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【最新版】犯罪収益移転危険度調査書(NRA)徹底解説!リスク評価書に活用すべきポイント7選

今回は、【最新版】「犯罪収益移転危険度調査書」注目ポイント7選について、解説します。

金融機関においては、金融庁が公表する「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(金融庁ガイドライン)」への対応が求められています。

そして、この対応を2024年3月末までに完了させることが求められています。

「対応が求められる事項」の一つとして、「特定事業者作成書面(リスク評価書)」の高度化がありますが、高度化にあたっては、国家公安委員会が毎年公表する「犯罪収益移転危険度調査書」の内容を踏まえることが欠かせません。

そこで、今回は、

「犯罪収益移転危険度調査書」について、令和3年版から4年版の相違点や拡充点を徹底解説しますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。

■金融庁ガイドラインが求めるもの

金融庁ガイドラインの「リスクの特定」においては、次の点が求められています。

1.国によるリスク評価の結果※等を勘案しながら、自らが提供している商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等のリスクを包括的かつ具体的に検証し、自らが直面するマネロン・テロ資金供与リスクを特定すること

※「国によるリスク評価の結果」「犯罪収益移転危険度調査書」になります。

 金融機関には、「犯罪収益移転危険度調査書」に記載される国の犯罪の傾向と、自組織の犯罪の傾向が、同じ傾向にあるのか、また違う傾向にあるのかについて、自らが提供している商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客の属性の4つの切り口からリスクを特定することが求められています。

さらに、

2.包括的かつ具体的な検証に当たっては、自らの営業地域の地理的特性や、事業環境・経営戦略のあり方等、自らの個別具体的な特性を考慮すること

5.マネロン・テロ資金供与リスクについて、経営陣が、主導性を発揮して関係する全ての部門の連携・協働を確保した上でリスクの包括的かつ具体的な検証を行うこと

以上が求められています。

また、金融庁ガイドラインの「リスクの評価」においては、次の点が求められています。

4.リスク評価の結果を文書化※し、これを踏まえてリスク低減に必要な措置等を検討すること

 ※「リスク評価の結果の文書化」「特定事業者作成書面(リスク評価書)」になります。

5.定期的にリスク評価を見直すほか、マネロン・テロ資金供与対策に重大な影響を及ぼし得る新たな事象の発生等に際し、必要に応じ、リスク評価を見直すこと

6.リスク評価の過程に経営陣が関与し、リスク評価の結果を経営陣が承認すること

つまり、「犯罪収益移転危険度調査書」を踏まえたリスク評価書の高度化が求められています。

「犯罪収益移転危険度調査書」本編の公表とあわせて、【令和4年版】犯罪収益移転危険度調査書(概要版)が公表されています。

本概要版には、令和3年版と4年版の相違点が新旧形式で記載されていますので、ご参考にしてください。

■注目ポイント1

「国内犯罪情勢」の記載が充実されています。

具体的には、「第2 我が国の環境」の「4 犯罪情勢等」、特に「国内犯罪情勢」の記載が充実されています。

・令和3年のフィッシング報告件数は約 53 万件と一貫して増加傾向(P.9)

・令和3年中に警察庁に報告された国内のランサムウェアによる被害件数は 146件と、前年に引き続き増加しており、その被害は、企業・団体等の規模や業種等を問わず、広範に及んでいる。(P.9、P.10)

■注目ポイント2

「マネー・ローンダリング事例」が充実されています。

具体的には、「第3 マネー・ローンダリング事犯等の分析」の「2 手口」について、「マネー・ローンダリング事例」が充実されています。

【窃盗】

・窃盗で得た物品を、フリーマーケットアプリで他人名義のアカウントを利用して売却し、売却代金を他人名義の口座に振込入金させるもの(P.17)

・ベトナム人グループ等が、窃取した化粧品等を処分役等に発送する際、送り状に記載する品名や依頼主を偽って発送するもの(P.17)

【電子計算機使用詐欺】

・不正に入手したスマートフォンにインストールされていた電子マネー決済アプリを不正利用し、本人になりすまして同アカウントに紐付けられた銀行口座から電子マネーをチャージするもの (P.18)

【出資法・貸金業法違反】

・借受人の口座に別の債務者からの返済金を振込入金させ、その全部又は一部を更に別の債務者へ貸付金として送金させるもの(P.19)

【入管法違反】

・不法残留する外国人を労働者として紹介した報酬を、架空の賃貸住宅契約に基づく家賃収益と装って受領するもの(P.19)

【環境犯罪に関連するマネー・ローンダリング】

・FATFレポートや国内事例(廃棄物事犯、動物・鳥獣関係事犯等)のコラムが新設(P.22)

■注目ポイント3

「疑わしい取引の届出を端緒として検挙した事件例」が充実されています。

具体的には、「第3 マネー・ローンダリング事犯等の分析」の「3 疑わしい取引の届出」について、「疑わしい取引の届出を端緒として検挙した事件例」が充実されています。

【事件例の記載がより詳細な例示に変更】

1 組織的犯罪処罰法違反等事件(P.25、P.26)
2 詐欺事件(P.26)
3 出資法違反及び貸金業法違反事件(P.26、P.27)
4 薬物事件(P.27)
5 入管法違反事件(P.27、P.28)
8 犯罪収益移転防止法違反等事件 (P.28)
9 銀行法違反事件(地下銀行) (P.28)

【新たに事件例に新設されたもの】

6 商標法違反事件(P.28)
7 金融商品取引法違反事件 (P.28)
10 売春防止法違反事件(P.29)

【新設】都道府県警察以外の捜査機関等が疑わしい取引の届出を活用した事件例等

1 業務上横領事件(検察庁) (P.29)
2 脱税事件(国税庁) (P.29)
3 薬物密輸入事件(税関) (P.29、P.30)
4 薬物密売事件(厚生労働省地方厚生局麻薬取締部) (P.30)
 【厚生労働省地方厚生局麻薬取締部の把握した最近の犯罪事例、傾向等】
5 密漁事件(海上保安庁)(P.30)
 【海上保安庁の把握した最近の犯罪事例、傾向等】

■注目ポイント4

「取引形態と危険度」に「マネー・ローンダリングに悪用された主な事例」等が新設されています。

具体的には、「第4 取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度」の「1 取引形態と危険度」に、「令和3年中にマネー・ローンダリングに悪用された主な事例」等が新設されています。

【非対面取引】(P.31、P.32)

・他人になりすまして新型コロナウイルス感染症に関連した給付金詐欺により得た犯罪収益を銀行口座に振り込ませた上で、インターネットを通じた非対面取引により、別の他人名義の口座に送金した。

・詐欺により得た犯罪収益を、インターネットを通じた非対面取引により、暗号資産取引用口座に送金した上で、暗号資産を購入した。

・窃取した健康保険証を用いて他人になりすまし、住民票を取得して同保険証とともに使用し、銀行口座を開設した上で、インターネットを通じた非対面取引により融資を申込み、融資金を他人になりすまして開設した口座に振込入金させた。

・インターネット上に開設された新幹線ネット予約の会員サイトに接続し、不正に入手したクレジット情報を用いて非対面取引により新幹線チケットの購入を申込み、発券を受けた。

・窃盗により得た犯罪収益を、フリーマーケットアプリを利用して売却し、非対面取引により他人名義の口座に振込入金させた。

【現金取引】令和3年中、現金取引に係るマネー・ローンダリング事犯により得られた犯罪収益を剥奪した事例(P.34)

・偽造の在留カードを悪用して他人になりすまし、不正に入手した携帯電話機を質屋に売却して得られた売却代金の一部である現金に没収判決がなされた。

・ヤミ金融の返済金として他人名義の口座に預け入れされた現金が犯罪収益と認定され、捜査機関により押収した現金を含めて全額に追徴判決がなされた。

【外国との取引】令和3年中、外国との取引が悪用されたマネー・ローンダリング事犯(P.37、P.38)

・アメリカ、ヨーロッパ等において敢行した詐欺(ビジネスメール詐欺(BEC)等)による詐取金を我が国の銀行に開設した口座に送金させた上で、口座名義人である日本人が、偽造した請求書等を当該銀行の窓口で提示して、正当な取引による送金であるかのように装って当該詐取金を引き出した。

・違法な動画を外国の動画サイトに出品し、その売却代金として海外送金されてきた犯罪収益を、正当な取引による送金であるかのように装って入金を受けた。

・会社の正当な資金移動を装って、外国の銀行口座に不正に送金させた上で、当該詐取金で暗号資産を購入するなどした。

【疑わしい取引の届出】

令和元年から令和3年までの間の、外国送金に関する疑わしい取引の届出件数は 14 万 6,420 件で、中国、香港及びアメリカを送金先又は送金元とする取引の届出が約半数を占めている。

■注目ポイント5

「顧客の属性と危険度」に「非営利団体のテロ資金供与への悪用」が新設されています。

具体的には、「第4 取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度」の「3 顧客の属性と危険度」に、「非営利団体のテロ資金供与への悪用」が新設されています。

【NPOを所管する行政庁によるリスク評価結果等を記載】(P.56~P.58)

我が国の非営利団体がテロ資金供与に利用された事例はなく、また、利用されるリスクも総合的に低いと認められる。しかし、非営利団体によっては、テロの脅威にさらされている国・地域等で活動したり、海外パートナー等に送金を行ったりする団体もあることから、非営利団体がテロ資金供与等に利用されないようにリスクに応じたアウトリーチやモニタリングを行う必要がある。

■注目ポイント6

「顧客の属性と危険度」に法人の制度上の脆弱性等のリスクが記載されています。

具体的には、「第4 取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度」の「3 顧客の属性と危険度」に、「法人(実質的支配者が不透明な法人等)の制度上の脆弱性等のリスクが記載されています。

【悪用された法人の登記に着目して分析したところ、次のような法人も認められた】(P. 65)

・登記されている資本金の額が数万円から数十万円と極めて少額な資本金で設立されている法人

・所在地や役員の登記変更が頻繁である法人

・多数の事業目的が登記され、それぞれの目的同士の関連が低いといった不審点が認められる法人

・株式会社に比して合同会社が設立されてからより短期間のうちに悪用されている傾向にあり、中には設立から数ヶ月程度で悪用

【疑わしい取引の届出】(追加された届出理由)(P.65、P.66)

・法人の代表者が外国人でありながら、代表者の在留資格に就労制限があるもの

・同一の住所地に多数の法人を登記しており、事業実態も不明でペーパーカンパニー等が疑われるもの

・法人による取引にもかかわらず、合理的な理由なしに個人名義の口座を使用しているもの

・長期間不活動であった法人口座に突如多額の取引が発生し、給付金等の不正受給が疑われるもの

【危険度の評価】(追加された評価)(P.67)

・会社形態別にみると、株式会社は、設立手続等が厳格であり、一般的な信用が高く、株式の譲渡がしやすいという特性から、既存の株式会社を悪用される危険性がある。

持分会社は、設立手続等が総じて簡易であって維持コストも安価であるという特質から、新たに持分会社を設立するなどして悪用される危険性がある。

■注目ポイント7

「 商品・サービスの危険度」に所管行政庁の新たなリスク認識が記載されています。

具体的には、「第5 商品・サービスの危険度」の「1 危険性の認められる主な商品・サービス」に、所管行政庁の新たなリスク認識が記載されています。

〇預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス
 【所管行政庁が新たに把握した脅威・脆弱性等】
(P. 69)

・収納代行のスキームで、第三者から代理受領権を取得した上で、当該第三者から自らが開設している銀行口座宛ての入金を受け、集めた資金を、海外に所在する別の事業者に対して、まとめて送金(いわゆるバルク送金)する事業者が存在することが確認された。銀行にとっては、資金移動業者と同様に、顧客宛てに入金をする者や、最終的に資金を受領する者の素性を把握することができないリスクが存在。

・暗号資産交換業者が銀行に開設している銀行口座を受け皿として、不正送金を行う事例が確認された(大手銀行の子会社に対するモニタリングの中で把握)。主体や手口は不明であるものの、被害者が自らの意思で振り込んでいるケースもあれば、被害者が暗号資産交換業者名義の口座名義と口座番号の情報を詐取され、被害者の意思に反して振込が行われているケースも存在。

【預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービスの悪用事例】(追加されたもの)(P. 73)

■内国為替取引

・暴力団員が、無許可の風俗営業により得た犯罪収益を、みかじめ料として知人名義の口座に振込入金させた。

・特殊詐欺により得られた犯罪収益を、不正に開設された活動実態のない会社名義の口座に振込入金させた。

・不法残留の外国人を労働者として派遣して稼働させた報酬を、知人名義の口座に振込入金させた。

【保険会社等が取り扱う保険にかかる疑わしい取引の届出事例】(追加されたもの)(P. 80)

・架空名義又は借名で締結したとの疑いが生じた保険契約に係る取引

【金融商品取引業者等及び商品先物取引業者が行う有価証券の売買の取次ぎ、商品市場における取引の委託の取次ぎ等がマネー・ローンダリングに悪用された主な事例】(追加されたもの)(P. 84)

・強盗により得た犯罪収益を、親族名義の口座に入金した後、親族名義で開設した FX 口座に証拠金として入金した。

〇資金移動業者が取り扱う資金移動サービス
 【所管行政庁が新たに把握した脅威・脆弱性等】
(P. 95)

・グローバル展開をしている業者において、グローバル共通の手続を制定するにとどまり、本邦法令等に則った取引時確認、スクリーニング、取引モニタリング等を行うための規程・手続の整備が不十分な実態が認められた。

・外部委託先の委託先管理を適切に行っていなかったため、委託先から再委託先、再々委託先に業務が委託されている実態を把握していない事例が認められた。

〇暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産
 【所管行政庁が新たに把握した脅威・脆弱性等】
(P. 100)

・取引モニタリングにおけるシナリオの有効性検証が未実施であったことに起因して、開発要件とは異なる仕様のシナリオが実装されていたことが看過されていたために、異常な暗号資産取引を検知できなかった事例が認められた。

・北朝鮮の国家的関与がうかがわれる、「Lazarus(ラザルス)」といわれるサイバー攻撃集団による暗号資産関連事業者等を標的としたサイバー攻撃については、我が国の暗号資産取引所に対してもなされており、数年来、我が国の関係事業者も同サイバー攻撃集団によるサイバー攻撃の標的となっていることが強く推察される。
これらサイバー攻撃集団は、搾取した暗号資産の移転に際し、ミキサーと呼ばれる技術を利用することでブロックチェーン上の取引履歴をかく乱し、追跡を困難にするとされ、欧米の複数の当局が、ミキシングサービスへの経済制裁措置も課している。

【暗号資産をめぐる国際的動向等について】 (P. 104)
  ⇒ FATFレポート等から国際情勢を記載

【電子決済手段等(いわゆるステーブルコインのうち広く送金・決済手段として利用されることが想定されるもの)及び高額電子移転可能型前払式支払手段への対応】 (P. 138)
  ⇒ 資金決済法等の改正を踏まえて記載

今回のまとめ

今回は、令和3年版から4年版の相違点、拡充点【注目ポイント7選】について、解説しました。

1.「国内犯罪情勢」の記載充実
2.「マネー・ローンダリング事例」の充実
3.「疑わしい取引の届出を端緒として検挙した事件例」の充実
4.「取引形態と危険度」に「マネー・ローンダリングに悪用された主な事例」等が新設
5.「顧客の属性と危険度」に「非営利団体のテロ資金供与への悪用」が新設
6.「顧客の属性と危険度」に法人の制度上の脆弱性等のリスクを記載
7.「 商品・サービスの危険度」に所管行政庁の新たなリスク認識を記載

弊所では、犯罪収益移転防止法やアンチ・マネー・ローンダリングについて、講演・研修活動を通じて、態勢の構築をサポートしています。

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 福田秀喜(行政書士福田法務事務所)

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