駅そば

駅そばを食べるのが小さな冒険、という話。

駅そばを食べることが昔からなんとなく好きだった。スーツを着た大人に紛れ、制服姿でかけそばを啜った日々。手軽に、安く、適当にお腹を満たせる、部活帰りの学生にはうってつけの補給地。

10代の頃食べる駅そばは、いつも小さな冒険だった。周りは父ほどの年齢のサラリーマンばかりで、なんとなく自分はお呼びではない場所のような気がした。100円玉を3枚握り締めて、暖簾の前をいったりきたり、券売機に並んでは列から抜け、何人も見送ったり。Yahoo検索に店名を打ち込んでは熟考し……せっかく人生のうちの貴重な一食を捧げるなら後悔したくないじゃないですか。迷って悩んで考えている時間も込みで味わい尽くしたいじゃないですか。あのどきどきわくわくは、きっとそういうこと。まあ、一杯290円なんだけど。

ひとりで外食をすること、駅そばを啜りながら人々の流れをぼんやりと眺めること、胸焼けすると分かっていながらかき揚げ天をつけること。その全てが特別な営みでなくなった、緊張を伴わなくなった今でも、なんとなくわくわくしながら駅そばを探す。乗り換えのタイミングで秋葉原の立ち食いそばを制覇するのが卒業までの目標。人生は小さい楽しみが多い方が豊かですからね。歯のある人生しあわせ人生。


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