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犬も喰わないオンラインゲーム内の揉め事の話

 いま、私はある国際的オンラインゲームで、ワールド内では中堅(Middle Power)とされる東欧本拠地の軍団の外交官(diplomat)をやっています。

 これだけだと何の事だか分からないですね。

 分からなくていいんですよ。

 この年末に、ちょっとしたミスを大手軍団のディフェンダーがやらかしました。それを突こうと敵対軍団が殺到したことで、二週間ほど大戦争になっていました。

 ゲームなのに大変だなと思います。

 実は私はその半年ほど前にいた軍団の外交官をしており、人数は少ないけど廃課金パイロット中心(wheles)の組織だったため、非常に好戦的な軍団と思われていました。

 私がかねがね思うに、好戦的であるからこそ、戦うべき先は慎重に選ぶべきだし、軍団が崩壊してしまうような大きな会戦をやるのは(1)「この陣営なら勝てる」と思える場合かつ、(2)相手から参戦依頼があって、参加するだけで充分なめりっとがある場合で、(3)負けても「我々は傭兵だ(We are mercenaries)」といって賠償を免れる場合のみ参戦しようね、そうすれば、顔を出すだけでメリットがあるし、勝って大儲け負けてダメージ軽微になるからさ、とずっと言っておりました。

 結局、その軍団は無謀な会戦にわずかなメリットを提示されただけで参戦してしまい、無事敗北しました。何勝手に戦争おっぱじめて、しかも負けているんだよ。いい加減にしろよ。この瞬間に、この廃課金軍団は200万円以上の投資金額を木っ端微塵にされてしまいました。ボイスチャットでは誰の責任かと追及する声ばかりがこだまし、口汚く罵る声が絶えませんでした。

 一番口汚く罵っていたのは私です。

 なんせ参戦してませんでしたから。一言言えよ。日本時間だとクソ深夜だって言ってんだろ。ただ、私個人は損害ゼロですが、仲間はこっぴどくやられて、みんなこのアカウントでは再起不能だというレベルまで負けました。私以外は。

 でも私は日本人なので(重要)、その場を収めて、ただでさえ崩壊寸前の軍団のために、払う賠償金を少しでも減らすべく交渉します。もちろん、私は損害軽微なので軍団が多額の賠償を払うことになってしまえば、その大半を私がゲーム内で払わなければなりません。

 必死に交渉していたところ、いまいる軍団の親父(自称ドイツ人)がボイチャで聞き取りづらい汚い英語を使いながら「おまえ、良く逃げずに交渉するなあ。うちに来ないか」というので、一応は勿体ぶりながら、これは引き抜きだ、上手くやれば私は賠償金を払わないどころか、戦勝側に回れるぞ。そう思って、一日時間をくれと言って、もう決まっている結論を翌日言いました。

「分かりました。あなた方の言うとおりにします(You win. I stand for your business)」

 以前は肩を並べて戦った廃課金の戦友たちのために賠償金を減らす交渉をしていた外交官である私が、いつの間にか寝返って戦勝側に立ち、崩壊寸前の戦友たちから少しでも多く賠償金を獲得する交渉を始めると、皆が口汚く罵り始めました。

「ここで取り返しのつくレベルの賠償金の支払いに応じれば、先方の軍団に加盟でき、より安定したゲームができるはずだ」

 そのような説得をテーマに一週間ほど交渉をして、一度は灰燼に帰した元の廃課金の皆さんを改めて戦勝軍団側にほぼ全員寝返らせることができました。先方軍団も、話の分かる私が説得することで戦力として頼りになる(かもしれない)廃課金の皆さんを吸収出来てご満悦です。

 で、その戦勝軍団が、年末年始の大会戦で無惨な敗北を遂げました。あるあるですね。うまくいったと思った瞬間にこれですよ。ボイスチャットでは200名以上のパイロットたちが口汚く指導部の不始末をなじる声を放っています。

 一番口汚く罵っていたのは私です。

 なぜなら、一番大事な作戦の間は家族と一緒に「絶対に笑ってはいけない大貧民GoToラスベガス24時」を観ながらゲヘゲヘ笑っておって、そもそも戦闘に参加していないのです。

 何勝手に戦争やって、しかも負けてんだよ。いい加減にしろよ。大晦日ぐらい普通ファミリーで楽しくやるだろ。お前らには家族もいねえのかよ。こっちなんか1歳の赤ちゃんがいるんだぞ。

 しかし、ぼろ負けした事実には変わりがありませんので、入団して日が浅いものの外交担当の一人として大量の敗戦処理メールをやり取りしなければならなくなりました。一人、外交担当のオランダ人のおばさんが滅茶苦茶デスクワークできる人で、テンプレを作っててきぱきと返答をしているのを見て「あ、この人は本物の敗戦処理屋だ」と思いました。

 必要な賠償を払うことで合意が取れ、当面の不可侵が成立したので軍団内で周知し立て直そうとしていたところ、今度は和解したはずのその軍団と別の不測の事態が発生します。私が知る限り、事の発端は次のようなものです。


当方パイロット「バーカ」
先方パイロット「お前こそバーカ」
当方パイロット「なんや馬鹿」
先方パイロット「なんやなんや?」
当方パイロット「なんやとはなんや?」
先方パイロット「なんや!!」

 流れるような自然さで局地戦が勃発したのですが、折悪く、当方で参戦した幹部パイロットが陣頭指揮を執ろうとして集中攻撃を受け無事敗死。援軍に駆け付けた味方も各個撃破で続々轟沈を繰り返し、ちょっとした戦力の差が偶発的な問題でドミノ式に敗戦になってしまうのであります。完敗です。

 突然の局地戦大敗の報を受けて、荒れに荒れる軍団内ボイスチャット。口汚い言葉が飛び交い、軍団長であったドイツ人を罷免しろとかクソみたいな指揮を執った幹部は軍団にリアルマネーを拠出して損害を弁済しろなどという文句の応酬になります。口汚い罵り合いはピークに達します。

 一番口汚く罵っていたのは私です。

 私、その局地戦に参戦してませんから。何勝手に戦闘始めて勝手に全滅してんだよ。信じられないぐらいの無能の集まりだお前らは。誰がそのケツを拭くと思ってんだよ。使える外交官だと思っていたおばさんオランダ人が静かだなと思っていたら、その人は今回の局地戦に勝てると信じて参戦して真っ先に撃沈され、他のメンバーと一緒に誰かの責任を追及するために口汚く罵っていました。ババアいい加減にしろよ。

 仕方なく、特に参戦したわけでもない戦争で敗戦した責任を取るための外交メールを、外交担当にさせられた私はいませっせと打っています。いったい何のためにこのゲームをしているのでしょう…。

 土下座するしかないじゃないですか。困ったもんだ。

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神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント