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通りすぎる

茶碗から湯気が立つ。ざらりと丸みを帯びて手に抱かれたそのぬくもりの温度がまるで子供の頭と同じだと思った。

少し泣きそう。
私が通りすぎてきた色々なものに会えた気がした。
遠く踏切から、止まらずに走っていく電車の窓を見るように、挨拶も出来ないどうしようもない距離で次々と私の目の前を今、通って行った気がした。
さよーなら、さよーならと私になんの未練もなく無邪気に通りすぎていく。
お茶を一口飲むたびに冷めていく茶碗が寂しい。
だけどいますぐ泡だけが残るその底を覗きたい。
なにかある気がする、何かある気がする…

畳の目が私の肌に優しく食い込んでは馴染んでいくのを感じながら、音のない映像を耳を澄まして聴いていたら、少し後ろで、茶杓がコツと鳴った。

あと3日で1年が終わる。
また始まることを疑いもしないで、今日が通りすぎていく。

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