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It’s the single lifeとは?30

〇〇:ふぅ。
我ながらなかなかいい出汁が取れた。

料理とは素晴らしい。
明確なゴールがあり、手順や分量さえ間違わなければ誰でもそこに辿り着ける

〇〇:料理をしている時は実に素晴らしい。

料理に集中するからこそ、他のことを考える余裕が否が応にもなくなる

そう。他のこと…

〇〇:おっと危ない。危ない。
今やるべきことは二つ。

一つはこの料理、朝食を完成させること。

そしてもう一つは…

〇〇:ちゃんと謝らねば。

パニックを起こし、とりあえず落ち着くために初めた朝食作り

そこまでは良かった。

だが

〇〇:ここは俺の家じゃなかった…

明らかに大きかった冷蔵庫も

明らかに収入レベルの違う中身も

気付くべき要素はいくつもあったが、そのどれを取ってもいち早く現実逃避をしなければいけないという感情に勝てなかった

〇〇:…落ち着け俺。
昨日のことをよく思い出すんだ。

間違いなく嫌われていた。
昨日の夕暮れ時。

それがちょっと揺らぎ始めた晩飯時。

そして、もはや嫌われてるとは何かと思い始めた未明。

〇〇:だが俺は知ってる。
冷蔵庫を見られる。それ即ち羞恥の塊。

もともとベースは嫌われていたんだ。

それがたまたまあのイタオタのおかげで錯乱してこうなっているだけで

いつその魔法が解けてもおかしくない。

つまり

〇〇:…全力土下座しか道はないか。

ガチャン

…神よ。俺に力を。

遠藤:ふわぁ…

あくびをしながら現れた姿に

〇〇:…

やべぇ。
改めて見るとマジで可愛いな。
これ余裕で推し変出来る気が…
待て待て。昨日あんな台詞を言っておいてそんなことは許されるわけない。

〇〇:あ、あの遠藤さ…

遠藤:…

あっれぇ。
えげつないほど睨んでるんですけど…

遠藤:遠藤さん…?

…なるほど。
ありがとう推し。あなたのおかげで予習が出来てたみたいです。やっぱり推ししか勝たん。

〇〇:…さくらさん。

遠藤:うん。おはようございます。

〇〇:お、おはようございます。
起きて早々大変申し訳ないんですが…

遠藤:わぁ!!
これ〇〇さんが作ってくれたんですか!?

〇〇:そ、そうなんですけど…
その食材たちは冷蔵庫を勝手に開けてしまいまして…

遠藤:食べてもいいですか!?
いいですよね!?

…あれ?
なんか思ってた反応と違う。

俺の思ってたのは
「たまたま一晩泊めただけで勘違いも甚だしいですね。そんなにクビになりたいんですか?」って感じになると思ったが…

遠藤:…食べちゃだめですか?

〇〇:い、いえいえ!!
さくらさんのお口に合えばいいんですが…

遠藤:いただきます!!

全然話聞いてないな。
てか、めっちゃ食ってる。
まぁ昨日夕飯食ってないしお腹空いてるのも分かるけども。

遠藤:んん!んんんん!!んんん!!

うん。全くわからない。

〇〇:の、飲み込んでから喋った方が…

遠藤:とっても美味しいです!!
〇〇さんも一緒に食べましょうよ!!

…あぁ。これが幸せってやつか。
俺もうここで骨埋めても後悔ねぇや。

〇〇:うん。
失敗しなくてよかった。

遠藤:〇〇さんはいつもこんな美味しい料理作ってるんですか?

あぁ可愛い。超可愛い。
口元に米粒ついてますよ。
可愛いから言わんけど。

〇〇:そうですね。
さすがにここまで品数多くは作りませんが。

遠藤:じゃあ…今日は特別ですか?

〇〇:はい。
昨日はいろいろありましたから。
それでも…さくらさんと過ごせた昨日は僕は楽しかったので。

遠藤:…//

あっれぇ…
間違ったかなぁ…
そりゃそうだよな…
あんな事があって楽しいとかないよな…

〇〇:さ、さくらさ…

遠藤:あの!!

!?

掻き消すように上書きされた声

そこに不快感は微塵もなく

遠藤:…んと…たいです…

わぁお。スーパー聞こえないボイス。

…んと…たいです…

考えろ。
この唯一聞こえた言葉から文を完成させるんだ。

恐らくはじめは「ちゃんと」だな。
それ以外あの間で「んと」がつく言葉は「がつんと」くらいだが…
さすがにそれはないだろ。

となると「ちゃんと」何々たいです。

昨日の出来事を思い出せ。

…たいです…

教わりたいです…!?

ま、まさか…

〇〇:え、ホントですか…?

遠藤:…はい。
ずっと言いたかったけど…言えなくて…

おいおい。嘘だろ。

そんなに…

そんなに…

〇〇:北斗神拳を!?

遠藤:ごめんなさい!!

〇〇遠藤:はい?

…よし整理しよう。
いま、さくらさんは「ごめんなさい」と言ったな。

何に対して謝ってるかはさておき
先程の文章は「ちゃんと謝りたいです。」が正解だったわけだ。

そこで俺の出した答えは

遠藤:…なんでそうやっていつもふざけるんですか。

オーマイガー。

〇〇:決してふざけているわけでは…

遠藤:真剣にそんなこと言ってるんですか?

まるで哀れむような視線

〇〇:ハハハ…
北斗神拳だけに真剣って…

遠藤:…

バカか!!
いい加減学習しろ!!
そのクソつまらない大学生みたいな返しは今後一切封印しろ!!

遠藤:はぁ…
私がバカみたいじゃないですか。

〇〇:そんなことないです!!
なんというか…さくらさんに謝ってもらう理由が全く思い浮かばなくて…

殺される理由は五万と浮かぶ悲しい現実

遠藤:だから…その…
〇〇さんのことよく知らずに嫌いとか言ってて…申し訳なかったなと…

どこか歯切れの悪さは、きっと今までの自身の言動を振り返った結果から

〇〇:い、いえいえ!!
俺が和に好かれてるのはホントの事で…

遠藤:それはいまだに許してないです。
煽ってるんですか?マウントですか?

うそーーん。
さっきまでの声の小ささどこ行ったー。

〇〇:決してそんなことはないです。
僕はただただありのままの事実を…

遠藤:…

男〇〇よ。それが煽りと言うのだ。
また一歩成長したな。
そしてまた一歩死に近づいたな。

〇〇:…僕が謝ることがあっても、さくらさんが謝ることはないですよ。

遠藤:…でも…

〇〇:それより早く食べましょ!
冷めちゃったら美味しさ半減ですから。

何事もなかったように気丈に振る舞う様子に

遠藤:…ずるいです。

…はい?

遠藤:〇〇さんはいまおいくつなんですか?

〇〇:今年22の代です。
まだ誕生日来てないので今は21ですね。

遠藤:ふーん。
ちなみに私は今年23の代で今は22です。

〇〇:…存じ上げています。

存じ上げていますが。
何故そんなニコニコスマイルでこっちを見てくる?
ほっぺの米粒可愛いよ?

遠藤:つまり。私が年上ってことです。

〇〇:そうなりますね。

遠藤:つまり。私のお願いを聞く義務があるということです。

〇〇:そうなりま…せんね。
え、いきなり話し飛びすぎてません?

遠藤:ません。
ちゃんと順を追って話してます。

…ほぉ。

〇〇:もう一度わかりやすく順を追っていただきたいんですが。

遠藤:分かりました。
私は乃木坂のメンバーで、〇〇さんは乃木坂のスタッフです。

〇〇:はい。

遠藤:私は22歳で、〇〇さんは21歳です。

〇〇:そこまではしっかりと理解できました。

問題はここからだ。
ここからどういった経緯で…

遠藤:だからお願いを聞く義務があります。

はい。アウト。

〇〇:そのだからはどこからきたんですか?

遠藤:なんか飛んできました。

そっかそっか。
もう可愛いからなんでもいいや。

〇〇:ちなみにお願いとは?

遠藤:…敬語外してほしいです…

〇〇:敬語を外す…

つまりタメ口になれと?
まぁそのくらいなら…

…待て待て。

シュミレーションをしてみた。

〇〇:あ、さくらさんおはよ。
昨日はありがとね。
すんごい楽しかった。

遠藤:私も楽しかったよ。
〇〇さんとお出掛けできて良かった。

ここまでは鼻血吹き出るのを我慢する戦い

とても心地が良い

だが問題は

和:お義兄ちゃんがこの世からそんなに旅立ちたかったなんて知らなかったよ。

…ですよね。

はい。シュミレーション終わり。

〇〇:いやぁ…それはちょっと…

遠藤:むぅ…なんでですか。

聞いた!?聞きました!?
怒った擬音が「むぅ」!?
なんそれ!?ズルすぎない!?

遠藤:聞いてます?

〇〇:もちろんです。
えっとですね…あくまで僕はスタッフの立場なので…

遠藤:スタッフさんでも気軽に話してくれる人は多いです。

〇〇:僕はまだ新米で…

遠藤:メンバーが許可を出しているんです。

〇〇:さくらさんより年下ですし…

遠藤:それは…そうですけど…

ありがとう母よ。
僕をこの年で産んでくれて。

〇〇:あ、でも…

遠藤:外してくれる気になりました?

〇〇:それはないですけど…
さくらさんは敬語とかさん付けなくても全然いいですよ。

遠藤:え?いい…の?

〇〇:はい。
全然僕は気にしないので。

これなら別に和になにも言われんだろうし。

遠藤:じゃあ…〇〇。

〇〇:はい。

遠藤:ねぇ〇〇。

〇〇:なんでしょうか?

遠藤:あのさ〇〇。

〇〇:はい?

遠藤:…〇〇。

〇〇:あの、なにか…

遠藤:フフ。呼んでみただけ。

〇〇:…

そっか。幸せってこういうことか。
なんか難しいこと考えすぎてたな。

遠藤:これからもご飯作ってよ。

〇〇:予定が合えば全然いいですけど…

遠藤:ホント!?約束だからね!!
はい!!

そう言いながら、机を挟み向けられた小指

いいのか!?
触れていいのか!?
口座から勝手に握手券代引かれないか!?

遠藤:ん!!

〇〇:も、もちろんです。

遠藤:やった。

〇〇:でも、遠藤さんも結構料理されるんですね。

遠藤:え?

〇〇:え?

遠藤:私あんまり料理しないよ?

〇〇:え?
でも冷蔵庫のなか…

即席でここまでの朝食を作れたのは、間違いなく冷蔵庫の中身のおかげだ。

あれだけ色々入ってたら料理するのかと…

遠藤:あぁ。
あれは私使わないんだよ。

…おぉ?

〇〇:え、でもここさくらさんの家ですよね?

遠藤:うん。

〇〇:じゃあ誰が…

…なんだこの伏線を回収しようとしている感。

待て。考えるな。
そのために朝食を作っていたんだろ。

これ以上この話題は危険だから話を…

遠藤:あれは「かっきー」が使うんだよ。

かっきー…

かっきー…

かっきー…

〇〇:かっきーって…

遠藤:賀喜遥香ちゃん。
この前話したでしょ?

はい。今朝話しました。

遠藤:かっきー最近料理始めたらしくて。
作るのはいいけど一人で食べるの寂しいんだって。

〇〇:それでさくらさんのお家で…

遠藤:そういうこと。

〇〇:さくらさんから見て賀喜さんってどんなお方ですか?

まずは情報収集だ。
そこからどうか打開策を…

遠藤:…教えない。

〇〇:そうですよね。教え…なぜ!?

遠藤:だって…
いまは私といるのに他の子のこと考えてほしくないもん…

〇〇:…

なんだこれ…
クソ…まさか冷蔵庫の中に「SMILE」が混ざっていたなんて…
ヤバい…口角が…勝手に…

遠藤:…//

いまのは…ちょっと攻めすぎたかな…
でも、かっきーの話ししたら絶対勝てないもん…
ダメダメ!!
今のうちにちゃんと距離縮めないと…

遠藤:と、とにかく!!
いまは他のメンバーの話は禁止!!

〇〇:わ、わかりました。

致し方ない。
とりあえず今はさくらさんに嫌われないようにしなければ。
かきさくコンビが相手になったらいよいよ俺の運命はtheendだ。

〇〇:さくらさんの今日の予定は?

遠藤:う~んと。
夕方頃からレッスンかな。

〇〇:あ、一緒ですかね。

遠藤:そうかも。
4.5期で合同だったから。

夕方からかぁ。
まだ11時だし全然時間あるよな。

〇〇:じゃあご飯食べ終わって洗い物したら僕は一度帰りますね。

とりあえずいつまでもここに居座るのはよろしくないよな。倫理的にも。

でも帰ったらなぁ…
絶対和ブチギレだよなぁ…

遠藤:ダメ。

〇〇:そうですよね。。。はい?

遠藤:ここから行けばいいじゃん。

〇〇:いや、さすがに私服ですし…

遠藤:この前もそんな感じだったもん。

仰るとおりです。
恥ずかしい限りです。

〇〇:シャワーとか浴びないと…

遠藤:あるよ?

…いやいやいや!!

〇〇:それは流石に…

遠藤:…いやらしい事考えてるの?

〇〇:め、滅相もございません!!
ただ、さくらさんのお家に僕のDNAが残るのは全さくらさんオタクに殺される可能性が…

遠藤:フフ。なに早口で言ってるの。

遠藤:選んだ本も〇〇に読んで貰いたいし。

〇〇:…なるほど。

絶対家で本とか読まないもんな…

〇〇:でも…
和に連絡しないと心配する気が…

遠藤:それなら大丈夫だよ。
私がちゃんと説明してるから。

さすが乃木坂の新エースだ。
仕事が早い。なるほど、さくらさんのおかげでLINEとかも来ないのか。

〇〇:じゃ、じゃあ…
お世話になります。

遠藤:うん。ゆっくりしてね。

和:…

時を遡ること数時間

朝9時

社会人が始業時間になる頃

カーテンも開けずに、薄暗い部屋

カーテンから差し込む僅かな光と
手元に置かれたスマホの光と

シャッシャッシャッと

水に濡らした砥石に滑らせる刃物の光だけが目に映る

和:…

刃物を研ぐ手を止め、まるで確認するかのようにスマホに目を移す

そこには

さくらさんL:ごめんね和ちゃん。
今日は〇〇さん私の家に泊まることになったの。事情は明日説明するけど、〇〇さんがいなくなっちゃったら不安で…
〇〇さんじゃなきゃダメなんだ。

和:お義兄ちゃん。
ちゃんとバラバラになっても愛してあげるからね。

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