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妄ツイと現実は混ぜるな危険。14

〇〇:…どうするよ?これ。

手に持った2枚のチケットをヒラヒラと靡かせながら問いかける

賀喜:…

〇〇:…おい。

賀喜:…

眼の前にいる彼女は意識を投げ出したかのように空を見つめる

こいつ…

〇〇はため息をつきながら賀喜に近づく

そして

パチン

軽快な音をたてながら賀喜のおでこにデコピンをあびせる

賀喜:ッハ!!
わ、私は賀喜遥香です!!

〇〇:んなの知ってるわ。
タイムリープしてんのかお前。

賀喜:…あれ!?
白石さんが〇〇になっちゃった!?
やめて!!国宝級の美しさを汚さないで!!

賀喜は悪びれる素振りを微塵も見せずに必死に訴えかける

〇〇:しれっとディスってんじゃねえよ。

賀喜:この口の悪さ…どうやら本人ね。

〇〇:お前の判断基準どうなってんだよ。

賀喜:てか、さっき白石麻衣さんがいたよね!?

純粋な驚きを見せる彼女と

こいつ…
またこのやり取りやんのかよ…

呆れた表情を見せる彼

〇〇:いたよ。てか話してただろ。

賀喜:夢だと思ってた…
やばくない!?あの白石麻衣だよ!?

〇〇:飛鳥さんで免疫ついてるだろ。

賀喜:いや、全然別の話だよ…
私変なこと言ってなかった!?

〇〇:知らん。

あぁぁあぁぁと嘆きながら頭を抱える賀喜は、マドンナと評される普段の姿とはかけ離れていた

賀喜:てか、なんであのお二人が来てたわけ!?

〇〇:だから。これだよ。

〇〇の持ちチケットを見ながら、賀喜ははてなを浮かべる

賀喜:なんでチケット?

〇〇:聞いてなかったのかよ…
この前、飛鳥さんの臨時マネやった時の給料だと。

賀喜:なるほど。

そう言いながら賀喜は〇〇からチケットをさっそうと奪い取る

〇〇:おい。俺の給料だぞ。

賀喜:何言ってんのよ。
私との約束破って手に入れたものでしょ。

賀喜:あ。ちょうど今日の分じゃん。

〇〇:そうだよ。
だから…なんというか…

歯切れの悪さはきっと年相応の恥じらいからだろう

賀喜:早く準備してよ。行くよ。

〇〇:へいへい。
てか、服はどうするんだよ。

賀喜:決まってるじゃない。制服よ。

〇〇:なんで休みの日にそんなかたっくるしい服で…

賀喜:約束を?

賀喜:破ったのは?

賀喜:どこの誰?

チケットをヒラヒラと揺らす彼女は、マドンナらしい表情を浮かべていた

クソマドンナが…

ーー

賀喜:夢の国〜夢の国〜♪

休日にしては混み合った電車

行く先が行く先だけに納得もいくが

〇〇:ずいぶんとご機嫌だな。

賀喜:そりゃそうだよ。
ひっさしぶりの夢の国だし。
それに…

賀喜はどこが恥ずかしげに視線を外し、声量を少しだけ絞る

賀喜:憧れだったし。
制服で行くの。

〇〇:ふーん。
みたらしバカとかとは行かないの?

賀喜:そんな人知りませーん。

〇〇:…あっそ。

賀喜:ちょっと。
ちゃんと訂正して聞き直してよ。

〇〇:無理。寝る。ついたら起こして。

賀喜:はぁ〜?
こういうのは彼氏が起きてて…

不満気な彼女から漏れ出した声も、肩に乗りかかった重みが止める

賀喜:…はぁ。今回だけだから。

〇〇:ん。

少しだけ

ほんの少しだけ口角を上げながら、彼女は言葉をゆっくりとしまった

ーー

賀喜:ついたーーー!!

うるさ。小学生かよ。

心で悪態をつきつつも、心なしか頬が緩んでいるのは夢の国の魔法だろうか

〇〇:とりあえずどこから…

賀喜:カチューシャ!!
まずは装備を整える!!

装備って…モンハンでもしてんのか。

〇〇:あれ高けぇわりに、ここでしか使わないじゃん。

賀喜:うわぁ。ないわぁ。
夢の国来てその台詞はドン引きですわ。

うぜぇ…

〇〇:はいはい。
買えばいいんでしょ。

賀喜:私が直々に選んであげよう。

〇〇:…おい。

賀喜:どした?

不服さを全面に出した表情で彼は告げる

〇〇:俺はカチューシャを買うって聞いたんだが。

賀喜:うん。

〇〇:お前の選んだこれ…
どう考えてもガッツリキャップだよな?
しかも、顎下までしっかり被るタイプの。

賀喜:まぁまぁ。
同じヘアアクセサリーの類じゃん。

全然違うだろ…
めっちゃ暑いし…てか…

〇〇:普通に恥ずいんだが。

賀喜:ホント分かってないわぁ。
いい?ここは夢の国なの!!

…なんか始まったな。

賀喜:みんないま夢の中にいるの!!
〇〇は人の夢を聞いたり見たりして、恥ずかしいって思うわけ?

〇〇:いや…そういうことを言って…

賀喜:そういうことなの!!

…めっちゃ帰りてぇ。
なんだこの熱狂的な演説は。

賀喜:ここではみんなが子供。
みんながドリーマー。
レッツゴー!!

〇〇:はぁ…

ため息を付きつつも

どこか口角が上がってしまうのはきっと魔法のせいで

賀喜:あ。とりあえず写真撮ろ。

〇〇:はいはい。

賀喜:お。やけに素直だね。
さては、マドンナと写真撮れて嬉しいのか?

このこの〜と肩をグリグリと押される

〇〇:自分のことマドンナって言ってるやつは、たいていヤバい奴だ。

賀喜:その彼氏はもっとヤバい奴だ。

〇〇:うるせえ。早く撮るぞ。

賀喜:はいはい。
じゃあいくよ〜。はい。チューブ。

カシャッと軽快な音を立てるスマホに反して

賀喜:ちょっと。
なんで私のこと睨んでんのよ。
写真撮る時はカメラを見るって習わなかったの?

〇〇:写真撮る時の掛け声があまりにもふざけてたからな。

賀喜:ハハハ。
命名した人がそう言うなら、ふざけた言葉なんだろうね。

こいつ…

〇〇:写真はもういい。
早く回…

その場を逃げるように賀喜に背を向け、彼は歩みを始める

すると

賀喜:あ!!

背を向けた途端に耳に入った音

彼女の声だと瞬時に理解する

〇〇:なんだよ。なんかあっ…

カシャッ

賀喜:私のナイスサポートに感謝して。

まるで見せつけるようにスマホを〇〇に差し出す

〇〇:…これ盗撮だろ。

賀喜:違いますー。
〇〇が勝手に振り向いたところに、たまたま私が自撮りしてただけですー。

なんだその理屈…

〇〇:はいはい。
じゃあ早く回りに行くぞ。

賀喜:私に着いてきたまえ。

カランコロン

カフェ

というよりかは喫茶店という方が合っているであろう小洒落た店

来客を告げるベルが心地良く鳴り響く

遠藤:いらっしゃいませ~〜。

ランチタイムが終わり、従業員だけになった店内に明るい声が響く

遠藤:1名様ですか?

「えぇ。
まだやってますか?」

遠藤:もちろんです。
ここはお客様がいなくても休み無しでやってますよ!!

声こそ明るいものの、内容は責任者からしたらスルーしにくいものだろう

「ハハハ。
じゃあ席は…」

遠藤:お好きな席にどうぞ。

「ありがとうございます。」

遠藤は手慣れたように席を案内する

「ここのオススメはなんですか?」

遠藤:今日は季節のランチプレートがオススメです!!

「では、それでお願いします。」

遠藤:かしこまりました!!

接客

というよりは上官に挨拶するかのように敬礼をしその場を去る

遠藤:オーダーもらいました!!

「でかしたよさくちゃん!!」

待ってましたと言わんばかりに、キッチンで声を上げる人物

遠藤:しかも、真佑さん考案の季節のランチプレートです!!

田村:おぉ!!
店長がいないいま、私のメニューでしっかり稼いで昇格だ!!

遠藤:だ!!

田村:ふぅ。出来た。

遠藤:すんごい美味しそうです!!

田村:でしょ!!
なんたって価格以上に食材費が高いからね。

胸を張って言い切る彼女だが、今だに仕事を続けられてるのはきっと奇跡だろう

田村:ここはシェフ自ら運びます。

遠藤:かしこまりました。

後は任せたぞ。

そう言わんばかりに、田村は遠藤に背を向けキッチンを後にする

田村:ふふふ〜ん。ふふふ〜〜。
私のランチプレート〜〜。
頼んでくれたのは…

まるで時が止まったように

田村は唯一店内にいる客に視線を向ける

田村:…

先程までのテンションが嘘のように

手に持った食事を近くの席に置き、両手をあけた状態で客人の席へと向かう

そして

田村:…どうしてここにいるの。

田村:「とうやん。」

椅子に座りスマホを操作る男の後方から発せられた声

通常なら驚いてもおかしくはない

「…懐かしい呼び方ですね。
田村副会長。」

男はスマホから目を離すことなく

まるで分かっていたかのように応える

田村:…さくちゃんに何かした?

いつもの柔らかく明るい声とは一転

まるで冷めきった低い音声

本当に同じ人物か疑うほどの違い

「ひどいなぁ。何もしてませんよ。」

「まだ。」

声質の変わった田村をまるで誂うように、男は対象的に笑みを浮かべる

田村:なにか企ててるの?

「やだなぁ。
俺がそんな人間に見えま…」

田村:見えるよ。
あなたは異常だもん。

田村:夜風橙弥前生徒会長。

夜風:…懐かしい響きですね。
前っていうのが嫌味っぽいですが。
田村副会長に挨拶も出来たので今日は帰ります。

夜風は何事もなかったように席を立ち、すれ違うように田村の横を歩き去る

夜風:あぁそうだ。
田村副会長はまだ交流があるんですか?

田村:…なんのこと?

夜風:…いいえ。
相変わらず嘘が苦手で助かります。
宜しく言っておいてください。

夜風:朝陽会長に。

心地良いベルが鳴り響き、店内から客の姿は一切なくなる

店内には気味の悪い静けさが渦巻いていた

To be continued?

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