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世界線が引けなくて

 本稿のタイトルを見て首をひねっている方は、おそらく少なくないだろう。
 私も「世界線」という耳慣れない言葉を、つい最近になって初めて見聞きした。それも2度、立て続けに。
 1度目は日本テレビで3月上旬にオンエアされたドラマ「テレビ報道記者」。芳根京子の演じた新人記者が、仕事に煮詰まり、「セカイセンがどうのこうの」とボヤいたのだが、なにしろ初めて聞く言葉だったので、「世界戦」だか「世界船」だかもわからないまま聞き流した。

 2度目は雑誌「GQ JAPAN」4月号に載っていた大谷翔平のインタビュー記事。「この手術は、大谷翔平を進化に導くのか?」という質問に対し、「ケガをしなかった世界線がわからないのでなんとも言えませんが、前回手術したときも気づくことはいろいろありました」と、大谷が答えていた。
 ふーむ、漢字は「世界線」でよかったのか。

 日本語は表意文字である漢字で書かれるので、それまで知らなかった言葉や、あるいは発明されたばかりの新語や造語と出会っても、たいていはどんな意味か想像がつくもの。
 ところがこの「世界線」というやつは、どうにも意味がつかめない。「世界」も「線」も特に難しい単語ではないのにね。
「世界線」と言われてまず思い浮かぶのは水平線や国境線、あるいは海外に向かう航空路線や国際水路のイメージか。だが大谷の使用法を見れば、明らかにそういう意味ではなさそうだ。
 どうも大谷は「ケガをしなかった場合と比較できないので」という意味でこの言葉を使っているように思えるのだが、そうだとしたら、なんで「世界線」なんてややこしい表現を使う必要があるのか? 「ケガをしなかった“世界”がわからないので」なら、まだしも言いたいことはわかるが、さりとて「世界線」と「世界」は微妙に同義ではなさそうだ。
 米国在住の大谷が使うくらいだから、日本では(私が知らないだけで)もっと大勢の人々の間で使われているのだろうがなあ。

 ところで、このインタビュー記事が公表されたのは、元女子バスケ選手との結婚や、水谷通訳による賭博・窃盗疑惑が報道される前のこと。GQ編集部は、2匹の大魚を釣り損ねた気分になったに違いない。
 大谷君本人にとっても、シーズンイン直前に、好事魔多しを地で行く展開になってしまって気の毒だった。
 まあ、でも、明るい面を見ましょうや。新妻に盗まれたわけでも、新妻を盗まれたわけでもなかったのだから、まだしも良かったんじゃ?

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