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【取引モニタリング・フィルタリング】金融庁ガイドラインが求めるリスクベースアプローチを徹底解説

今回は、「金融庁ガイドライン」が求める「リスクベースアプローチ」のうち、【取引モニタリング・フィルタリング】について解説します。

今回の記事を読むと

■マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン
(金融庁ガイドライン)

■マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問
(FAQ)

■マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題(2022 年3月)

から【取引モニタリング・フィルタリング】について、態勢構築のポイントを理解することができますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。

「取引モニタリング・フィルタリング」は、

個々の顧客に着目する顧客管理の手法

取引そのものに着目し、金融機関等における取引状況の分析、異常取引や制裁対象取引の検知等を通じてリスクを低減させる手法

 この①②を組み合わせて実施し、リスク低減措置の実効性を高める

「リスク低減措置の実効性を確保する手段」

といえます。

1.【取引モニタリング】とは?

「過去の取引パターン等と比較して異常取引の検知、調査、判断等を通じて疑わしい取引の届出を行いつつ、当該顧客のリスク評価に反映させることを通じてリスクを低減させる手法」

 つまり、

「疑わしい取引の届出を行うため、不自然な取引を事後的に検知する手法」をいいます。

そのためには、次の2つが重要になります。

①   職員の気づき

第1線部署の職員に対して、金融庁「疑わしい取引の参考事例」や自組織の疑わしい取引届出事例の分析結果を適時・適切に周知することにより、職員の気づきの感度を上げる取組み

② システムによる検知

パターン分析のためのルールやシナリオの有効性について検証・ 分析の上、抽出基準の改善を図る。

誤検知率を踏まえた、より有効な取引の形態、抽出基準を特定する取組み

2.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】【取引モニタリング】

金融庁ガイドラインでは、【取引モニタリング】について、次の点が求められています。

疑わしい取引の届出につながる取引等について、リスクに応じて検知するため、以下を含む、取引モニタリングに関する適切な体制を構築し、整備すること
イ. 自らのリスク評価を反映したシナリオ・敷居値等の抽出基準を設定すること

◆具体的な対応例

 具体的な対応例は、次のとおりです。

・画一的なシナリオ適用にならないよう、高リスク顧客に対するシナリオと低リスク顧客に対するシナリオを、リスクに応じてそれぞれ適用する。
・ただし、全てリスクに応じて専用シナリオに変更しなければならないわけではなく、画一的に適用する基本シナリオ一部リスクに応じた専用シナリオを適用するという対応も可能

さらに、次の点が求められています。

ロ.上記イの基準に基づく検知結果や疑わしい取引の届出状況等を踏まえ、届出をした取引の特徴(業種・地域等)や現行の抽出基準(シナリオ・敷居値等)の有効性を分析し シナリオ・敷居値等の抽出基準について改善を図ること

この点について、金融庁 2022年4月公表「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題(2022年3月)」には、次の事例が紹介されていますので、自組織の取組状況を確認しておきましょう。

◆取組に遅れが認められる事例

・取引モニタリングシステムのシナリオや検知ルールを当初設定のまま使用しており、シナリオの見直しやリスクに応じた敷居値の設定が行われていない。
・自らの営業地域における犯罪傾向や疑わしい取引の届出実績等に係る分析を行っているものの、分析結果をモニタリングシステム検知基準の見直しや疑わしい取引の判断に係るばらつきの解消といった検知態勢の改善に十分に繋げられていない。

3.【フィルタリング】とは?

「取引前やリストが更新された場合等に、取引関係者や既存顧客等について反社会的勢力制裁対象者等のリストとの照合を行うことなどを通じて、反社会的勢力等による取引を未然に防止することで、リスクを低減させる手法」

つまり、

取引を行う前に制裁対象者等の取引不可先が含まれていないかを職員の目視システムを使って検知する手法」をいいます。

システムを使って検知する際の注意点は、次のとおりです。

あいまい検索機能の適切な設定

② 国連安保理決議等で経済制裁対象者等が指定された場合の遅滞のない対応(制裁対象者指定から24時間以内にリスト照合を可能とする体制)

4.金融庁ガイドライン【対応が求められる事項】【フィルタリング】

金融庁ガイドラインでは、【フィルタリング】について、次の点が求められています。

制裁対象取引について、リスクに応じて検知するため、以下を含む、取引フィルタリングに関する適切な体制を構築し、整備すること

◆「適切な体制」の具体例

具体例は、次のとおりです。

・制裁対象者や制裁対象地域について、アルファベットで複数の表記方法があり得る場合には、スペリングの違いについて幅をもって検索できる「あいまい検索機能」の適切な設定
・制裁リストに複数の名称を登録
・他の顧客の継続的顧客管理措置や取引モニタリング、取引フィルタリング、疑わしい取引の届出調査の過程で把握した情報や公知情報等から入手した取引不可先情報や、システム的に検知し深堀調査を行うためのキーワード等(制裁対象国・地域や制裁対象者でないものの、リスクの高い特定の国・地域名や氏名、団体名等)を金融機関独自の照合リストに追加

さらに、次の点が求められています。

イ. 取引の内容(送金先、取引関係者(その実質的支配者を含む)、輸出入品目等)について照合対象となる制裁リストが最新のものとなっているか、及び制裁対象の検知基準がリスクに応じた適切な設定となっているかを検証するなど的確な運用を図ること

ロ.国際連合安全保障理事会決議等で経済制裁対象者等が指定された際には、遅滞なく照合するなど、国内外の制裁に係る法規制等の遵守その他リスクに応じた必要な措置を講ずること

この点について、金融庁 2022年4月公表「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題(2022年3月)」には、次の事例が紹介されていますので、自組織の取組状況を確認しておきましょう。

◆取組に遅れが認められる事例

・口座を開設している法人について、代表者実質的支配者が個人口座を開設していない場合、その代表者や実質的支配者が取引フィルタリングの対象となっていない。
・制裁者リストが更新された際に、既存口座との夜間バッチ処理による差分チェックを行っているものの、新たな指定から24時間以内での検証が行われていない。
・制裁対象者名や地名では、慣行や非英語名称からのアルファベット変換により複数のスペリングがあるにもかかわらず、取引フィルタリングシステムにおいて、複数候補を検知できるよう、あいまい検索機能が適切に設定されていない。
・取引フィルタリングシステムのあいまい検索機能について、システムベンダーに設定レベルの確認を行っておらず、ベンダー任せになっている。

以上を参考にしながら、実効的な「取引モニタリング・フィルタリング」を実施していきましょう。

弊所では、犯罪収益移転防止法やアンチ・マネー・ローンダリングについて、講演・研修活動を通じて、態勢の構築をサポートしています。

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福田秀喜(行政書士福田法務事務所)

【追伸】

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