見出し画像

患者さんを追いつめてしまいました。

③平成12年・総合病院169床・千葉県(その12)

ここ2回のタイトルとんでもないね・・・・
印象深い患者さん、その2です。

なんていうか・・・・・
本当は臆病だったり小心者だったりする人ほど、いばったり、他人を攻撃すると思いませんか?

あの頃の私・・・若かった・・・そういうことも、あんまり分かってなかった。

てやんでぇでべらんめぇな江戸っ子!?江戸っ子きどりなの!?
みたいな患者さんがいました。

透析歴はそこそこ長く、そこそこの年齢なのですが、下町のヤンキーっていうか、たちの悪い駄々っ子みたいな感じ。


「おうおうおう!俺が来たぜ!道をあけろ!」って、胸を張って腕を広げて存在を誇張しながら(春日スタイル?)透析にやってくる。そんな人でした。
あと、「俺の言う事がきけねーのかー!」って、すぐ殴ろうとするみたいなね。


透析室あるある、なのかどうかは分からないんですが、私が初めて働いた透析室のスタッフは、透析患者さんを大事に思う反面、どこか透析患者さんに対して諦めていたり冷めていたり、ちょっと下に見てる感じがありました。

言葉だったり、空気だったり、透析新人看護師の私が感じたのだから、患者さんたちはもっと感じてただろうなあ。

なにぶん、個性が強い方が多く、わがままとか言う事聞かないとか、約束守れないとか・・・長い透析室勤務の中で負の部分が積み重なってきてたのかもね、スタッフ側に。

透析室の空気の土台には、

「あの人には、言ってもムダ。どうせまた・・・・」

っていうムードがあったんです。

もちろん、きちんと自己管理されている患者さんもたくさんいました。
看護師も人の子、透析治療に向き合い、一生懸命自己管理しながら日々がんばっている患者さんの方が、好きです。接しやすいし、応援したくなるし、助けたくなる。

週3回、延々と続く透析のなか、すごくわがままだったり、周りばかり責めたり、治療の基本を守ろうとしなかったりする人は、なんとなーく、スタッフも足が遠のき、阻害されているような気持ちを持っていたんじゃないかなあ。

そうするとさ、

「俺にも構えよ!」が発動して、余計わがままになったり、トラブルを起こしたりするという悪循環・・・・

最初はね、その人(Bさん)のこと、
いい年してわがままで、どうしようもないなーって思ってたの。

でもね、透析看護を知っていくたび、
その人の抱える孤独とか不安とか、どうしようもない気持ちがなんとなく分かるようになってきた。

あの人がわがままなのは、トラブルを起こすのは、SOSなんだなって、思うようになってきた。

そうするとね、なんだか、その人の立場に立ったつもりになっちゃって、先輩スタッフたちの態度が、おかしいなって思うようになったのです。


事の発端は、年に何度か行う検査をするため、透析前の食事を抜いたり、自宅で準備しなければいけないことを、Bさんがやらないこと。

何回言っても、やらない。

「忘れた!」「そんな検査やんなくていーよ」そういう返事で何回もはぐらかされ、検査ができない状態。

その度に検査をキャンセルしたり、予約を取り直したり、看護師の仕事は増えるのに、意外に先輩ナースは怒らない。
なんでかな・・・と思っていると・・・・

「あの人には、何回言ってもどうせムダだから」

そう。
怒るを通り越して、諦めてて、どーせあの人はダメだからって思われてた。

私は、なんだか、それが、すごーく悔しくなっちゃって、悲しくなっちゃって、「Bさんだってやればできるのに!!」って思っちゃったんですよ。

そいでもって、Bさんがちゃんと検査受けないからあんな風に言われちゃうんじゃん!ちゃんとやって見返してやんなきゃ!!って思っちゃったんですよ。

そう思った私がとった行動は・・・・

怒る。

透析中で、
ベットに寝ていて、
針を刺されてベットから身動きできないBさんのところに行って、
「なんでちゃんとやんないのー!」って、
怒った。

そしたら、


ゲンコツで殴られた。


星が飛びました。チカチカ。


そりゃそうだよね、透析中で身動きとれない状態で、逃げ場のない状態で、ベットの上から覗き込まれて見下されて、
まだ20そこそこのコムスメに、ダメ呼ばわり。

そりゃ怒るわ。

十分なコミュニケーションをとれず、

自分の中で勝手に「Bさんもやれば出来るんだから、みんなにダメ呼ばわりされたくない!」って思っちゃって、

Bさんかばってるつもり、Bさんの味方になってるつもり、

の自分が、

いちばんBさん追いつめて、

ダメ呼ばわり・・・・・

Bさんは、コミュニケーションが苦手だから、悔しさをゲンコツで表現だったのです。

その後、Bさんは、検査を受けない自分にも非があるのと、コムスメをゲンコツでなぐっちゃったのもあってか、この事に対してはあんまり騒ぎませんでした。

でも、私が勝手に被害者意識持っちゃって。(なんせ思い切り殴られたから)

Bさんのためを思って言ったのに!!

っていう、いちばん余計なお世話モードで、被害者意識って・・・

タイムマシンで、もう一発ゲンコツ入れてやりたい。

Bさんとはしばらく、目を合わさない日々が続きましたが、
師長が仲裁に入ってくれたことにより、双方謝罪。

今まで忘れてたけど、その時私、

「わたしはBさんのことを思って〜うわーん」

って、豪快に泣きじゃくった気がする・・・恥ずかしくて封印してたな。

またBさんも、いい意味で単純な人だったから・・・・

「俺のこと、考えてくれてたんだな、すまなかったな」

みたいな感じでうるうる。

その後、私は、患者さんとの距離とか、コミュニケーションの取り方を勉強するようになったのです。

そして、Bさんとは、なんとなーく、心の中での繋がりができ、ちゃんと話せば分かってくれる関係になりました。
だから、接しやすくなって、コミュニケーションが増えた。
そしたら、なんかちょっと明るく、優しくなりました。

あ、なんか良い話になってるよ。


後日談。

私は、その後、その病院を退職して、他の病院に転職しました。
風の噂で、前の病院の話はちょこちょこ聞いていて、衝撃の事実がありました。

新しい看護部長と考え方が合わず、転職する流れになったのですが、
透析室スタッフも新看護部長が連れて来たスタッフに入れ替わっていきました。

その、スタッフが入れ替わっていく中で、Bさんの表面の乱暴でわがままなところだけでなく、心根の優しさとか淋しさとか、抱えているものを知ろうとするスタッフがいなかったのかな・・・・


Bさん、透析中に刃物を持ち込みスタッフを脅し、逮捕されてしまったそうです。

わたし、すごく、ショックだった。

刃物を持ち込まねばならなかった、Bさんの気持ちを考えると、悲しかった。

Bさん、今頃、どうしているかな。

生きて、透析を続けていて欲しいな。

Bさんのわがままなところも、乱暴なところも、心のSOSだって分かってくれる、そんなスタッフがいる透析室で透析できてたら、いいな・・・・







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?