(小説)未成線ルポ・幻の江樽線

 人口三万人ほどの城下町、江樽市。そこを目指して隣の苅原町にあるJR江樽口駅から分岐する五・五キロの鉄道路線がかつて計画され、長い陳情の末一九三四年に工事が始まったものの、工事は進まず、終戦時で全線の半分程度の路盤ができただけであった。その後、鉄建公団B線となったが一九八〇年に建設中止となった。着工率三十%だった。

 

 私は、駅前に停まっていたバスに乗って、江樽市街に向かった。バスは十時二十分頃出発した。国道からはところどころ線路跡のようなスペースが見え隠れしていた。帰りはそこを歩いてみよう。バスは、十時三十分過ぎに終点・江樽交通センターに止まった。そう、江樽駅予定地であったところである。そこから二、三分歩いて古い町並みが残る旧市街を散策した。そして交通センターに戻って線路予定地を散策した。地図上では微妙なカーブに沿って立ち並ぶ家並みの横を進んで町を外れるとサイクリングコースが始まっていた。そのまましばらく歩いて先に進むと上門駅予定地だった。ベンチと駅名標を模したモニュメントがあってスマホと自撮り棒を使って記念撮影をした。そこから少し進むと下り坂になって国道とは付かず離れずのところを進んでいった。交通センターを出てから一時間ほど立った頃、私は江樽口駅に戻った。そして列車が着くまでの間待合室の中に座った。

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