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It’s the single lifeとは?19

〇〇:…あのぉ…

中西:どうかした?

家主であるにも関わらず部屋の入口で呆然と立ち尽くす彼に対し、中西はソファーに座りながら笑みを浮かべる

〇〇:…知ってたの?

中西:まさか。
私もさっきLINE見たんだよ。

そう言いながら彼女はスマホの画面を〇〇に見せつける

遠くてよく見えないけど…
とりあえず嘘は言ってないっぽいし…

〇〇:はぁ。
すいません。和もいないことですし、とりあえずお家まで送りま…

中西:敬語は?

〇〇:ごめんって。
とりあえず家まで送るから…

中西:なんで?

…なんで?

〇〇:いや、和いないし。

中西:知ってる。

〇〇:だから…

中西:だからなんで?

だからなんでなんで?

中西:和がいないとここにいちゃダメなの?

〇〇:いや…
ダメってわけじゃないけど…
アルノだってせっかくのオフなんだし…

中西:うん。
せっかくのオフだから、専属マネージャーと仲良くなりたいと思うのはいけないこと?

〇〇:…

中西:…〇〇?

突然両の手を合掌させ、〇〇は目を閉じながら頬に涙を流す

〇〇:あぁ神よ。
もし私があなたの意に沿わないことをしたのであれば誠心誠意謝罪致します。
なのでどうか命だけは…

中西:今すぐ命を取ろうか?

〇〇:嘘です。

中西:…嘘で涙流せるほど演技上手いの?

〇〇:ドライアイってことでお許しを。

中西:はぁ。
別に〇〇が迷惑だと思うなら帰るけど。

〇〇:いやいやいや。
迷惑だなんて思わないよ。
むしろ俺としてもアルノのこと知れるのは嬉しいし。

中西:ふーん。

中西は表情こそ変えないものの、少しばかり胸の鼓動が早まるのを実感する

中西:さっちゃん推しのくせに。

〇〇:それとこれとは別でしょ。

中西:ふーん。
さっちゃんのなにがそんなにいいの?

〇〇:なにがいいって…
生きてくれてること。
それ即ち日々の潤いです。

中西:はぁ。
なんかムカついてきたから、マネージャークビにしてもらおうかな。

…待て待て待て。

〇〇:落ち着くんだ。

中西:落ち着いてる。
その結果最良の答えが出た。

〇〇:最良の答えとは…?

中西:…とりあえず朝ごはん食べたい。

〇〇:最良の答…

中西:朝ごはん。
担当命令。作って。

クッ…
ここは致し方ない。

〇〇:とりあえず出来たよ。

机の上に並べられた食事

決して豪華絢爛ではないが、しっかりとバランスの取れた朝食

中西:わぁ…美味しそう。
〇〇って料理得意なの?

〇〇:得意というか…
俺の家母子家庭だったから、昔から作る機会は多かったんだよ。

中西:あ、なんか…ごめん…

申し訳無さそうにする中西に対し、〇〇ははてなを浮かべる

〇〇:え?なぜ?

中西:あ、いや…
家庭の事情知らなかったし…

〇〇:そんな気にしてないよ。
まぁ…そのせいで変な義妹が出来たけど…

〇〇がため息をつくと同時に、今度は中西がはてなを浮かべる

中西:なんでため息つくの。
あんなに可愛くていい子なのに。

いい子…

いい子…

いい子…

〇〇:和がいい子なら、この世の9割の人間はノーベル平和賞を受賞出来る。

中西:ふーん。
とりあえず伝えておくね。

!?

〇〇:待て!!今のはじょうだ…

中西:もう送っちゃった。

中西は彼女らしい笑みを浮かべ、〇〇にスマホを向ける

そこには

中西L:なんか〇〇さんが、和のこと悪く言ってたよ。

ピロン

中西:見ないの?
LINEの通知鳴ったけど。

〇〇:…これを見たら、俺の最後の晩餐は自分で作った朝食になる気がする。

中西:ハハハ。おもろ。

〇〇:全然おもろくない。
己はヒトラーか。金正恩か。

中西:はいはい。
早く食べようよ。

片や笑顔を浮かべ

片や涙を浮かべ

世にも奇妙朝食の風景

ーー

〇〇:さて…

朝食と言うなのほぼほぼ昼食を終え、食器等の片付けもテキパキと済ませた

つまり

〇〇:…やることがない。

キッチンからリビングに置かれたソファーに目を移す

すると

中西:あ。終わった?

〇〇:うん。

中西:ありがと。

〇〇:いえいえ。
それよりこの後…

中西:あぁそうだそうだ。
映画行こうよ。

あぁ。映画ね。

映画。

映画…

映画…

〇〇:何故映画?

中西:さっちゃんとも行ったんでしょ?

確かに行ったけども。
スーパー神イベントだったけども。

中西:他のメンバーと行けて、担当と行けないことないよね?

行けなくはないけど…

〇〇:いいのかなぁ…

中西:なにが?

〇〇:いや、いくら専属マネージャーとはいえ、乃木坂メンバーが男と映画は色々問題ない?

中西:あるかもね。

うんうん。
やっぱあるんじゃ…

〇〇:あるのになんで行くん?

中西:アルノだから。

中西:笑わないと明日から無職に…

〇〇:ハハハ。
おもろ。おもろ過ぎて腹千切れる。

中西:それはそれでムカつく。

そんな理不尽な…

〇〇:まぁバレなければいいのか。

中西:そういうこと。
ちゃんと変装もするし。ね?行こ。

ーー

中西:面白かったね。

〇〇:うん。ふつうに面白かった。

ていうか…
本当にふつうの休みの日って感じだ。

中西:〇〇は明日からも私につくの?

〇〇:まぁ専属だからね。
基本そうだと思う。

中西:ふーん。そっか。

表情や声色こそ変わらないものの、彼女の頬は少しばかり色付く

中西:あ。私の家こっちだから。

〇〇:家まで送るよ。

中西:もうすぐそこだから別に…

〇〇:いやいや。
なんかあっても困るし。

中西:じゃあ…よろしく。

〇〇:ふぅ。

アルノのことも無事見送ったし。
あとは…

〇〇:この鳴り止まないLINEの通知をどうするべきか…

送り主は分かっている。
そして、だからこそ…

〇〇:帰りたくねぇ…

なんて言い訳する?

悪口なんて言ってないよ。か?
いや、こんなのすぐバレる。

素直に謝るか?
いや、そしたら悪態を認めたことになる。

ふむ。

〇〇:なんて答えの出ない難問だ。

それでも足は自ずと帰路に向かってしまう

〇〇:どうしたものか…

自分の未来がかかっていれば脳はフル回転する

生命としての本能だから

だからこそ

「外部」からの情報収集が疎かになってしまう

〇〇:とりあえず話をして…

「ちょっといいですか?」

〇〇:!?

突然後方からかけられた声

周りに他の人は確認出来ない

つまり

〇〇:ぼ、僕で…

声をかけられたから振り向く

声の主が知りたければなおさら

だが

「ダメ。歩くのを止めないで。」

…はい?

訳が分からない。

彼の率直な感想だろう

一応俺に話しかけてるんだよ…な?

でも歩くのを止めるなって…

〇〇:言ってることがよく分から…

「言う事を聞いて。
じゃないと…バラしちゃうよ?」

バラしちゃう?
なにを?
てか誰?

声色的に女性っぽいけど…
しかもだいぶ大人っぽいし…

〇〇:バラしちゃうとは…
なにをです…か?

「…アイドルと映画デート。
素晴らしい一日だったね。」

!?

「分かった?
君は振り向かずに、私の言う通りに歩いて。」

…え、これマジでやばくね?

「大丈夫よ。
私は君の…味方だから。井上〇〇君。」

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