霧上
復讐は、世代を超える。連合軍に属した様々な主人公がテロ組織アメンテスと立ち向かい、そして―― なお話をつくれたらいいなって
「大型無人機が暴走している!」 野外に出る2人。そこにいたのは夜空の下で、轟音とともに暴れまわる二足歩行のロボットだった。連合軍の所有物である。その高さは10メートルほどあり、腕はないが肩の部分には機関銃や対戦車砲を携えていた。逃げ惑う関係者たち。内蔵された銃による連射で、怪我をする人間も出始めていた。 「ついさっきまで、なんでもなかったのに!」 「緊急停止コマンドも弾き返す!何故だ!」 メンテナンスをしていた整備員が悪態をつく。白衣を着た研究者らしき人間が逃げながら悲鳴
訓練の後から、エルネストは悩んでいた。紅月の弟がテロリストであることは事前に聞いていた。しかしこのような形で遭遇するとは思っていなかったのだ。否、"したくなかった"のかもしれない。最悪の事態を避けたかったのだ。セカンドの成功作という運の良さに甘えて楽観的になっていたことを反省した彼は、紅月の部屋に訪れた。せめてショックを受けていた彼の慰めにならないかと模索していたのだ。 「胡大尉……いや、紅月。入ってもいいか?」 画面付きのインターホンから聞こえた声は、小さい。 「はい…
ラファエル・アリギエーリ陸軍少佐は退屈だった。銀色の面白くもない壁と床、独房のように無機質なパイプベッドと机、椅子、それに洗面台。窓からの景色は組織の建物ばかり見え、情緒がない。こんな部屋にずっといたら気が狂いそうになる、いや、もうなっているかもしれない。彼はつまらない部屋を見渡した後、自動扉を解錠すると自室を後にした。 所在地不明――一部によるとドイツ南部の山地に作られたとも噂される連合軍"特殊"基地はとてつもなく広かった。まだエルネストやラファエルは、その全貌を把握し
甲板の上に設置してあった無人機が一斉に動き出す。先制攻撃を仕掛けたのはエルネストらであった。無差別攻撃を避けるために、無人機にもAIは当然搭載されている。それは、武器を持っている兵士を狙って内蔵されたレーザー銃を撃つのだ。大体は従来のバッテリー式だが、一部は魔導鉱内蔵の機体もあった。連合軍は、列強の国々を守るために結成された組織。それ故に守るために作られた装置は最新鋭の装備になっている。そのため試験運用も多く、さながらベンチャー企業が斬新な発想で世界に蔓延るように、兵器や兵
急いで隣の部屋のドアを開けようとするが、他人の部屋なのでロックがかかっていた。画面付きインターホンで相手を呼び出し、上官であると告げたエルネスト。やはり画面の向こうの男は、陰鬱そうな表情をしていた。 「初めまして、エルネスト・ロダンだ。君が胡大尉だね」 「はい……」 扉を開けてもらい、挨拶をするエルネスト。相手の声は小さい。 「どうした、具合でも悪いのか?」 憂いの表情ばかり気になっていたが、相手はとても若そうなことにエルネストは気付いた。10代後半といったところか。
「時代が"それ"を望んでいるのだ」 ヘルムートの去り際の台詞。自室に戻ったエルネストはぼんやりとしながら、右頬を撫でた。人を改造してまでも倒さなければいけないほど、相手は強い。それを自分の過去と照らし合わせ、納得するエルネスト。しかしラファエルは、最後まで反抗していた。作り話に乗りたくない、と言うように。まずエルネストは彼の出自を聞いて驚き、困惑しざるを得なかったのだ。この組織は謎が多すぎる。しかしこれ以上頭の中を混沌に巻き込むわけにもいかない。エルネストは睡眠欲に身を任せ
あの後、ヘルムートにこっ酷く叱られたのは意地悪な上官達の方であった。幸い状況を理解したらしい。一部の人間には相応の処分を下すことにはなり、それを聞いて安堵したエルネストとラファエルは医務室で手当を受けていた。 「ったく、お前が能力に早く気付けばこんなことにはならなかったのに」 「ごめんねラファエル。俺が弱かったばかりに。」 申し訳なさそうに微笑むエルネスト。傷の上に特殊なフィルムを貼られ、固定される腕。 「いや、言い過ぎた。能力なんて映画みたいな話、そうないからな。骨が折
地下に来た2人は男たちの案内で、中央に大きな試合場のある訓練場へと足を進めた。 「まだ新設したばかりでな、綺麗だろう」 代表格の男は自慢げに訓練場を見渡すと、中に入る。自動でついた小型電球がその部屋を照らした。 「何に使う部屋なのですか?」 エルネストは興味津々に、それでいて少し恐怖を感じたかのように尋ねた。嫌な予感がしたのだ。 「……見て分かるだろう。力を試すには絶好の場所だ」 拳を合わせ、ここが"戦う場所"であることを説明する男。 「一泡吹かせようじゃないか、エル
次に目覚めた時はベッドの上であった。ただしそこは自分の部屋ではなく、無機質に必要最低限の家具が置かれた銀色の空間であった。白い寝巻きを着て、白いシーツと布団の敷かれた金属製のベッドで眠っていたようであった。上体を起こしたエルネストはすぐさま立ち上がり、部屋の奥にある洗面台の鏡の前に移動した。予想通り、顔の右半分に5つの目が付いている。端正な顔の上でぎょろぎょろと動くそれは、とてつもなく不気味であった。眉毛はなくなっていて、よく見ると瞼も人間のそれとは異なっていた。さすがのエ
「セカンド・バイオニクスプロジェクト……」 エルネストは自室のベッドの上で妙な単語を空に呟いた。同意しなければいけない条件の1つであったが、詳細は約款の書かれた分厚い書類に埋もれて読む気が失せていたのだ。だが意味が全く分かっていないわけではない。軽く目を通して、それが異常であると思う彼。 「非倫理的な人体の改造実験を軽々と行うなんて、世界はここを批判しないのか?」 ……それとも、軍部というものはここまで酷いものだろうか。彼は悩みつつも更に「セカンド」という言葉の目を向けた
彼の父は、自らの命を犠牲にして……実際は勝手にテロリストに奪われたのだが、魔導鉱の効果的なエネルギー産出方法を確定させた。エルネストは猛烈な悲しみと怒りの感情を抱いた。そして自分の非力さを嘆いた。父の意志を継がなければ、という使命感にも襲われていた。夫を失うことになった母親も強く悲しみながら、エルネストの心の傷を共に癒そうと尽力した。だが、そう簡単に治るものではない。薬やカウンセリングで治るトラウマでは、決してなかった。……否、トラウマではない。彼が抱いていたのは、復讐心で
「我々の世界に重くのしかかるエネルギー問題。そこへ1つの灯火が照らされました。新資源"魔導鉱"が、中国北部の山岳地帯で発見されたのです。」 薄型テレビの中でニュースキャスターが読み上げる新たな世界の預言。時は西暦2030年を迎えるところであった。相次ぐ災害、天変地異に世界は悲鳴を上げていた。その中を少しでも快適に生き延びるために多量のエネルギー源は必須となっていたにもかかわらず、枯渇のリスクや国際関係の悪化による値上げに苦しんでいた。困窮極めた世の中に、まだ新しい資源があっ