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我が家は決して裕福な家庭ではない。中流を自認している。しかし誤解を恐れず言うと今住んでいるアパートの床は大理石でできている。

大理石のいいところはなんといってもその高級感だ。見るからに無機質な感じ、触れると感じる冷たさ、踏んだときの硬さなど、金持ちのお高いプライドが具現化したかのような素材だ。あとはすべすべしているので肌触りがいい。

良くない点は掃除するときに洗剤を選ぶこと、変色しやすいことなどだ。雑に扱われると傷つく金持ちのナイーブさを具現化したような面もあるので注意が必要だ。

また、大理石の床であるがゆえの悲劇は多い。それは主にその異様な硬さによってもたらされる。

引っ越してきて1ヶ月もしないうちに新婚旅行で買ったヴェネツィアングラスが棚から落ちて逝った。硬いことで有名で、木の机に叩きつけても割れない実演販売を見て購入したが、大理石の前では単なるガラスに過ぎないことを知った。

同じく手が滑って落とした香水の瓶も内容物を盛大に撒き散らしながら砕け散った。おかげで近くに置かれていたPS4が無骨な外観に似合わずフローラルな香りを纏ってしまった。

携帯も被害にあった。私の手からこぼれ落ちた携帯は液晶から大理石の床に突っ込み、見るも無残な姿に変わってしまった。以来、液晶を直しても時折勝手に文字を打ち始めるといった後遺症が遺った。余程大理石との衝突がトラウマとなっているのだろう。

私自身、転んで膝をついたときのトラウマからまだ抜け出せないでいる。