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脱毛

世の女性は清潔感のある男が好きだ。
ムダ毛なんてものは可能な限り少ない方が好ましい。
そもそも先進国で暮らす人間にとって、まつ毛よりも下に生えている毛など不要なのだ。毛とはその部位を外的要因から守るために生えているのであって、衣服で覆われている脇やスネなどの毛は読んで字の如く「ムダ」毛である。
そんなところの毛は、未だに鹿やらイノシシやらを追いかけ回している人種にだけ生えていればいいのだ。野生動物の牙や角から守ってもらいなさい。私のような文化人には必要なくってよ。オーホッホッホ。

ということで、デリケートゾーンの脱毛に行ってきた。
これで私も清潔感のある男、すなわち清潔漢に早変わりだ。モテ男子の仲間入りだ。街中の女性にツルツルの陰部を見せつけることで、「あらやだ、素敵ね。連絡先を知りたいわ。」などと思われること間違いなしだ。
女性にモテモテ、テストでは100点、部活でもレギュラーを勝ち取り、家庭環境も改善。さらには排気ガス減少、富裕層と貧困層の格差是正、アフリカに清潔な水が湧き、チェルノブイリが人の住める環境に戻る。
そう、それがデリケートゾーン脱毛…

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某日、都内某所に私はいた。
前日の夜に陰部の毛は剃ってある。あとは施術を受けるのみだ。
男の陰部脱毛は男性医師が務めると聞くが大丈夫だろうか。生まれてこの方、同性に陰部をいじくり回された経験などないに等しい。異性にだってないに等しいといった有様である。
果たして担当医は陰部に優しくしてくれるだろうか。不安を募らせつつ受付を済ませる。
10分程度待ち処置室に入った。担当医との対面である。
「こんにちは、担当の亀井です。よろしくお願いします。」
いかにも優しそうな温厚そうなイケメン医師である。
よし、これは当たりだろう。私の陰部にもきっと優しいはずだ。イケメンってのは大抵性格もいいのだ。私の経験上性格が悪い奴はニキビ面だったりツリ目だったり、内面の醜悪さが顔にも表れているような奴ばかりなのだ。
それがこの亀井さんはどうだ。そこはかとない清潔感を放ち、目は若干タレ目、髪には軽いパーマがかかっている。「陰部に優しい」と顔に書いてあるようなものだ。例え多少乱暴に扱われても、亀井さんなら許せるような気さえしてくる。まったくイケメンというのは得な才能である。

イケメンに促されるままに、私の下半身はありのままの姿になった。
いよいよ脱毛開始である。
亀井さんが「少しチクっとしますよー。」と言うやいなや ─── as soon as ─── 陰部に強烈な痛みが走る。
亀井さん、少しチクっとどころの騒ぎではないです。激しくバチバチに痛いです。話が違うじゃないですか。
施術前の説明では針でチクチクされるような痛みだと聞いていたのだが、これはどう考えても電気属性の痛みである。ピカチュウの10万ボルトが私に効果バツグンである。こんなのを毎週木曜日にくらっていたロケット団は不死身の生命体だ。
施術は続き、肛門の処置に移る。これがもう非常識な痛みとしか言いようがない。
肛門の内側にまで脱毛レーザーが入り込み、内臓に届いている感覚がある。Bloodborneの致命攻撃じゃないんだから、内臓にダメージなど入れなくてよい。
亀井さんはずっと「大丈夫ですか?」と優しい声をかけてくれるが大丈夫な訳がない。見ればわかるだろ。あまりの痛みに「大丈夫ですか(笑)」と煽られている気分になってくる。覚えてろよ亀井、後でネット掲示板にボコボコに書いてやるからな。

施術が終わると先程までの痛みが嘘のようだ。尾を引くタイプの痛みではないようで助かった。帰り際、亀井が肌荒れ防止の塗り薬をくれた。アフターフォローも欠かさないとはさすがイケメンだ。次回の施術も是非、亀井さんにお願いしたい。

全5回を予定している脱毛の初回を終えたので、私は20%清潔漢になったという訳だ。戸愚呂(弟)でいうと初登場時くらいの清潔感を手に入れたことになる。魔界ならともかく人間界でやっていくには十分と思われるが、代金を支払ってしまった以上あと4回通わなければもったいない。100%清潔漢への道は長い。

最後になるが、この記事が皆様の脱毛への足掛かりになれば幸いである。
特に私同様モテない男性諸君には参考にしていただきたい。

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