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小説

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2021年11月の記事一覧

【SKCファン小説】良い時間をっ!

 ボーカルの男が激しく唾を飛ばしながらマイク越しに叫ぶ。 「今だけは! おまえらの日々の苛立ちを解き放て! 知識なんてものが頭に鍵をかけるんだ! 今だけは! 何も我慢しなくていい!」  ベースが激しく唸りを上げる。  ドラムとピアノ、そしてバイオリンが弾むようにライブハウスを包み込んでいく。 「ぐだぐだな俺たちだから‼ 魔法を唱えて解き放て‼」  ギターを掻き鳴らし、ボーカルの声が再びライブハウス中を駆け巡る。 「さあ、行くぞ‼」  跳ねまわるように軽快なピアノと力強

【中編小説】恋、友達から

一章 城田萌絵と友達 001 高校三年生にもなって単純と思われるかもしれないけれど、それでも、毎日同じアーティストの曲を聴き続けるようなそんな何気ないことの積み重ねがあったからだと思う。  六月中旬となり、断続的なジメジメした日にうんざりする中、今日も雨。 「萌絵、彩、行くよ~」  声を掛けたつぐみちゃんとその横には葵ちゃん。二人は廊下際の席で、私は慌てて道具を抱える。二つ前の彩ちゃんが数歩歩いた私の横に並んで、明るく仕方なさそうに。 「ほら、またペンケース忘れてる」

【見開き1P】ナメクジ世界 is what it ought to be

※見開き1ページ相当の小説です  白いナメクジが黒いナメクジと盤を挟んでいる。盤は切り株の断面にあり、八×八の方眼となっている。その中央の四マスには白と黒の小さなナメクジが二匹ずつじっとしていた。 「もう少しいいところに住みたいと思ってな、勝たせてもらうぜ?」と黒ナメクジ。 「ごめんけど、俺も負ける訳にはいかないんだ」  ナメクジたちは牛のように大きく、そして白ナメクジのその巨体から親指ほどが分離した。それは小さなナメクジの姿を形成すると、動き出し、盤に乗って黒ナメクジ