ダウン症の赤ちゃんの生死をめぐるルポ、全集第3巻『生命かがやく日のために』に登場する「A先生」のこの発言に、愕然とさせられたものだ。2000年代に入ってからの新自由主義的な価値観の蔓延と、石原慎太郎とか橋下徹のような人が支持されていく風潮、そこからじわじわと、優生思想的な価値観が醸成されてきて現在に至ったのだと、なんとなく考えていたが、それは間違いだった。はるか以前から、少なくとも50年前からすでに、この社会には優生思想が現前していたことが、本書を読むと一発で分かる。この「A先生」のその後の発言は、現在の予言となっている。
念のために言うと、このルポの初出は1985年。なんとまあ、2023年現在のこの国のことを言っているのかと錯覚するではないか。「A先生」の予言が、相模原障害者施設殺傷事件という最悪な形で現実化したことを知っているわれわれが、いま、本書を読む意味は極めて重い。あと言うまでもないが、いまの成田某とか杉田某とかその他優生思想剝き出しの有象無象につながる「日本人」の性質が、ここで簡潔かつ的確に言い当てられていることにも、嘆息させられる。
なんというか、ぐうの音のも出ない。1980年代にここまですでに言い尽くされていて、現にそうなっているのだから。(つづく)