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誰が成毛眞さん(@スルガ銀行)に社外取締役を頼むんだ?という話

 個人的に成毛眞さんの言説は好きで、各所で老害批判に晒されながらも本好き特有の匂いを感じさせる直言をされるので、こういう人がいることが大事だと思いながら拝読しておるわけです。

 また、拙宅山本家が大好きな国立科学博物館のパトロンとしても知られ、入口に掲示されている「成毛眞」と書かれたスポンサーパネルを子どもに示しながら「この人が中村正三郎さんの愛したみかん星人だよ」と忘れてはならない歴史を子どもたちに教え込むのであります。

 で、Facebookで成毛眞さんが社外取締役や公益団体の理事職の就任依頼を断っているんだ的な話をされていました。野良でも読めるので興味のある人はご覧いただければと思うわけですが、まあなかなか悩ましい事案なのですよ。

 確かに成毛眞さんはとてもユニークで面白い着眼点のビジネスマンではあるけれども、本来の意味でビジネスの一線から成毛眞さんが消えた理由は、私はやっぱり18年務められたスルガ銀行の社外取締役という重しだと思うんですよ。完全なやらかしだったじゃないですか。

 みんなご存知かぼちゃの馬車で不動産投資をした人たちは、儲かるはずのない物件を取得させられるにあたり、スルガ銀行から融資をはめ込まれて大変なことになって、経済事案として炎上しています。日本の地方経済の低迷とともに収益をすり減らした地方銀行の行き詰まったビジネスに対するモデルケースと持ち上げられた面もやはりあるからでしょう。

 そのあまりよろしくない融資形態の企業の社外取締役として経営に参画し、そればかりか、それが問題と気づかずヨイショ記事を手掛けてきたことは、金融行政を担ってきた人たちからすれば忸怩たるものはあります。

 このような地方銀行のある種のやらかしもまた、当時の金融庁が地方金融の在り方でさんざん悩んだ結果、当時鳴り物入りで金融庁長官となった森信親さんを中心とする「地方銀行成功のロールモデル」にスルガ銀行が祭り上げられる一方、その足元では不適切な融資が横行していた実態には目をつむってきたツケなんだろうとも感じます。

 他方で、不動産投資なんて百鬼夜行の世界だし、高円寺で台風で倒れた蕎麦屋の跡地に立派な立ち飲み屋ができるぐらいには滅茶苦茶な世界でもありつつ、衰退する地方経済の限られた経済的成功を掴み取るにはスルガ銀行的なアプローチか、破綻した林原やLTTバイオファーマやテラ、ユーグレナ、アンジェスのような面白銘柄による株券印刷業的な何かぐらいしか見当たらないのもまた事実です。打ち出の小づちも銀の弾丸もない昨今、まともにビジネスに取り組んでもなかなかボロ儲けをするなんてことはできないのが人口減少とデフレのいまを生きる私たちの常識でもあるのです。

 マイクロソフト日本法人の経営者(ただし前職は西和彦さんのアスキー)というポジションにあった成毛眞さんが、インターネット黎明期のWindowsという最強に強まったOSの営業本部長的役割に落ち着いたのもまた歴史の綾とも言えるし、真の意味で、これぞ成毛眞さんの天職だったとさえ思います。

 ただ、インターネットの急激な普及局面で札束をするようにOSが普及していくというロックンロールのようなストーリーが終わりを告げると、やはり「世の中そんなに上手い儲け話はなく、高い利益を出し続けられるビジネスなどなかなかないのだ」という現実に突き当たります。その結果が、やはりスルガ銀行的な何かだったんじゃないかと、私は思うんですよね。

そして、つい昨日、スルガ銀行の融資被害者404名の調停が、文字通り3年越しでようやく解決する方向になりそうだという報道がありました。スルガ銀行被害者連盟が立ち上がり、被害総額はおおよそ8,000億円あまりという、金融犯罪としてはまあまあ大型の物件となったこれ、社外取締役として経営に参画していた成毛眞さんが携わっていた本当の経済事件だったというのは当然に指摘されるものです。

 そういう経緯を持つ成毛眞さんに対して、例えばパブリックオファーを済ませた上場会社が社外取締役を頼んだり、公益事業で所轄省庁の認可のもとで事業を行う財団などの事業体が理事就任を求めるようなことがあるわけがないじゃないか、というのは一般的な感覚だと思うんですよ。

 何よりも恐ろしいのは、成毛眞さんに対して多少でも親しい人が「あなた、そんな公的な役職に就任できるような状況ではないんじゃないですか」って言える状況にすらないってことじゃないかと思うのです。

 当然、何か犯罪を犯したわけでもないし、訴追を受けているものでもないならば、どのような職業に就いても問題ないはずだ、と思う人も少なくないかもしれません。周囲も、いろんなものごとを勘案して、これならば大丈夫だと言い切れるからそういう要職を打診したのだと言えるならばそれでも良いのでしょう。ただ、物事には程度というものがあり、我が国の金融行政がうっかりザルであったがゆえに起きた不祥事に対して、あまり明確な道筋をつけることなく何となくそのままになっているのが成毛眞さんだとするならば、やはり気にする人は多いでしょう。

 どれだけのことをやったと思ってるんだ、という。

 どうしても、類例として小泉純一郎政権の中期に、竹中平蔵さんの金融改革路線に乗ってミドルリスクミドルリターンの融資業務を行う野心的な金融サービスを提供しようとした日本振興銀行の木村剛さんや、そのバックについたオレガの落合伸司さんのことはどうしても思い出してしまいます。結局、インデックスの落合夫妻らさえない上場企業の数々を巻き込んで循環融資にのめりこみ、最終的にドボンしてペイオフ第一号となった一件は、周辺でもてはやした人や、これはまずいのではないかと指摘しなかった人によって作られたでっかい落とし穴だったわけです。

 そういう我が国の金融史のトラウマ的なことを気にすることなく、ある種の放言を重ねられるのはやはり成毛眞さん一流の知性と感性によるものであろうし、前述の通り「誰もあれを止めないのか」って話になるのも日本財界人あるあるでもあります。本人が俺は偉いと思っているから、誰の制止も聞かなくなって本当の意味で制御不能になるのもまた、我が国の社会の伝統芸なのかもしれません。

 ただ、本人はどういう気持ちであるかは別としても、周りの人はそれなりに分かっているからこそ、あれだけの実績を持つ成毛眞さんが日本経済のメインストリームには呼ばれず、スルガ銀行という金融行政の中でも端牌の社外取締役や個人の投資会社までであり、そういう程度の扱いで終わってしまったのは実にもったいないことです。

 教訓としては、やはり自信を持ち調子に乗ったところで「それは駄目なんじゃないですか」と言ってくれる信頼のおける友人知人先人が人生にはどうしても必要だ、という話なんじゃないかと感じます。スルガ銀行の社外取締役だったという件は古傷だ黒歴史だと思っているかもしれませんが、いや、それがあなたの本丸の評価ですから、と。


神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント