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韓国との貿易(コンテンツ系)で何が起きているのかと、日本企業の課題をありのままに語る

 まず、最初に書いておくんですが、韓国企業にはまともなところは多いし、韓国人の経営者はいい奴が多く、真面目だし、礼儀正しいです。応援したくなるような人柄の人たちはたくさんいる。

 一方で、残念なことに「状況が、礼節を許さない」「余裕がなくなる」と人間はどうしてもいろんなことを起こしてしまいます。ふだん、礼儀正しい良い人でも、自分がどうにもならないところへ追い詰められれば、「自分を捨てて取引先や部下を守るぞ」とか「最後まで身銭を切って事業を存続させるぞ」とはなかなかならないのです。

 私自身も、私の責任ではないのに親父が事業に失敗して多額の借金を抱えさせられたときは、形だけの取締役の肩書であっても銀行に足しげく通い、リスケジュールの相談をし、いったんはサービサーに債権を回されてしまっても会社の資産を売りながらやりくりし、最終的に譲渡先が見つかってどうにかなったという経験があります。

 だからこそ、経営者を見るときに「この人は、ちゃんと最後まで粘ってくれる人か」というのは大事なポイントで、途中で逃げたり、悪者になるのが嫌だったりという人は、往々にしてつまらない結果を生むことになるのです。私自身は家庭の事情や育児もあるので経営の第一線からは離れて数年が経過していますが、やはり顧問先やご関係先からの多数の相談があるなかで、私の知恵や経験で良ければ使ってもらって、少しでも良い仕事をしてほしいというのが切なる願いであります。

 というわけで、現在私たちが直面している話をすると、韓国系のプロダクションで映像制作(CG含む)やタレント事業(そこそこ国際的に活躍している俳優さんを含む)を営んでいる中堅が飛びそうだとか、韓国系・中国系の大手ゲーム会社の資本がマイノリティで入っているゲーム企画制作会社が次回作の失注と中国でのゲーム展開の突然の禁止で資金的に立ち往生しているなどの話がありました。私どもからすれば大事な取引先なので、困ってて「ざまあwww」と思うような気持ちは微塵もなく、私としては「納品してくれればいい」「条件が多少変わっても払ってくれればいい」と思っているわけですが、韓国系の企業で環境が悪くなると俄然起きることは「突然連絡が取れなくなる」なんですよ。

 当然、関係先もビビるので、示し合って人を集めて「今日夕方に先方の日本法人のオフィスに行ってみる」とか「韓国在住の知人に先方に問い合わせてもらう」といった、どうにか連絡が取れるようにするというところから、話を始めます。払えないなら払えないで、彼らの口からしっかり「払えない」と言ってもらえないと、こちらも穴が開きそうな制作物を別に頼み直したり、納品のための制作を一度全部止めたりしないといけませんから。

 また、彼らの名誉のために言うと、コンテンツ業界というのは「よし、これをやろう」となってから「お疲れさまでした」までの間に、そういうことはだいたい何回かあるのです。むしろ、何事もなく最後まで納品が終わってサービスインしました、映画として無事に封切られました、ということは少ない。だからこそ、大きい看板ありきで仕事を進めたり、製作委員会を作って何かあってもいきなりバターンと倒れないようにしたり、幹事会社にはなるだけカネを持たせず金庫番になる第三者を起用しておいたりという工夫をすることになります。

 ただ、今回の一連の韓国企業の話はちょっと複雑で、いきなり全部が駄目になるとか、みんな破産しそうだとかではありません。おそらくは経営感覚として「おそらく韓国国内での景気は危なくなりそうだ」という読みがあって、「それならば少し支払いや納品を遅らせないとヤバいんじゃないか」などの考えをもっているうちに、韓国国内の景気が本当に冷えてしまい、何らかの仕事がキャンセルになると一斉に「日本への支払いを止める」という行動に出るのではないのかなと思います。

 こちらも韓国人との付き合いはそれなりに長いので、特にゲームなどの制作では「彼らが受注した納品に関わる外部クリエイターは、事前に全員連絡先を押さえておく」というムーブを取ります。発注を受けた韓国企業が取りまとめをしてくれているので、例えばイラストレーターやアニメーター、モデラ―などの仕事は一括で納品してくれるのですが、今回のように「どうも経済がヤバいから」という理由で納品を渋り連絡が取れなくなるような事態にならないように、契約の段階からどのクリエイターが何の仕事を何点手がけるのか、発注した内容も全部知っておくことでリスク回避になるわけです。

 もちろん、全部が全部救われるものではないし、韓国国内でそれらの韓国企業に発注を受けたはずのイラストレーターも、実は韓国企業から言われた金額を満額は支払われていなかった、なんてことが当たり前のように起きます。日本のアニメーターなどフリーランスのクリエイターの場合は、そもそも発注単価が安いので死にそうですが、韓国のクリエイターは韓国企業が納品物にあれこれ難癖をつけて満額払ってくれないので死にそうになるケースも少なくありません。

 また、納品物のクオリティで言えば中国のクリエイターのほうが安く早いという事態も増えてきました。品質のコントロールやアート担当のディレクターの意思疎通の問題は相変わらずありますが、先方も慣れてきて各段に仕事が進めやすくなってきた部分はあります。なので、韓国企業や韓国人クリエイターと話をするときには、もちろん彼らには彼らの良さがあることは充分に承知したうえで「こちらのパートは別で中国企業にも発注をかける予定です」と伝えておくと俄然頑張ってくれる部分があります。もちろん、頑張って良いものを作ってくださるからには中国でも韓国でも日本でも台湾でもタイでもマレーシアでもどこでも構いません。

 で、昨年9月の日韓間のGSOMIA事変以降、日韓間の関係が悪化する中で、韓国企業がどこにどう配慮しているのか分かりませんが、一方的に日本企業に対して取引を絞ったり、条件を変更してくることがありました。全体で言えばせいぜい三割ぐらいのところが何か知らんが条件を変えたいと言ってきたりしていて、こちらも「そんなら東南アジアか欧州か中国か別のところに出すわ」となります。本人たちに正面からそうは言いませんが、そっと韓国への発注を減らします。

 その結果、幸か不幸か今回のコロナウイルス騒動があり、といってもその前から韓国経済はおかしかったようですが、前述の通り「払えない」「納品できない」というプロダクションや制作会社が韓国で増えてきたというのが気になるわけです。それなりに大型タイトルの制作企画を手掛けているはずなのに、目の前の2億円ぐらいが払えないよとかちょっとアリエンティ。

 とかなんとか本件記事を書いているうちに(書き始めたのは2月11日ごろなんですが)、ある大型ゲーム案件で本格的に納品がディレイして、大型の契約を飛ばしてしまったようです。他人事ではないのでアレですが、まあ、迷惑ですよねえ。

 そうなると、比較的経済的にちゃんとしてる日本で、韓国人クリエイターが働ける環境を用意してあげようかとか、そういう駄目な経営をする上層部は早く見捨てて開発部門がMBOして日本に来いよという働きかけをするようになります。ただ、それも「安いけどちゃんと払う」日本が彼らの目から見て魅力的に映っているかと言われるとそうでもなさそうなので、もっといい条件があれば上海とか成都とか大連に行ってしまうんだろうなあと思います。

 国際的な競争の現場とはこういうもので、劣勢な日本でも現場の知恵でどうにかなるのはこの程度の話です。もっと市場ごとガバッと取られるよ、日本のクリエイティブを担う人たちが高額報酬に釣られてどんどん吸い上げられるよ、みたいなことがあれば、まあ、もちません。何しろ、日本でしか通用し無さそうなコンテンツを日本企業が少ない日本資本で細々と制作している環境が続く限り、カネを払ってくれるオタクの高齢化とともに死んでいくことにもなりかねないなあと思います。

 逆に言えば、海外の事業者から「お前ら日本企業がハンドリングする作品をやりたいし、日本人クリエイターを起用したい」と言ってもらえている限りは、どうにかなるのかなとは思いますが。


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神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント