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北条かやさんが引退していた

 プロレスの興行において、往々にして引退したはずのレスラーが電撃参戦したり、駅前で派手に閉店セールをした紳士服屋が四半期を経て無事に営業再開したりするのと同様のことかもしれませんが、北条かやさんが引退すると書いておりました。

 一応、画像でバックアップだけ取っておきました。

 個人的には、たまに流れてくる北条さんの現状を見たり、いろんな書き物での彼女なりのテーマや視点が好きでしたので、今回の北条さんの話を見て、毎年トライアウト後に報道される惜別球人のような心境を抱きました。「故障さえなければ3割40本ぐらい頑張れたんじゃないか」的な。

 北条さんにおいては、ネットで際立つアスペルガー的な「私は何も悪いことをしていないのに、なぜみな私を嫌うのか」というケーススタディをはじめとして、自殺未遂ネタや売春ネタまで一通りいろんな体験を無理なく満遍なくこなすという稀有な人物だったと思います。

 とりわけ、能町みね子さんにロックオンされた案件については、書き手としてようやく装備一式そろえて町の外に出たらいきなりグレーターデーモンに遭遇した的な不運もあったように感じていました。北条さんも相応にたおやかな感性を光らせる文体があったり、目の前の状況をきちんと説明して共感と描写の間を工夫しようという試みも感じられたりしたので、ある意味で、もう少し懐の広い師匠筋がいたらもっと違う化け方をしたんじゃないかなあと。

 私が北条かやさんの文章で「お前が言うな」と思いながらも、精神的な危うさとテーマ選定の秀逸さを思い至したのはこの記事です。

 確かにリスクを取ってる文章ではあるんですよね。ただ、書き方がいかんせん雑でテーマ性が散逸してしまうので、リスクを取っているのにつまらない文章を書いていたのが北条かやさんで、それをみんなでワイワイいじって初めて「面白いコンテンツ」になるという読者参加型コンテンツになっていました。これはこれで、面白いよね、と。

 なにぶん、この世界も若くて書ける女性は嫌でもチヤホヤされて本が出せる状況にまでは到達するので、そこでいろんな人の品評に晒される世界へ「ひのきのぼう」一本で突入したら全身にミサイルを浴びて轟沈するのも当然と言えます。だからこそ、SNSで生身降臨する機会を減らし、なるだけ間に話の分かる編集者を挟むなどして、うまく半チラ見せ程度の状態をキープしながらファンを増やしていけば、いずれはフルイニング出場ベストナインぐらいまではいける器だったのではないかと思うんですよね。

 もちろん、そこまで化ける間は裏方になる編集者自身が絶え間ないアスペルガー特有の悪意なき悪意に晒され続けることを考えれば、いまここで北条さんが引退しフェードアウトしたほうが全人類のためなのかもしれず、非常にむつかしい。

 なにせ、何が地獄って美人になるために整形手術をしたとイベントでとくとくと語っていながら、仕上がった結果が一時的にイケダハヤト師に激似になってしまうというこの世の地獄を体現してしまっていた点です。不運としか言いようがないんですよね。ダイスを3個振ったらみっつとも1が出た的な物悲しさを力強くネット民の心に呼び覚ましたという点で、世の中には人知を超えた何かのエネルギーが渦巻いているのだと思わずにはいられません。

 それでも、今年5月に出た北条かやさんの『王子様はどこへ消えた?――恋愛迷宮と婚活ブームの末路』(結婚本が文庫になったやつ)も改めて一通り目を通しましたが、キツかった。ああ、うん、という感じ。チャレンジをした青春出版社、ナイストライでした。売り方がむつかしい作風だと思うんですよね。

 この物悲しさは、Amazonのレビュー1件、星1個からビタいち動かない状況からも感じ取っていただきたいと思います。

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 いろんな意味で、一度引退して、充電して、またどこかのタイミングで激しく放電して欲しいと思っています。それができる人だと思うから。

 物書きの宿命として、自分では律しきれない承認欲求や表現したいという心の動きは必ずあるのですよ。またいずれ、北条かやさんらしい文章にネットなどで巡り合える日が来ることを心待ちにしております。

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神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント