(小説)アンドロイド向け大陸間超長距離国際フェリー

近年、リチウムイオン電池の航空機積載規制が厳しさを増し、体内に数十キログラムの電池を内蔵するアンドロイド旅客は休眠状態になってから付き添いの人間が電池からの電気配線を物理的に遮断することを搭乗時にそして着陸後に配線を再接続した上で再起動して自力降機することが求められています。そこで彼らの単独旅行向けに飛行機の代わりになる大陸間超長距離国際フェリーが人気を博するようになりました。

度々起こる電気自動車輸送船火災事故の影響もあって完全防炎気密構造の人間は使用できないアンドロイド専用客室も備えていて、非常時はボタンを押して窒素または二酸化炭素で室内を満たせるようになっています。アンドロイドたちは生活に排熱のため何らかの気体は必要とするものの酸素は無くても良く、体内の電子機器の保護が求められているためです。人間が生きる上での酸素濃度を常時満たしているとは限らないエリアであるアンドロイド専用客室区画の入口には「人間のお客様の立ち入りはご遠慮ください。窒息事故のおそれがあります」という掲示があります。

アンドロイド旅客輸送を目的にして日本から出ている主な航路は、鹿児島~那覇~石垣~基隆~香港~ホーチミン~シンガポール~ジャカルタ~デンパサール~ダーウィン、ウラジオストク~青森~釧路~ペトロパブロフスク~ホーマー(アラスカ州)~バンクーバー~シアトル、東京~ホノルル~ロサンゼルスの3路線があります。また、既存の国内長距離・国際フェリーにもアンドロイド専用客室が設けられました。なぜこんな航路が設けられたのかというと食事という単語が充電以外の意味を持たない多くのアンドロイドにとっては人間用の料理を売りにしているクルーズ船は高いばかりで魅力が少なかったのです。また、人間のバックパッカー旅客も観光シーズンや燃油サーチャージ高騰時などの時期によってはそれなりの数が乗ることもあります。日本が絡まない主要路線はシェルブール~コーク~ハリファックス、シンガポール~メダン~チェンナイ、ボンベイ~マスカット~ジブチ~アレクサンドリア~アンタルヤ~アテネなどがあります。

船内放送やスタッフとの会話は英語のみであることが多く補助的に一部の寄港地の言語が使われる場合があります。英語がわからない人間たちや一部の元人間のアンドロイドたちが人間として生きた経歴のないネイティブアンドロイドたちに通訳を頼むというのが日常となっています。アンドロイドは人間と異なり浮力がなく万が一海に落ちたら沈むしかないので乗船中は常時遊泳動力付き救命胴衣を着用している旅客を見かけることも珍しくありません。

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #旅行小説

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