木原事件 「事件性なし」の殺人事件(5)
この物語はフィクションであり、登場する人物は全て架空の人物です。
警視庁の監察官室に呼ばれた香田捜査一課長は監察官から何故、吉田民雄事件について当初から「事件性なし」と判断したのかと聞かれます。香田は2023年2月から捜査一課長として働いていますが、その直前は鑑識課長であり、現場検証のプロとも言える刑事でした。「週刊ブンブンの記事を事前に読んでいたので、これは多分記者に聞かれるなと思い、大塚署にあった報告書を読み、事件性なしとしました」と香田が答えます。すると監察官は「しかし再捜査の記録も残っていたのではないですか?」と重ねて質問をしました。「いや、その時点では見つかりませんでした」「香田さんは斉藤元警部補が会見をした日に合わせてメディアに対し再度事件性なしと会見していますが、最初の会見から2週間近くありますよね。その間にブンブン記事で斉藤元警部補が話したような再捜査資料は見つからなかったのですか!」「再捜査をした記録は確かにトクイチにありましたが、それを見ても被疑者は特定されておらず、自殺で矛盾はないと判断しました」「香田さん!あれを見て本当に事件性なしと思ったんですか?あのナイフでは喉にあんな穴は開かないでしょう。あなたは鑑識のプロではないんですか?」「・・・」
「香田さん!では刑事告訴状を受け取ったあと、あなたが何をしたかをお聞きします」「遺族が大塚署に刑事告訴状を出したことは承知していますが、正式に私のところには何も上がって来ませんでした」「本当ですか?おたくの係長が遺族に説明をしていませんか?」「いや、あれは上申書が届いた時の話です。捜査一課としては大塚署に協力しただけで自殺で矛盾はないと説明しています」「では被疑者不詳の殺人事件にも拘らず告訴状が捜査一課に届かなかったと言うのですか?」「はい、そうです!既に上申書の際に事件性なしと大塚署に説明してあるので、刑事告訴については彼らの判断として事件性なしで送検したのだと思います」「香田さん!殺人事件の告訴ですよ!それを受理しているのに、捜査一課に回らなかったと言うのですか?」「う〜ん、多分大塚署としては上申書の際に既に殺人事件ではないと確定しているので、告訴状を受理したのは本件は事件性はないと言うことが前提だったのだと思います」「香田さんはお父さんも警察官だったですよね。警察官になろうとしたのはそんなお父さんを尊敬していたからではないですか?今のあなたを見てお父さんはどう思うでしょうね?」「ふざけるな!!!俺は何も自分に恥じること等していない!警察官になったことを誇りにしているからこそ、今も警察を守ろうとしているんだ!!」
頭を抱えた監理官は警務部長に今後の進め方を相談します。「部長、どうしましょう?遺体の鑑定書も見ないで判断したことは問題だと思いますが、それだけでは職務怠慢で処分することは出来ません」「そうだな!しかし、検察からは明らかに事件性ありと言って来ているのに、このまま事件性なしで突っぱねるのはちょっと苦しいな!」二人はしばらく沈黙を続けました。そして「これは総監と検事正で話してもらうしかないな!」と警務部長は呟きました。二人はさっそくアポを取ると警視総監室に向かいました。「検察が事件性ありと言っているものを俺から事件性なしにしろと検事正に言わせるつもりか!」総監は怒りを込めて部下を叱りつけます。「露本長官は警視庁で判断しろと言っているのだから、警視庁としてしっかり再捜査するしかないだろう!香田は立場上、事件性なしと言わざるを得ないだろうから、兎に角あいつを早く替えてやるしかない。早速、新しい一課長の人選を始めろ!」そうして、しばらくすると新たな捜査一課長が任命されることになりました。検察に対して本件の捜査協力を申し出るとすぐに検察警察合同で捜査することが決定されました。
(続く)
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