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It’s the single lifeとは?26

遠藤:とりあえず…ここです。

〇〇:ここは…

遠藤:私の行きつけの本屋です。
古本がメインでいろいろな種類が置いてあります。

〇〇:なるほど…

改めて思うが、俺が初手にやったパチ屋は間違いなく論外だったんだな…

遠藤:…本とか興味あります?

〇〇:お恥ずかしい話、個人的に読むことは少ないですね。

というか、ほぼ無いな。
我ながら大学の参考書すら枕になった始末でございます。

遠藤:…やっぱり、ここに来ても意味がない気がするんですが。
井上さんは本もあまり読まないみたいですし。

ぐうの音も出ない…が

〇〇:遠藤さん。
新しいことを初めるのと興味がなく見逃してしまうのは紙一重だと思うんです。

遠藤:…

〇〇:僕はせっかく遠藤さんがオススメしてくれた場所を見逃したくはないです。

遠藤:井上さん…

フッ。
我ながら良いことを言った気が…

遠藤:別に井上さんにオススメしたいわけじゃないです。

うん。ですよね。

〇〇:…分かってました…
調子に乗りました…

遠藤:…フフ。
まぁせっかくですからなにか一冊買いますか?

〇〇:え、遠藤さんが選んでくださるんですか!?

遠藤:…嫌じゃなければですけど。

〇〇:嫌なわけないです!!
その本が僕の生涯の大切な一冊になります!!

遠藤:…本当調子がいいですね。

言葉にこそ棘はあるものの

〇〇:…

遠藤:な、なんですか。
まじまじと見て。

〇〇:す、すいません。
いや、なんというか…

遠藤:ハッキリ言ってください。
モヤモヤします。

〇〇:…改めて遠藤さんって可愛らしい方だなぁと。

遠藤:…

やめて。
その害虫を見るような目を止めて。

遠藤:はぁ…
そういうこと誰にでも言うんですか?

〇〇:いやいや!!
そんなことないですよ!!
いまのは本当に心の底からそう思ったからであって…

遠藤:も、もういいです!!//
早く探しに行きますよ//

やってしまった…
また無職に一歩近づいてしまった…

ため息をつきながら遠藤の後をついていく彼には、彼女が頬を赤らめてることに気付くことはなかった

遠藤:じゃあ次はここです。

〇〇:ここは…
カレー屋さんですか?

遠藤:はい。
私の好きなカレー屋です。

カレーが好きとは聞いていたが、本当にカレー好きなんだな。

遠藤:カレーはお好きですか?

〇〇:好きですよ。

遠藤:ここのカレーは家庭のカレー!って感じで美味しいんですよ。

〇〇:それは期待値上がりますね!!
さっそく入ってみましょっか!!

遠藤:カレーのあとはここって決めてるんです。

〇〇:ここは…和菓子屋ですね。

遠藤:です。
私の好きな食べ物知ってますか?

和菓子…遠藤さん…

〇〇:みたらし団子…ですかね?

遠藤:よくご存知ですね。

〇〇:これでも乃木坂オタクをやってそこそこ経ちますから。

遠藤:それで和ちゃんが乃木坂に入るって奇跡ですね。

〇〇:そうですね。
まぁ和が入ってくれたから、こうして遠藤さんとお知り合いにもなれたわけで。

遠藤:和ちゃんには好かれたいですけど、別に井上さんと知り合えて感謝はしないです。

わぁお。
なんて直球な言葉でしょうか。

〇〇:ですよね…身の程を考えます…

遠藤:フフ。
冗談ですよ。
とりあえず今のところはそこそこ楽しいので。

!?

〇〇:ホントですか!?
じゃあマイナスに達した僕の信用度は…

遠藤:そうですね。

あぁ神よ。
やっぱりこの方は女神な…

遠藤:マイナス100がマイナス99くらいにはなりましたね。

わけないよね。
しっかり無職にさせる気だねこれ。

〇〇:先は遠いですね…

遠藤:しょうがないですよ。
どう頑張っても、井上さんが和ちゃんに好かれてる時点で腹立たしいんですから。

〇〇:それはもうどうしようもないというか…

遠藤:じゃあ私もどうしようもないです。

行き違う人たちが、手を繋いだ親子から、ネクタイを緩めたサラリーマンになり始めた頃

遠藤:一通り回りましたけど…

遠藤は眉間にシワを寄せ、隣に歩く男に声を向ける

遠藤:改めてなんの意味があったんですか?

〇〇:…

男〇〇。ここが勝負だぞ。
ぶっちゃけ策無しで過ごした一日。
ここでなにか生み出さないと俺の将来は真っ暗確定だ

遠藤:結局、私のいつもの休日とあまり変わりなかったんですが。

〇〇:そうですよね…
でも。僕は遠藤さんのことたくさん知れました。

遠藤:…いますぐ解雇の連絡入れてもいいですか?

〇〇:落ち着いてください。
感情に任せて一人の男の人生を終わらせないでいただきたい。

遠藤:あなたが私のことを知れたかなんてどうでもいいんですよ。私は…

〇〇:たしかに知れましたけど…
今日行ったどこをとっても、僕が行きたかった場所ではなかった気がします。

遠藤:…

彼の言葉に、彼女はどこか胸のあたりがチクリとする

〇〇:本屋にカレー屋、和菓子屋…
どれをとっても、そこは遠藤さんが好きな場所であって、僕の好きな場所ではないです。

遠藤:嫌味ですか?
あなたがそうしろと…

〇〇:そうです。僕が言ったんです。
それで…僕は今日一日とても楽しかったなと胸を張って言えます。

遠藤:…なにが言いたいんですか?

〇〇:…どこに行くか。何をするか。
たぶんそんなことはきっと大した問題じゃないんだと思います。

遠藤:どういうことですか?

〇〇:結局は誰と行って、誰と何をするかが大事なんじゃないかなって。

遠藤:…

〇〇:今日の始まりにも伝えたとおり、和はもう十分遠藤さんを慕って、好いています。

遠藤:だから、それでも…

〇〇:それでも遠藤さんがもっと和と関係を良くしたいのであれば…
いま以上に遠藤さんらしくあればいいんじゃないでしょうか?

遠藤:いま以上に…私らしく?

歩みを止めてまで彼の言葉に耳を傾けるのは、きっとその言葉に何かを求めているから

〇〇:今日一日一緒に行動して、いろいろな面の遠藤さんが見れました。

〇〇:本を真剣な表情で選び、でも少しだけ優柔不断な姿

遠藤:…

〇〇:カレーが好きなのに辛いのは苦手なのか、必死に水を飲みながらも美味しそうに食べる姿

遠藤:…

〇〇:みたらし団子をまるで子どものように頬張りながら笑みを浮かべる姿

遠藤:…

〇〇:そのどれもがきっと背伸びをしてない飾り気のない素の遠藤さんだと思います。

まるで一つ一つの時間を思い出すように、ゆっくりと言葉を紡いでいく

遠藤:じゃあ和ちゃんの前でもそのままでいろと?

〇〇:そうですね。
でも、きっと頑張ろうとしちゃうのも遠藤さんだと思います。
だから…難しいことを考えずに、一緒に好きなところでも行けばいいんじゃないでしょうか。

遠藤:…そうすれば私の素が見れるからですか?

〇〇:まぁ…
僕が今日思ったのはそんな感じです。

遠藤:なるほど…
貴重なお話ありがとうございます。

これは…
奇跡の逆転劇成功なんじゃ…

遠藤:ところで…
なんで今日あなたに見せた姿が素の私だと思ってるんですか?

〇〇:…え?

遠藤:私が井上さんに素を見せると思います。
大嫌いで和ちゃんを奪うあなたに。

〇〇:えぇぇぇぇぇぇぇ…
いい感じにまとめたと思ったのに…

遠藤:…甘いですよ。本当に。

〇〇:じゃあ…

遠藤:でも…
ほんの少し。ほんの少しだけですけど。
楽しかったって私も思えました。

〇〇:!?ほ、ほんとですか!?

遠藤:…その必死な感じを見るとほんの少しも思えなくなってきます。

くっ…詰めが甘かった…

遠藤:…不思議な人ですね。井上さんは。

〇〇:僕が…ですか?

遠藤:はい。
いまだにあなたのことが好きか嫌いかで言われたら大大大嫌いです。

いまだにと仰いましたが、以前より大が増えた気がするんですが?

遠藤:それでも…

〇〇:それでも?

これは。まさか。
妄ツイでいうツンデレ的な…

遠藤:いや、やっぱり嫌いですね。
結局、今日一日かけて得られたものもあまりなかったですし。

〇〇:…

あれ、なんでだろう涙が止まらない。
それってつまり…

〇〇:じゃあ僕は…

遠藤:そうですね。
貴重なオフもあなたのせいで無駄になりました。

ゴメンな和。
お義兄ちゃんこれからめっちゃ勉強してパチプロになることにしたよ。

遠藤:だから…

悪いけど今の家は和名義に変えて俺は実家に…

遠藤:今度はもう少しマシな案を考えてください。

〇〇:そうですよね…
もう僕は…

〇〇:今度は?

遠藤:信用度はいまだにマイナスですが…
まぁ和ちゃんが悲しむ姿はまだ見たくないですし。

〇〇:!?

きた!
きた!!
きた!!!

遠藤:とりあえず!
今日はもうここまでで大丈夫です。
ありがとうございました。

〇〇:え?
でもご自宅まで…

遠藤:大丈夫です。では、これで。

はやぁぁぁ…
やっぱり俺嫌われてんだな…

〇〇:まぁでも…
とりあえず今日は乗り切ったのか…

ブーブー♪

集中力の糸が切れた瞬間を見計らったように

〇〇:怪しい。怪しすぎる。
このタイミング…まさか和じゃないよな…

恐る恐るスマホを取り出し画面に視線を運ぶ

〇〇:なんだ。和じゃないのか。
ひとまずセーフか。

てか…
誰だこの人。
なんか勝手に友達追加されて…

まるで時が止まったように

スマホから視線が離せずにいること数秒

〇〇:なんだよ…これ…

先程振り返ったきらびやかな一日

それと同じように一日を振り返る

きらびやかな

それでいて

〇〇:…クソっ!!

夕日は地平線へと消え去り、月明かりと街灯が街の夜をどうにか照らす

遠藤:…

人気が無い住宅街の道

本来なら止める必要のない足取り

だが

遠藤:…誰ですか。

隣に人は誰もおらず

それでも確信を持ったように、どこか震えた声で言葉を

後方へと向ける

遠藤:着いてきてますよね。ずっと。

一見、人影のない一本道

変哲のない電柱

街を照らすように設置されたはずの街灯が

不気味な影を暴くように

「…気付いてたの?さくちゃん。」

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