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「利益団体同士の調整の場」としての政治に思うこと

 菅義偉さんが新総理大臣に就任し、菅内閣が成立しました。

 個人的には前評判が微妙だったので菅さんがどんな政治改革の方向性を示し、またコロナ禍で喫緊となっている経済政策としていかなる内容のものを打ち出すのか興味深く待っているところなのですが、西田亮介さんがこんな議論をTwitterで吹っ掛けていました。

 もちろん、提言している団体の中には全国地域婦人団体連絡協議会のようなところもあれば、労働組合系の政策主張などもあるわけですが、指摘されるように経済団体や業界団体が利益誘導のために積極的にロビーをかけ、企業の利益を最大化させるための政策誘導をしているケースなんかも見受けられます。

 なので、西田さんにそれを言われるといろんな顔が思い浮かび、また、こりゃ露骨な利益誘導でござるなあという提言の数々が走馬灯のようにぐるんぐるんするわけですけれども、五輪といいカジノといい万博といい沖縄といい懸案となる国家プロジェクトは基本的に利益誘導と利害調整の塊みたいなものばかりが並んでます。また、規制改革論議というのはいずれも利益代表が並んで言いたいことを言い、その結果の落としどころがいかに玉虫色であるかを競う選手権のようなところがありますので、有識者から正論として「業界団体は黙れ」と言われても「いや、うちらはそのためにできた団体なんで」と頭を掻きながら反論されるのがオチなのであります。

 問題は、そういう業界団体同士の利害調整の果てに行われる「改革」が、果たして本当に国民の利益になっているのかという点にあります。私が個人的に詳しく知る行政分野においても、特定の企業ばかりに利益が落ちるんじゃないかという話が目白押しになっていますし、逆にこれからはこういう儲け方でないと他国に比べて見劣りするという危機感を抱いた大企業が他の同業者を巻き込んで業界団体を作り制約になっている法律の改正をロビーしていくというプロセスもまた見受けられます。そして、往々にして見落とされるのが「その結果として、国民がどれだけ幸せになり、社会にどういう良い効果があって、経済にどれだけの富をもたらし、そしてそれは持続可能なのか」といった観点です。

 例えば、単純に「これからはスマートシティでござる」と言われて「そうですね」となって「その実現のためにはこのような法改正が必要だ」と言われて「ですよねー」となる。でも、そのスマートシティとやらは、本当に地域住民の利益になるのか、安全や文化にどういう良いインパクトを与えるのか、副作用はないのか、サステナブルなのか、といったあたりはあまり語られないのです。先進的なんだからきっと企業にも社会にも利益があるだろう、というある種の思い込みが大前提になっているように思います。

 一方で、DXだよ、電子政府だよという動きもまた強くなり、東京都では元Yahoo!JAPAN社長の宮坂学さんが奮闘していたりもします。明確に「こっちが正義だ」と言われれば「みんな便利になるし、そうなのかな」と思いますし、なにぶんトップが小池百合子さんなので早く宮坂さん都知事になってくれねえかなと日々願っています。

 しかし、こういう議論においてすらも、本来であれば「よし、東京をより便利にするために情報化推進の方向に舵を切ろう」と一枚岩になるかと思えばさにあらず、便利になる過程でふるい落とされるベンダーとか都庁関連組織が水面下で猛烈に反対をしています。非効率な行政であるがゆえに、その非効率さを収益の源泉としている企業群が割を喰うわけです。世の中の不便は余計なひと手間があるからですが、そのひと手間を仕事にして暮らしている人たちは利害調整が行われないままだと改革に反旗を翻し、抵抗勢力に簡単に陥ってしまいます。

 改革を進めようとして、それに反対する人たちが余計なスキャンダルを流して全体がグズグズになってしまうのはどこの国の政治も変わらない作用ですが、この方面を見るに、一番馬鹿にされがちな業界団体や利益団体との利害関係の整理が上手くいかなかったことに端を発しているように思います。

 いわば、NIMBY問題のように「公共の利益のために、ここに保育園を作りましょう」といって地元が総反対するのは目に見えているので、利害関係先を揃えて、よりジェネラルに「子どもの声は騒音とは見なさないことにします。いいですね」という下準備を打ったうえで、反対運動が起きても「いや、子どもの声などの騒音問題は公共の利益のために騒音とは見なされなくなりましたので、お前らの反対の根拠は全面的に棄却しますバーカ」みたいなことをお膳立てする必要があるわけですよ。この手の利害調整のための前捌きは、将来こういうことを実現して、まずは国民や社会の利益を実現するのだという落としどころを決めたうえで布石を打たなければならないのは、いかなる制度改革においても必須なことで、その場その場で正論をいったり、利害対立を調整したり、シンポジウムを開かれるごとに関係者が右往左往したりしないようにしないといけません。

 このあたりを長い目で見てしっかりと最後まで伴走できる人が政策立案側にいないと、いつまでも利害関係に絡めとられる業界団体や利益団体の顔色をうかがいながら小幅の法改正で良しとする的な微々たる前進しかできなくなります。たぶん、このあたりは政治過程の問題であり、華麗なるお座敷芸、置物ワールドの話なのかもしれませんが、何を着地点にしてどう利害対立を捌くかという前衛的な活動についてもっと詳しく知られる機会があるといいなと心から思います。


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神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント