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 今日、クローゼットで着替えをしていたら、廊下から部屋を覗いていた息子が突然誰にも言わんでよと言って、唐突に最上級の愛の言葉を私にくれた。

 覚えがある。ママが好きで好きで大好きで、ママがいなくなったら、ママがママじゃなかったら、ママがもし死んでしまったらって考えて毎日眠れなかったのは、ちょうど長男と同じくらいの年頃だったと思う。人は一番好きな人と結婚すると言うのなら、私はママと結婚する以外考えられない。ママと一緒に暮らさなくなる日なんて絶対に来ないと思うし、こんなに好きなママのことより好きになる人なんてないと思った。パパは、パパも、好きだけど…。

 ふざけることもなく、だけどなんだか言ってもいい言葉なのかわからなくて、だけど胸で弾けるようなこの気持ちをどうにか伝えたくて。テレビか何かで見たドラマチックな言葉を、試しに真似してみたのだ。少し緊張した顔で、それは数十年前の私の姿だった。

 母はそんな私になんと返事をしたのだろう。母はどんな顔をしていただろうと思うけど、思い出すより先に、私はそれをはぐらかすでなく、ただ少し気恥ずかしく、それでも真剣みを込めて、彼の目を見たあとで抱きしめた。

 永遠と同じ価値のあるこの愛が、同時に永遠でないことの思い出を連れてやってくる。私たちは不思議だ。こんな愛を繰り返して生きてきた。

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