【実録】はてな社とのやり取り(序・0/6)
亡くなったHagexさん(本名・岡本顕一郎さん)と、凶行に及んだ受刑者との裁判は、12月5日、福岡地裁で懲役18年の実刑で結審しました。
一連の内容は重い話なので、先に3文で結論を書きます。
・ この裁判の経緯から結果を通じて得た私の仮説は、「はてな社が適切にコミュニティを管理できていたならば、Hagexさんは死なずに済んだのではないか」です。
・ しかしながら、現在にいたるまで、はてな社はこの悲しい事件に対するコメント(見解、改善策、お悔やみなど)を、社として正式には発表していないように見受けられます(以下参考)。
・ Hagexさんが事件を受けて落とした命の教訓もなく、ただ判決が確定して事件が終わっていくよりは、受刑者の特殊なパーソナリティも含め、今後は対策を打つ必要があるのではないかと、はてな社に問いかけてきた実録をまずは公開します。
ということで、以下本文。
友人として、彼の在りし日のことを思うことも多く、また、彼が新たな取り組みとして行おうとしていた事業のテーマがいままさに日本のネット社会で重要なキーストーンとなってきていることも含めて、彼が存命であったならなあと願う気持ちすら抱きます。
本件事件の見えない場としてきっかけを作ったはてな社のサービス「はてなブックマーク」での問題については、Hagexさんの公判において隣室からのビデオリンクでの証言ではあるものの経緯や考え方についてはてな社も証言を行っていました。
しかしながら、非常に残念な事件発生から、本件事件が結審し、ひとつの決着を見るまで、最後まではてな社は公式に本件事件について見解を発表することはなく、再発防止に関する具体的な取り組みや、はてな社、ひいては関係するネット社会に対してはてな社の宣言、啓蒙、指針といったものは発表されていません。
また、問題となった「はてなブックマーク」では、いまなお罵倒や暴言を繰り返す特定のユーザーが引き続き古参ユーザーとして日々サービスを利用しており、たびたび書き込み者の品質が法曹界でも問題になるレベルとほぼ同等の書き込みが行われても、一部のヘイトを除いてそのまま掲載されたままになっているように見受けられます。
もちろん、CGMのサービスである以上、ユーザーに対して自由な言論がサービス事業者としては保証されなければならないという大原則は充分に理解はできます。一方で、だからといって現状のコミュニティマネジメントでは充分な対策ができていなかったからこそHagexさんは残念なことになり、受刑者も自らの凶行を思い止まることができませんでした。
この裁判の経緯から結果を通じて得た私の仮説は、「はてな社が適切にコミュニティを管理できていたならば、Hagexさんは死なずに済んだのではないか」です。受刑者も、燻ぶる負の感情をあのような形で爆発させることなく、何か別の生産的なことに人生の時間を費やすことができたのではなかったか。
そして、公判でのキーワードは受刑者の、ある「パーソナリティ障害」です。見る限り、そう珍しくない分野の問題であり、これらは今回でこそ「殺人事件」という望ましくないアウトプットで終わりました。ですが、実際には私たちの世の中には「失業」「未婚」「ニート」「引きこもり」といった比較的よく見かけるキーワードから、「孤独」「絶望」「不安」という凶行へのトリガーを引くエネルギーが溜まっていっている、という風に思います。
なんせ、中高年の引きこもりだけで60万人以上おり、一連の「パーソナリティ障害」を抱えながらも、適切な治療やガイダンスを請けることなく日々を自室かその周辺で過ごし、ネットに知己を得て安住している人たちはたくさんいます。この「パーソナリティ障害」が引きこもりや、少なくとも無業状態を引き起こす併発率は相応に高いことは知られていますので、ネットの中にも立派なことを書いているけど子ども部屋おじさんだった、という例は決して少なくありません。それでも、ネットでの活動は平等なので、もちろん許容されますし、それはそれで構わないと思います。
ただ、これらの「パーソナリティ障害」はその本人の環境変化などで、一気に悪化することがあります。恵まれない環境、親とのいさかいや病気と死、経済的問題などです。巷に見る凶悪犯罪で、なぜこんなことをという話はネオ麦茶事件から京都アニメーション放火事件までたくさんあります。
はてな社が本件事件で、はてな社が初めて手がけるはずであったブロガーイベントが中止に追い込まれるという一件があり、そこで、IT mediaの取材にこう答えています。
また、今回の刺殺事件に関連し、はてなのサービス運営体制に不備があったのではとの指摘も一部で出ている。はてなに対して、サービス運営体制やルールの見直しなどを検討しないか取材したところ、「荒らしや規約違反行為については、情報削除、利用停止などの措置を都度取っている。第三者に対する権利侵害に相当する情報については、プロバイダ責任制限法に基づき対応を行っている。これらの対応に明らかな不備があると考えていないため、現時点ではルールや体制の見直しについてお話できることはないが、本件に限らず、より良いサービス運営のための改善には常に取り組んでいるため、引き続き、検討する」との回答だった。
そのつもりはないのかもしれませんが、はてな社は「できることをやっていたので、法的にも不備はなく、この問題についての責任はありません」と言いたそうです。この回答を、実録を読まれる方は是非ご記憶ください。
しかしながら、実際に公判で明らかになったことは、このはてな社が「荒らしや規約違反行為については、利用停止などの措置を取って」いたことが結果として受刑者を孤立に追いやり、殺害を企図させ、そして実際に凶行に及ばせた可能性があります。そして、上記「パーソナリティ障害」のない人であれば、利用停止になれば引き下がったり、穏当な表現を行うようなことになるという対策に成功するかも知れないが、複数アカウントを作り、何度も利用停止にされても執拗に誰かに攻撃的に絡んでいくような性格の人は、このようなサービスからの排除以外の方法のほうが適切であることを、今日この時をもってなお、はてな社はHagexさんの死から学んでおらず、学ぼうともしていないのではないかという懸念を持つに至ったのです。
本稿序文の最後に、受刑者はネット上での議論がエスカレートするたびに、受刑者なりに津田大介的な「殺す奴リスト」を作成して、Aランク、Bランクとつけていたと証言しています。
そして、はてな社の社員多数がAランクに入るだけでなく、私もまた、Aランクに入っていました。つまり、受刑者が抱えた悩みと同じようなパーソナリティを持つ、それなりに多くの人たちが使っているはてな社のサービスでは、その回線の向こうに執拗な攻撃をしながら大変な憎悪の念を抱いている人たちがいる、ということです。こういう人たちがいることが分かっていながら、適法性があるから、また、利用規約違反だからと利用停止を繰り返していたとして、問題が解決するどころかよりとんでもない排除に繋がっている可能性について、もっと考えるべきではないかと思います。
以上のような内容も踏まえて、はてな社とやり取りをしたメールの内容を改変せず掲載していきたいと思います。