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中元節と動物慰霊祭

はじめに

2022年の8月に我々の臨海研究場で中元節の行事が行われました。今回はその様子を解説してゆきます。このNoteは私のYoutubeチャンネルの動画「中元節で供物をささげて冥銭を焚く」のテキスト版です。動画を見る前に内容を確認したい人や、文字情報の方が理解しやすい人は参考にしてみてください。しかし、動画の方が圧倒的に情報量が多いので一度そちらをご覧になられることをお勧めします(下のリンクから飛んでいけます)。

供物とお香

まずは、皆がお香をもって、お祈りをします。毎年、お祈りは、臨海研究場の主任、事務のトップ、そし て、年長者で土地のこういう儀式に詳しい 水道電気管理のオジチャンの3人のリーダーシップで進められていきます。お祈りをすませたあと、各々がお香を祭壇にあるお香立てや供物に刺していきます。これらの供物は各研究室であれこれ買ってきてものです。私たちの研究室のメンバーも前日に買い出しに行って、たくさんお菓子やお茶を買ってきました。それらは祭壇に捧げられています。
 当然、これらのお菓子やお茶は後で、皆で食べまたり飲んだりします。なので、お香を指すときは出来るだけ問題にならない場所に刺していきます。袋や容器に穴が開いたり、お香の灰が食べ物の中に入ったりすると、ちょっと食べるときに困ったことになります。なので、問題にならない部分を狙って刺していきます。
 台湾の中元節は道教に由来する年中行事で夏のこの時期に行われます。
あの世とこの世をつなぐゲートが開くこの時期にすべての霊に食べ物や飲み物などを受けとってもらいましょうという趣旨で執り行われます(Wikiにそんな感じのことが書いてありました)。

冥銭

さて、一通りお香を挿し終わると、次は冥銭を焚きます。冥銭はあの世で使える通貨だそうです。この時期になるとあちこちにありとあらゆるすべての霊がさまよっているということであれば、当然、我々が研究に用いたいろんな生き物の霊もさまよっているであろうと思われるわけです。ならば、この中元節の機会に実験動物の霊も慰めようというわけです。おそらく、日本でもお盆の時期に動物慰霊祭を行っている研究機関や大学があると思いますが、そういう感じです。 
 冥銭にもいろいろ種類があります。最初に、この服や櫛など日常生活用品がかかれた冥銭を焚きます。毎年のことですが、この日常品がかかれた冥銭について尋ねると、現地スタッフは丁寧に説明してくれます。さまよっている霊たちの中には日常生活品に困っている霊もいるかもしれません。なので、それらの霊に先に日常生活品を配る感じです。通貨というよりは商品引換券に近い感じかもしれません。
 ちなみにこちらの臨海研究場の主任はカルフォルニア大学の博士課程を卒業されてカルフォルニア工科大学でポスドクを経験された方です。ちょっと、聞いてみたところカルテクではこういう動物慰霊祭はやっていないということでした。私がポスドク時代に席を置いていたOxford大学の動物学研究室でもこういう動物慰霊祭はやっていませんでした。なので、こういった動物慰霊祭は東アジアの特有の行事なのかもしれません。
 さて、冥銭を焚いていきます。毎年、このような金網で囲いを作って、その中で焚いていきます。火の粉が飛び散ると火災の原因にもなりかねないので、安全には気を使いながら焚いていきます。
 そして、次にこういう小さな金箔や銀箔を張った冥銭を焚いていきます。これは、先ほどの日常生活品がかかれた冥銭と違ってあの世で使う通貨になります。私も皆さんに混じって、冥銭を焚いていきます。冥銭は中国語では「紙銭(ツーチェン)」といいます。「紙のお金」と聞くと「そら、1万円も1000台湾ドルも紙でできているんとちゃいますか?」と不思議な気持ちになると同時に「たしかに、紙幣の歴史は新しい」と改めて気づかされます。

三牲

さて、供物についてももう少し見ておきましょう。お酒のほかにも、イカの干物と、鶏の姿蒸、そして、豚バラ肉の料理の真空パックされたものが置かれています。どうも皆の説明を聞くと、この三つの動物の供物の組み合わせ大事なようです。三牲(さんせん)というようです。尾頭付きの魚、鶏、豚の三つを祭るようです。
 本当はイカの干物の代わりに魚の丸あげを置くようなのです。でも、それだと、さすがに長持ちせずに腐ってしまうので、代わりに保存性の高いイカの干物で代用しているらしいです。

研究機関で中元節を催す意義についての一考察

 この中元節に関しては、私自身の体系的な知識が不足しているのに対して、行事の中に詰め込まれた情報量が圧倒的に多いので、毎度何がおきているのかよくわからず、謎が深まるばかりです。
 しかし、自分なりにこうした行事の意義を考察してみました。おそらく、中元節の年中行事は、この地域の人たちの伝統的な生命観や倫理観を理解し、自分たちの研究活動との関係を再確認する機会になっているのだと思います。たしかに、地元の人たちの協力が無いと研究がすすめられないので、相互理解の良い機会と言えます。
 あと、もっと、現実的な効用として、日頃あまり会うことがないほかの研究室のメンバーとも交流を図る機会にもなっています。

まとめ

 はい、皆さんの協力で中元節。終えることができました。また、こうした地元の行事についても解説してゆきますので、興味のある方は次の機会をお待ちください。それではまた。


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