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It’s the single lifeとは?24

…よし。再度整理しよう。

俺は遠藤さんに嫌われている。
これは変えようのない悲しい現実だ。

だが、嫌われていると分かっていればある程度対処はできる。

例えば、近づかないとか、会わないとか、話さないとか。

だがしかし。それも出来ない。

何故か突然、明日は遠藤さんにつくことになった。

つまり、対処ができない。

仕事で近づかない、会わない、話さないは無理だ。物理的に。

だからこそ考えなくてはならない。

明日の事を。

そう。考えなければいけないんだ。

いけない。

いけないんだが…

〇〇:…何故お二人がここに?

中西咲月:はい?

ヤバ。かわいい。

俺の担当と推し可愛いんだが。

和:はい。
アルノとさっちゃんにデレたから死刑ねぇ。

心を読むな。
そして客観的証拠なしに極刑を行使すな。

〇〇:これはどういう状況?

和:見ての通り同期会。
他のメンバーは忙しくて来れなかった。

中西:同期会は名目で、専属マネが私に会いたそうにしてたから来てあげた。

〇〇:そんな事、一言も言って…

和:はい。火炙りの刑。

弁明の余地をくれ。

咲月:違うし。
〇〇さんは私推しだから、ファンサで特別対応しに来ただけだし。

〇〇:神イベント過ぎる。優勝。

和:火炙りにガソリン増々で。

今のは俺が悪い。許して。

〇〇:じゃなくて。違う違う。

咲月:え…私推しじゃないんで…

〇〇:違くないです。

中西:私の担当だよね?

〇〇:誠心誠意支えていきます。

和:私の担当死刑囚だよね?

〇〇:…お二人共、おふざけは程々にしましょう。

中西咲月:…

怖い。アイドルの無言の視線が怖いよ。

〇〇:…ま、まぁ、僕は明日の仕事もあるんで…

和:まだ20時だけど?

〇〇:いや、色々と考えなきゃいけないことが…

中西:そういえば明日私オフなのに、なんで仕事あるの?

ギクッ…

〇〇:え、えっと…

和:お義兄ちゃんは私という人がいながら、明日はさくらさんに浮気の予定だよ。

何故こうも話をややこしくするスキルに長けているんだ義妹よ。

中西:さくらさんに

咲月:浮気

和:命をもって償うべき。

同期の繋がり見せんといて。

〇〇:断じて違いますからね!
たまたまスタッフの欠員が出ただけですからね!!

咲月:そうですよね。
とりあえずこれでも飲んでください。

優しいさっちゃん…
帰ってきたばかりの俺にお茶を…

サラサラサラサラ…

〇〇:あのぉ…

咲月:はい?

〇〇:いまカップになにか入れました?

咲月:ま、まさかぁ。
睡眠薬なんて入れたりしませんよ。
ハハハ。

〇〇:ハハハ。

推しってすげぇな。
罪を犯しても可愛いんだもんな。

中西:まったく。
さっちゃんそれ犯罪だから。

おぉ。
俺の専属はしっかりと常識を…

サラサラサラサラ…

〇〇:何故同じ音がしてからカップが出てくる?

中西:睡眠薬じゃ寝るだけだし、どうせ罪を犯すなら下剤くらい入れといたほうが得じゃん。
ハハハ。

〇〇:ハハハ。

なに言ってんだこのアルパンマン。

和:ちょっと二人とも。
そんなの飲めるわけ無いじゃん。

悲しいな…
あの和が唯一まともな世界線なんて…

サラサラサラサラ…

和:はい。青酸カリ風味の麦茶。

〇〇:風味じゃないよね。
まんまだよね。

和:どっちでもいいよ。
飲、ん、で。

〇〇:死、ん、で
って言いたいのか?

和:ううん。
天国で結婚しようって言ってるの。

〇〇:…

よし。
この際国民的アイドルが睡眠薬やら下剤やら青酸カリやらを持ってるのは触れずにいこう。

〇〇:お、落ち着いてください!

咲月:また敬語だ…

中西:約束も守れない専属マネなんて…

咲月中西:…

なんて話の進まない人達なんだ…

〇〇:たしかに遠藤さんに明日はつくけど…

咲月中西:けど?

〇〇:いや…なんと言うか…
たぶんそんな好かれてないから…
それが心配で…

咲月:〇〇さん…

中西:〇〇…

二人とも…
俺が嫌われてるか心配して…

咲月中西:それなら良かった。

〇〇:何一つ良くないんだが…

和:でもさ、でもさ。
あの優しいさくらさんが、誰か嫌いになるとかあるの?

あるんです。あなたが原因で。

咲月:まぁさくらさんも人だし

中西:むしろ〇〇嫌いはいいことだし

咲月中西:結果オーライじゃない?

和:それもそっか。
さ、ご飯食べよっか。

ーー

〇〇:結局なにひとつ解決せずに今日になってしまった…

いや、考えても解決はしないんだろうけど…

〇〇:とりあえず…
今日は遠藤さんの自宅の近くで拾って…

てか、早く来すぎたか?
とりあえず車の詳細は送ってるけど…

コンコン

〇〇:…ん?
いまなんか窓から…

遠藤:…

わぁ。
すんごいこっち見てる。

じゃなくて!!

〇〇:お、おはようございます!!

遠藤:…よう…ます…

おはようございます
って言ったんだよ…な?

〇〇:今日の予定ですが…

遠藤:把握してるので問題ないです。

なんかこの拒絶されてる感じ。
アルノの時みたいで懐か悲しい。

〇〇:は、はい…

こんなんで一日やっていけんのかな…

とりあえず発車して…

遠藤:あの。

〇〇:は、はい!!

遠藤:昨日伝えた通り、私はあなたが嫌いです。

〇〇:…

え?心抉りに来た?

遠藤:嫌いか大嫌いかで聞かれたら、大大大嫌いくらいに。

ごめん。もう無理。
涙で運転できそうにない。

遠藤:それでも…
仕事はちゃんとします。
今日のスタッフさんはあなたですから。
よろしくお願いします。

〇〇:よ、よ、よろしくお願いします!

遠藤:嫌いなことは忘れないで下さい。

そこは忘れさせてよぉ…

ーー

〇〇:…

雑誌の撮影が始まってから数時間

眼の前で目まぐるしく変わる、アイドル遠藤さくらさんの表情

その全てに共通されているのが

〇〇:す、すげえ…

普段コンビニで見る雑誌の表紙からは、単純に可愛いとか綺麗って感情しか浮かばない

けど

〇〇:…

言葉が出ねぇ…
圧巻されるっていうか…
なんか魅入って吸い込まれる感覚…

スタ:午前の部以上です。
昼休憩に入りまーす。

スタッフの掛け声とともに、撮影現場の緊張の糸は途切れる

〇〇:や、やべ!!

仕事中だぞ俺!!

〇〇:え、遠藤さん。
これ水です。お疲れさまです。

遠藤:…どうもです。

〇〇:い、いえ。
とりあえず…控室に行きますか?

遠藤:…お弁当取ってから行きます。

〇〇:わ、わかりました。

遠藤:…

え、なに?
俺なんか変なこと言って…

遠藤:食べないんですか?お昼ご飯。

〇〇:あ、は、はい!食べます。

え、いま俺のこと気づかって…くれた?

遠藤:…

控室で休憩をし

食事をする

なんらおかしくない撮影現場の1シーン

でも…

遠藤:…

気まずぅぅぅぅぅ。

無言が過ぎるってぇぇぇ。

なんか話さないと

なんか

なんか

〇〇:カ、カレー、ほんとに好きなんですね!!

遠藤:…なんですか急に。

いや、ホントそうですよね。
マジで申し訳ないです…

〇〇:す、すいません…
なんか話したほうがいいのかと…

遠藤:…

〇〇:…

やっちまった…
そりゃあ嫌いなやつに話しかけられたって…

遠藤:やっぱり…そう思いますよね…

〇〇:…え?

遠藤:だから、ふつう控室とかで気まずい空気になったら話さなきゃって…

〇〇:ま、まぁ…

遠藤:…

〇〇:なにか…あったんですか?

遠藤:…何もありません。

〇〇:で、ですよね…

そりゃそうだろ。
あったとしても俺に話す意味なんて…

遠藤:何もないから…ダメなんです…

〇〇:え?

遠藤:…5期生の子達が入ってくれて、私も形式上は先輩になりました。

遠藤:私を支えてくれた先輩のように、私も後輩から尊敬される先輩になりたい。
その気持ちに嘘はありません。

〇〇:…

遠藤:それでも…
いざ後輩達と二人きりになったりすると、何話していいか分からず、距離感とかもなかなか詰められなくて…

〇〇:…

遠藤:だからこそ、和ちゃんみたいに自分から話しかけてくれる子は凄い有り難いんです。
だからあなたが嫌いな理由ですけど。

〇〇:そ、そうでした…か…

遠藤:でも…ダメですよね…
後輩に頼りっきりで…

〇〇:そう…でしょうか?

遠藤:え?

〇〇:なんと言うか…
理想の先輩像って一つじゃないと思いますし…

遠藤:それは…そうでしょうけど…

〇〇:少なくとも。
和にとって遠藤さんは、自分から話しかけにいきたいほど、魅力ある先輩なんじゃないんでしょうか。

遠藤:…違いますよ。
和ちゃんは私を推してくれているだけで…

〇〇:それじゃあダメなんですか?

遠藤:ダメ…じゃないけど…

〇〇:…僕、この仕事始めるまで乃木坂のオタクだったんですよ。

遠藤:井上さんがですか?

〇〇:はい。

遠藤:和ちゃんがいるからですか?

〇〇:いえいえ。
和が加入する前からです。

遠藤:そうですか。
でも、それとこれとでは…

〇〇:乃木坂を追っかけてる時はなんていうか、嫌なこと全部忘れて、楽しい!!最高!!って感じになるんですよ。

遠藤:…

〇〇:推しにはそういう力があって。
そうさせてくれる人が身近にいるって、それってすげぇことなんじゃないかなって。

遠藤:…

〇〇:話が得意な人がいれば苦手な人もいて。
でもそれはきっと長所短所ってことじゃなくて。
その人らしさだと僕は思います。

〇〇:大人しくて、控えめで。
それでも、いざという時にカッコよくセンターで踊れる。
言葉が足りなくても、その背中を見せることだって立派なことなんじゃないかなって。

遠藤:…

〇〇:…

やべぇ…やっちまった…

なに言ってんだ俺…

確実に地雷踏んだ…

いや、待てよ。
アルノの時みたいにここから復活ラッシュ確定演出が…

遠藤:井上さん…

これは、まさか!!ほんとに!!

遠藤:良いこと言ってくれるのは嬉しいですけど、私の和ちゃんを奪う事を許すつもりありませんからね?

全然図柄停止してるやん。
次の保留変動始めてますやん。

〇〇:遠藤さん。誤解してます。
俺は和を奪う気なんて一ミリもありません。
可能であればラッピングして送料僕負担で遠藤さんにお届けしたいくらいです。

遠藤:私の大好きな和ちゃんをAmazonの郵送物扱いしないでください。なんかイラッとします。

〇〇:すいません…

遠藤:…

〇〇:な、なんでしょうか…

遠藤:…

なんだコレ。めっちゃ見られてる。

遠藤:…井上さんは和ちゃんに好かれてますよね?

〇〇:まぁ…はい。

遠藤:…チッ…

え?舌打ちした?
あの遠藤さくらさんが?

遠藤:…私が井上さんをもっと知れば、和ちゃんにより好かれるヒントがあるかも…

…はい?

遠藤:井上さん。

〇〇:はい?

遠藤:苦渋の決断ですし、地獄に落ちるほうが良いかもしれないですし、蕁麻疹が止まらないかもしれませんが…

すんごいよろしくない前置きなんだが…

遠藤:今度のお休み、一緒にお出かけしませんか?

〇〇:マジ?

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