「2030年、ジャック・アタリの未来予測」読書メモ

3年前の著作ですが、現在から振り返ってみても的確な指摘もあり、こういった知の巨人たちの考えを追随するのはいいですね。

まずは、一見順調にみえる世界について語ります。
・向上し続ける生活水準
・続伸する平均寿命
・減少する極貧
・コスト削減の推進
・新たなコミュニケーション手段の普及
・農業、教育、医療におけるイノベーション
・技術革新によって減る苦役
・暴力の減少、人類の団結、強化される民主主義
・協働と利他主義の推進や共有経済の発展、
・環境問題に対する意識の高まり、、、など

過去から比べると、人類全体は確実に進化しているし、良い状態になっています。スティーブンピンカーの「21世紀の啓蒙」でもそういったことをより深く書いていますね。

人類の歴史、という長い物語を大きく俯瞰して見ると実際そうでしょう。
一方で、よりフォーカスしていくとどうなるのか、一転して危うい状況です。

【悲惨な状態になりつつあるもの】
・高齢化する世界人口
・医療サービスの乏しい地域での人口爆発
・移民の恵まれない境遇
・地球環境の悪化と、気候変動が世界におよぼす悪影響
・農業の暗い未来
・低迷する経済成長と加速する富の偏在
・貧困化する先進国の中産階級と、はびこり続ける極貧
・破綻寸前の教育システムと医療システム
・脆弱な国際金融システムと制御不能に陥る公的債務
・民主主義の後退と吹き荒れる保護主義の嵐
・国家を牛耳る大企業と危うい超大国アメリカの経済成長
・不透明や中国の経済成長や政治力のないヨーロッパ
・頭角を徐々に現すロシアやインド
・能力不足の国際機関
・社会と家族の崩壊とカルトと原理主義者の台頭と非国家組織
・地政学的戦略の混乱と暴力の再燃

なんと暗い、、、と思いながら、著者が書いたのは4年前ですが、4年経ってもこれらのことは解決されていないし、まだ深刻化しているようにも感じます。

この、人類史で俯瞰して見ることと、現状の危機のタネを読んだところで思うのは、この時代に日本に生まれ育っていた自分の幸運に感謝。というのが一度出てきました。

日本の中でも格差の拡大や、様々な問題は噴出していますが、それでもどれだけ恵まれている環境にいるのか、ということを改めて感じます。

ここまでの途中経過で、グローバリゼーションが幸福をもたらす、という見通しは疑わしいという見解を著者は述べています。その上で、

・現在までのところ、政治と経済の自由に基づく社会組織は、世界で最も優れた制度だったことが明らかになった。
・しかしながら今日、このシステムは機能不全であり、世界は奈落の底へ突き落とされる寸前である。
・今日、市場はグローバル化され、法の支配のない状態にある。
 (市場は、法の支配や再分配などの国という存在がない中でグローバル化して、そのような市場では、不完全雇用・資産格差・低成長・一次産品の価格低迷・慢性的な高失業率を引き起こす)
・国内に閉じこもる民主主義はますます空虚になり、民主主義が現実に対しておよぼす影響力は減る一方である。
・袋小路に陥り、怒りが爆発する
 (結果、保護主義、ナショナリズム、エコロジー至上主義などが増加)
・自由を断念することなく「大惨事」を回避するための2つの解決策
 ①市場が解決してくれると期待し続けること
 ②人類の存在意義を維持すること(利他主義へ)
  
相互依存が強い現代では、他者の失敗で利益を得る者はいない。
世の中に利他主義を根付かせるには、全員が高貴に暮らさなければならない。

非常に分かりやすいです。ここまでの自由を源泉とした人類の進化を肯定した上で、資本主義・新自由主義・民主主義の限界を指摘し、それがまさに今であることを確認します。
その上で、解決するには、1つは市場のイノベーションに期待をする(社会起業家などが増えてます)ことと、もう1つは利他主義をみんなが持つこと、と指摘しています。

そして、2030年までに起こる変化について述べています。

・経済成長をもたらす人口爆発(労働者と消費者の増加)
・中産階級の増加(そのうち66%はアジア)
・イノベーションの大波

それによって、多くの分野においてポジティブな変化がある。と。

・健康(ガンの早期発見、アルツハイマーの治療、手術ロボットなど)
・教育(VRでの仮想世界体験、世界の教師との交流が可能など)
・労働(ロボットが代替、介護分野、などでも)
・住宅(家が3Dプリンターで作れる、太陽光エネルギー、新たなセメント)
・水資源(海水淡水化など)
・農業(センサーの導入、有機農業の拡大、)
・エネルギー(再生可能エネ、エネルギー効率改善、蓄電池が安価に)
・自動車(蓄電池発達でのハイブリッド車普及)
・航空(ハイブリッドエンジンなど)
・娯楽や芸術など
・共有経済(金融・求人・宿泊・自動車・音楽動画などで特に拡大)
・リサイクル

一方で、世界が複雑になることで発生する6つのリスクについて。

①中国の規制対象外のバブルがはじける。世界経済危機へ。
②保護主義の激化から国際貿易の危機、世界経済危機へ。
③EUの危機(銀行システムの崩壊、ユーロの崩壊の可能性)
④国家の巨額債務バブルの崩壊(特に日本)、世界経済崩壊へ。
⑤アメリカの金融危機(投機すぎな投資で)
⑥原油価格に絡む危機(テロ、中東の不安定化)

5年前の書籍ですが、現在でもどれもありそうで、特に気になるのが、巨額債務バブルの崩壊はどこでくるのか、気になります。

その中で明るい未来に向けての10の提言です。

①自分の死は不可避だと自覚せよ
②自己を尊重しろ、自分自身のことを真剣に考えろ
③変わらない自分を見つけろ
④他者が行おうとすること、そして世界の行方について、絶えず塾考しながら自分自身の意見をまとめろ
⑤自分の幸福は他者の幸福に依存していることを自覚せよ
⑥複数の人生を同時かつ継続的に送る準備をせよ
⑦危機、脅威、落胆、批判、失敗に対する抵抗力をつけろ
⑧不可能なことはないと思え
⑨実行に移す
⑩最後に、世界のためにも行動する準備をせよ

本書の中で、良いと思った言葉を下に抜粋します。

時間が始まったときから、この世は自分がいなくても存在し続けてきたのだ。そして条件が整えば、誰もが他者の感謝の念の中で存在し続けることができる。
自分自身ができる限り高貴な生活を送りながら世界を救う

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