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It’s the single lifeとは?17

和:…アルノ。
その話、詳しく聞かせて。

静寂に包まれたリビング

その均衡を破った彼女は、表情を一切の無にし口を開く

中西:うん、いいよ。

…まてまてまてまて!!
鯖の味噌煮食いながら、なに平然とダイナマイトぶち込んでくれてんの!?

〇〇:ち、違う!!
これは100%誤解であって…

和:…

和は表情一つ崩すことなく、〇〇に視線を配る

クッ…
これがルーキー黒髪の和の覇気…
意識を保つのがやっとだ…

和:アルノ。
たしかにこの数日間、お義兄ちゃんは仕事があるって事務所に残ってたよ。

中西:うん。

和:それは事務作業じゃないの?

中西:ううん。
私の居残りレッスン見てたよ。ずっと。

〇〇:…

何一つ間違えてない。
間違えてはないけど…

和:お義兄ちゃん。
私の質問だけに答えて。

〇〇:…ゴクン…

生唾を飲み込む音がここまで響くあたり、リビングの空気は冷え切っているのだろう

和:アルノの言ってることはホント?

〇〇:ホ、ホントと言われればそうだけど…
ち、違くて…

和:…

〇〇:…はい…

和:なんで私には、アルノの練習を見守るって言わなかったの?

〇〇:それは…

生きたいからです。
今日も明日も明後日も。
僕はまだ生きたいからです。

和:…お義兄ちゃん。
一回席外して。

〇〇:…え?

和:聞こえなかった?
一回リビングから出てって。

いやぁ…
ここ一応俺の家なんですけど…

なんてことを言った日には、いよいよその言葉が遺言になってしまう…

何より、和の放つ覇王色の覇気に逆らえる気がしない…

〇〇:はい…

〇〇は箸を置き、静かに部屋を後にする

その後ろ姿はとてもとても小さくなっていた

中西:…

これは…
我ながらやり過ぎたかもしれない。

目の前で繰り広げられた義兄妹のやり取り

少し〇〇さんを懲らしめるつもりが…
もしや私は、殺人幇助で捕まるのでは?

和:…アルノ。

中西:な、なに?

怒られる…ことはないだろう。
嫉妬される?悲しまれる?
もしくは…
マズい。どう転んでもいい方向に進む気がしない…

自ら撒いた種

彼女の中に焦りが募っているのは確かで

それでも

和:お義兄ちゃんは…
アルノの力になれた?

中西:…え?

予想をしていたどの感情とも違う

アイドルスマイル

なんて言えばキラキラした表情を想像するだろうが違う。

そんな表面的なものではない。

人に元気を与えてくれる。
前向きに進む手助けをしてくれる。
明日を頑張る力をくれる。

そんな笑顔が目の前に咲き誇る

和:さっき玄関でアルノの顔見て、なんか靄が晴れたみたいな顔してたから。

中西:…凄いね。井上兄妹は。

照れ隠しからか、中西は味噌汁を口に含みながら微笑む

中西:気付いてたの?

和:なにが〜?

中西:…いじわる。

和:ハハハ。
アルノが何に悩んで、何を考えてるのかまでは分からないよ。
でも…なにか思い詰めてることくらいは分かるよ。

中西:…そっか。
そこまで分かってて、なんで〇〇さんにああいう態度取るの?

和:フッフッフッ。
よくぞ聞いてくれた。

あ。ヤバ。
変な地雷踏んだ気が…

和:私はいま、絶賛恐妻トレーニング中なの。

中西:…そっか。

よし。
この話題は変え…

和:恐妻トレーニングっていうのはね?

られなかった…
時すでに遅しだった。

和:世の中のカップルや夫婦って、女性側が強い方が上手くいくらしいんだよね。

中西:あぁ…
それは何となく分かるかも。

和:でしょ!!
だから私はいま、お義兄ちゃんにとことん立場の強弱を学習させてるの。

中西:なにそれ。

口では悪態をつきつつも、きっとこの二人はそれくらいがちょうどいいんだろうって思ってしまう

中西:いいの〜?
そんなことしてたら…
私が〇〇さんのこと取っちゃうよ?

きっとこんなことは言わないほうがいいんだと思う。
でも、大丈夫。
答えは出てるから。

きっと私は、和には敵わないんだって分かってるから。

和:…

ほら。

怒ってもいいだろうに。

嫉妬してもいいだろうに。

悲しんでもいいだろうに。

それでも。

和:かかってきなよ。
アルノだろうとさっちゃんだろうと。
最後にゴールインするのは私だから。

負けるのは分かってる。

それでも

中西:ふ〜ん。
じゃあ担当って状況を最大限に使わせてもらいますわ。

こんなに清々しく諦めがつかないことを認められるんだから。

この子に見破られたのも納得がいく。

和:それはズルい!!
職権濫用だ!!

中西:フフ。

和:うわ!!余裕の笑みか!!
こうなれば…

和は持っていた箸を机に置き立ち上がる

中西:え、な、なに?

和:実力の違いを教えてあげる。

今度は逆に和がフフフと笑みを浮かべながら部屋を後にする

ーー

〇〇:携帯は持った…
財布は持った…
とりあえず鍵も持った…

自室の床に広げられた荷物の数々

それらの共通点といえば

〇〇:とりあえず…
これだけあれば一週間は生きられるだろう。

よし。逃げよう。
わざわざ処刑執行を待つ義理などない。

〇〇:そうと決まれば善は急…

ガチャン

うそーん。

和:…なにしてるの?

〇〇:…時間が出来たので部屋の整理を…

和:ふーん。
お義兄ちゃん。ここに膝をついて。

土下座で許してくれるのか?
土下座一つで命が救われるならいくらでもしてやるぞ。

〇〇:よし、これでいいか。

和:うん。じゃあ…

…ん?じゃあ?

和:よいしょっと。

〇〇:あのぉ…何をしてらっしゃるの?

和:ん?おんぶ。

ですよね。知ってます。

〇〇:いや、なぜ?

和:…お義兄ちゃん。
血の繋がりの強さを見せる時が来たよ。

〇〇:いや…
俺達、血の繋がり一切な…

和:ん?

和は両手に力を加える

〇〇に覆いかぶさるように取られた体制

当然、両の手は首に巻き付くように置かれる

そこに力が入れば当然

〇〇:じ、じぬ…

和:見せつけるよ?

〇〇:は、はい…なんなりと…

もう知らん。
なるようになれ。
てか、なるようにしかならん。

ーー

中西:和の料理めっちゃ美味しいな。

先程までの喧騒が嘘のように、静まり返ったリビングで一人黙々と色を楽しむ

というか、お客を放っておいて二人ともどっか行くってどういうこと。

中西:まぁ別にいいけ…

ガチャン

中西:もう。
ご飯冷め…ちゃう…よ…

和:見たか〜アルノ!!
これが勝者の景色だ〜〜!!

〇〇:…

見ないで中西さん。
そんな冷めきった目で見ないで。

中西:…和からは見えないだろうけど、〇〇さんずっと私のこと見てるよ?

いや、見てると言うか…
見られたくないと言うか…!?

〇〇:な、なぎ…
だがら…じぬ…

和:浮気者には天罰を。

中西:フフ。楽しい家だこと。

リビングの喧騒はすぐに戻っていった

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