彼氏」はそんな、人間みたいな何かだ。限りなく人間に近いけれど、でも断じて人間ではない。誰もが知っている通り、そんな完璧なものはこの世に存在しない。

彼氏のいる子もいない子も、ブスな子も可愛い子も女の子なら誰でも、嘘みたいに素敵な、言ってしまえば都合のいい男の子の存在を夢見て今日もつぶやく。「彼氏ほしい」と。

だからダメだ。君じゃあダメなんだよ。

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