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(小説)バザールの古銭商での出会い

「ふあー、疲れた」

朝、ホテルを出て町一番のバザールに顔を出して少し回っただけで人で酔いそうだった。昨今のインバウンドブームとやらで通りは足場のないくらい人で埋め尽くされていた。私は小腹が減ったので眼の前にあった屋台で焼きたてのソーセージを買った。一本五十セッズだった。私はたまたま細かいお金がなかったので一グルッド札を出した。お釣りで帰ってきた五十セッズ札はかなり使い込まれてクシャクシャだった。早速、手に取った串刺しのソーセージを口に押し込んでしばらく歩いた。


 通りには生鮮食品や土産物を売る店が多く並ぶ中、古い銀食器や古銭を売る店があった。中を見渡すとコインが入っている皿が並んでいてそのうちの一つには大きな銀貨が数枚並んでいた。それは直径四センチほど、一円か一ドル銀貨くらいの大きさで遠い昔この国を支配していた王様の美しい横顔、もう片面には紋章が彫られていた。私はその銀貨を手にしてもしかして偽物じゃないだろうな?という感じでじっくり見た。コインの端に四分の一グルッドと書かれているのが読めた。

「お嬢さん、いいもの見つけたね。一枚十五グルッドだよ。これはね、百八十年くらい前の王国時代のコインさ。国中の蔵や床下にいっぱい眠っているからそんなに高くはないよ。もちろん実家の蔵にも。うちはふっかけないよ。一抱えくらいもらってきて売り切るまで一生かかりそうだからね。」

店の人は言った。確かに銀の地金価格に僅かなプレミアムがついている程度だった。私は精密に彫られた太古の王様に惚れて一枚だけ買った。


 更に歩いていくと土産物店の前の路上に回転式ポストカードスタンドが立っていて、ラックには賑わう市場を写した絵葉書が詰め込まれていた。私は地元の知り合いに出そうかなと思ってそれを数枚買った。一枚二十五セッズだった。その先に郵便局があったので私はそこに入って中にあったテーブルでさっき買った絵葉書にこの街のことを書いた。それが終わった後、私は切手を買うために窓口に向かった。私は局員に葉書を見せながら、

「エアメールで送りたいのですが」

といった。

「一枚四十セッズよ。こんな切手はどうかしら?」

勧められたのはこの街のバザールと城壁が描かれた切手だった。早速買ったその切手を買って、横においてあったスポンジで濡らして貼った。そして窓口に戻って局員に手渡した。彼女はニッコリとして、

「グッドラック。旅の無事を祈ってるよ」

と言った。


 そして時間も押してきたので私は一旦ホテルに戻って大きいキャリーケースを回収した後、次の目的地のバーリア・ホット・スパに向かうためにそれを引いて駅まで歩いた。

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #旅行小説

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