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7 おめでとう

親の再婚で家族になってそれからずっと片思いの相手。きれいな姉さんで羨ましいって何度も言われてきたけれど俺にとっては地獄でしかなかった。白無垢姿に胸が震える。俺が幸せにしたかった。気持ちを伝えてさえいたらもしかして何かが変わっただろうか。青い空に涙を堪え俺はおめでとうを絞り出す。

姉貴のいる待合室をノックした。

「どうぞ」

澄んだ声。
そっとドアを開けると姉の晴れ姿が目に飛び込んできた。
前撮りでちらっと見てはいたけど、間近にせまる白無垢姿はやばいくらい綺麗だ。

「あ」

驚いたような顔。
偶然そこには姉しかいなくて、凄く気まずい。

「おめでとう」

ぼそり、と声を投げかけた。
青空の下で何度も繰り返したリハーサル。
そのせいか思いのほかスムーズに言えた。
姉の大きな目がさらに大きく広がって、そしてポロポロと大粒の涙が溢れてきた。
うわ、泣かせちまった、なんて動揺とともに
俺の心臓が、さっきとは違う感じで大きく跳ねる。

何だよこの反応。
何だよ、まさか、
え、嘘だろ?

義姉は笑い泣きながら

「ありがとう。ケンちゃんも幸せになってね」

優しい声でそう告げた。

一瞬で思い出が駆け巡る。
地元の悪いやつと喧嘩してボコボコにされた時、俺が第一志望に落ちた時。
あの時も義姉は泣いていた。

血が繋がってるわけじゃないのに馬鹿じゃねえの。
そう思いながらも、嬉しかった。
そしていつの間にか、一番大切な人になっていた。

圧倒的な主役になれる日に、自分じゃない誰かの幸せを真っ先に願う女。
メイクが崩れるのも気にせず盛大に泣いちまう、可愛い女。
それが俺の愛した女だ。

ティッシュを手渡しながら、体からするすると力が抜けていく。

さっきのは、俺の恥ずかしすぎる勘違い。
もしかしたら本当は俺のこと、なんて一瞬、つい変な妄想が頭をよぎったけど。
そんなこと、絶対にあるわけないんだわ。
そう。
彼女はそんなタイプじゃない。
わかってたんだけどなあ。
それでも、つい…。

ああ、まだ全然、胸が痛いや。

俺は「じゃ、また」と言って部屋を出た。

俺の宝物を奪っていく、世界一の幸せもの、そして最高に優しい俺の親友に「俺の姉貴を泣かせたら許さん」なんて、ベタな台詞を投げかけて、リハーサルした言葉も添えて。

この恋、卒業するために。

終わり

(tiktok の概要欄にも短編を掲載していますので動画&音楽付きでお楽しみください)

@kirinorino140

姉貴のいる待合室をノックした。 「どうぞ」 澄んだ声。 そっとドアを開けると姉の晴れ姿が目に飛び込んできた。 前撮りでちらっと見てはいたけど、間近にせまる白無垢姿はやばいくらい綺麗だ。 「あ」 驚いたような顔。 偶然そこには姉しかいなくて、凄く気まずい。 「おめでとう」 ぼそり、と声を投げかけた。 青空の下で何度も繰り返したリハーサル。 そのせいか思いのほかスムーズに言えた。 姉の大きな目がさらに大きく広がって、そしてポロポロと大粒の涙が溢れてきた。 うわ、泣かせちまった、なんて動揺とともに 俺の心臓が、さっきとは違う感じで大きく跳ねる。 何だよこの反応。 何だよ、まさか、 え、嘘だろ? 義姉は笑い泣きながら 「ありがとう。ケンちゃんも幸せになってね」 優しい声でそう告げた。 圧倒的な主役になれる日に、自分じゃない誰かの幸せを真っ先に願う女。 メイクが崩れるのも気にせず盛大に泣いちまう、可愛い女。 それが俺の愛した女だ。 ティッシュを手渡しながら、体からするすると力が抜けていく。 さっきのは、俺の恥ずかしすぎる勘違い。 もしかしたら本当は俺のこと、なんて一瞬、つい変な妄想が頭をよぎったけど。 そんなこと、絶対にあるわけないんだわ。 そう。 彼女はそんなタイプじゃない。 わかってたんだけどなあ。 それでも、つい…。 ああ、まだ全然、胸が痛いや。 俺は「じゃ、また」と言って部屋を出た。 俺の宝物を奪っていく、世界一の幸せもの、そして最高に優しい俺の親友に「俺の姉貴を泣かせたら許さん」なんて、ベタな台詞を投げかけて、リハーサルした言葉も添えて。 この恋、卒業するために。 #140字小説#140字恋愛小説#短編#続きも読んでね

♬ ランデヴー - シャイトープ




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